GO TODAY SHAiRE SALON代表取締役の大庭邦彦氏(左)と取締役の大池基生氏(右) 画像提供:GO TODAY SHAiRE SALON
  • 連続起業家と現役美容師が出会い、始動
  • “指名制”が奏功、コロナ禍でも過去最高益を更新
  • “持たざる経営”を選択肢のひとつに

スタイリストになって、お客様の髪をカットしたい──毎年、2万人ほどの美容学生が憧れを抱き、美容業界で働き始める。しかし、多くの人に待ち受けているのは厳しい現実。スタイリストとして現場に立ち、お客様の髪をカットするにはアシスタントを数年ほど経験しなければならないほか、お客様から指名されるほどの技術を身につけなければならない。

理想と現実のギャップに苦しみ、美容業界で働き始めたものの、すぐに離職の道を選んでしまう人は少なくない、実際、美容師は5年以内に80%が離職すると言われている。

そんな美容師の働き方を変えようとしているスタートアップがある。それがコミュニティ型シェアサロンプラットフォーム「GO TODAY SHAiRE SALON(ゴウトゥデイ シェア サロン)」を展開する、GO TODAY SHAiRE SALONだ。同サービスは登録する美容師に個室空間と設備を貸し出すことで、フリーランス美容師として働くことを可能にするもの。

また場所だけでなく、フリーランス美容師としての働き方やノウハウ、経験談などの現場で役立つ情報がコミュニティ内で共有される点も大きな特徴だ。

2017年11月に1号店を原宿に出店してから、2年半で全国15店舗を展開。月額契約で200人強、スポット契約も合わせると600人以上のフリーランス美容師が登録し、月間来店者数は9000人以上、月間流通額は約1億円を記録するなど、右肩上がりで成長を続けている。

そのGO TODAY SHAiRE SALONが8月24日、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)およびW venturesらを引受先として、総額10億円を調達したことを明らかにした。これで同社の累積調達額は約13.5億円となった。

今後は独自の予約/決済モバイルアプリ開発に加えて、美容師向けSaaSや自社開発のヘアケアプロダクトなども視野に入れた投資を行うほか、2024年9月を目処に全国で計65店舗展開を目指し、美容業界の新たな働き方、DX推進に取り組んでいく。

連続起業家と現役美容師が出会い、始動

GO TODAY SHAiRE SALONの創業は2016年10月。代表取締役の大庭邦彦氏は美容業界で初めて成果型手数料を導入した美容室検索ポータルサイト「美美美コム」を運営する美美美コムを2007年に立ち上げ、2014年に楽天に売却した経験を持つ人物。7年ほど美容業界で働く過程で、大庭氏は旧態依然とした業界の仕組みに気づく。

「インターネット広告を掲載して、お客様と美容室をつなげたとしても、お互いにあまり良い結果になっていないんですよね。お客様は初回限定の割引クーポンを使って美容室に新規客として足を運び、一方で美容室は広告を掲載しないと集客ができないから仕方なく広告を掲載している。この仕組みは健全ではないな、と思いました」(大庭氏)

そんな大庭氏と同じように美容業界に課題を抱いていたのが、取締役の大池基生氏だ。大池氏は美容学校を卒業した後、大手サロンに就職。アシスタントの経験を経て、スタイリストになり、9年ほど働いたタイミングでフリーランスの美容師として独立した。現在は会社の取締役を務めるかたわら、現役の美容師としても働いている。

大手サロンから独立後、大池氏は先輩の美容師が経営する美容室の1席を借り、フリーランスとして働く中で、これまでに感じなかった“楽しみ”を感じたと言う。

「約1年ほど、ブログでお客さん集客してカットする日々を続けたのですが、それが本当に楽しかったんです。多くの美容師が5年で辞めてしまうのは、お客様にサービスを提供して『ありがとう』の一言をもらうまでに時間がかかりすぎるからだと思います。ただ、フリーランスとして独立すれば、その一言を早いタイミングでもらえるかもしれないので、美容師がフリーランスとして働く場所を提供するのは良さそうだと思ったんです」(大池氏)

バックグラウンドは異なるが、同じ課題意識を持った「連続起業家」と「現役美容師」が出会い、GO TODAY SHAiRE SALONはスタートした。

GO TODAY SHAiRE SALONの原宿本店 画像提供:GO TODAY SHAiRE SALON

“指名制”が奏功、コロナ禍でも過去最高益を更新

2017年11月、原宿に1号店を出店してから、現在までに15店舗を展開。また、登録する美容師も多種多様な人たちが集まっており、例えば美容師をやりながらYouTuber(ユーチューバー)として配信を行ったり、飲食店を展開したりする人がいる。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年4月の中旬から下旬まで3週間ほど休業していたが、大庭氏によれば「休業の影響も軽微だった」とのこと。

「GO TODAY SHAiRE SALONはほとんど指名客なので、お客様と美容師それぞれに安心感があったこともあり、5月に再オープンしてから9割のお客様も戻ってきましたし、6月には過去最高益も更新しました。7月も同じくらいの数字を出せています。エンゲージメントが強い業態なので、コロナ禍でも力強く事業を進めていけるな、と感じました」(大庭氏)

総流通額(GMV)は前年同月比350%ペースで推移しており、2020年3月に月次のGMVが1億円を突破している。その頃に計画していた新規店舗の出店は新型コロナの影響もあり、一時ストップしていたが、9、10月頃から再始動させていくとのこと。具体的には、2024年9月を目処に新たに50店舗をオープンし、全国で合計65店舗の運営を目指していく。

「コロナ禍で改めて美容室の必要性を自分自身が感じることができました。みんな髪は伸びるのですが、自分でカットできないですし、美容師をデリバリーできるわけではないので、重要な役割を担っていたんです。それが結果的に6月の過去最高益という数字にも表れているのかなと思います」(大池氏)

“持たざる経営”を選択肢のひとつに

創業から粛々と店舗数を増やしてきたGO TODAY SHAiRE SALONだが、今後は予約・決済ができる独自のアプリを2020年秋頃に提供していく。

「やはり美容師は職人です。彼らがお客様へのサービスに集中してもらえるよう、周辺の困りごとをGO TODAY SHAiRE SALONがバックアップできるようになれば、競合との優位性も出てくると思っています」(大庭氏)

最初は予約・決済の機能から提供していくが、今後は材料発注、確定申告など、フリーランス美容師が必要としているものを全部提供できるようにすることを目指す。また、CCCから調達したことで、将来的にはCCCが保有するTポイントとの連携なども考えられる。

「個人事業主の美容師は“持たざる経営”が一番良いと思っています。“店舗”という重いアセットを持ってしまうと、そこに縛られてしまう。美容師はまだまだ自分のお店を持つことに夢を抱く人は多いですが、GO TODAY SHAiRE SALONに登録して、フリーランスの美容師として働く選択肢がもっと普及していけばいいな、と思っています」(大庭氏)