アパレルECプラットフォーム「BRANDIT system」 画像提供 : BRANDIT
アパレルECプラットフォーム「BRANDIT system」 画像提供 : BRANDIT
  • EC運用に必要な各データを一箇所に統合
  • アパレルの悪しき文化「売り上げ至上主義」を変えるECシステム
  • 「攻めのEC」を実現する新しいアプリケーションも計画

受注、原価、チャネル別の手数料、販売開始日、配送データ、出荷売上──。どれもアパレルECを展開する上では重要なデータだが、これまで多くの事業者は各データを管理するために複数のツールを使い分けてきた。

こうした情報が一箇所に集約されれば、業務の効率化に繋がるだけでなく新しい気づきを得ることもできるのではないか。そんな考えから開発されたのがECプラットフォームの「BRANDIT system」だ。

同サービスを展開するのは2019年9月創業のBRANDIT。動画事業などを展開するCandeeからスピンアウトする形で設立されたスタートアップだ。

そのBRANDITは8月24日、さらなる事業拡大に向けてギークス、DIMENSION、三菱UFJキャピタルを引受先とした第三者割合増資により総額1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

EC運用に必要な各データを一箇所に統合

現在BRANDITではD2Cブランド事業とD2Cソリューション事業の大きく2つの方向性でビジネスを展開している。

前者はCandeeから引き継いだもので、インフルエンサーを起用したD2Cブランド「TRUNC 88」を運営。後者はBRANDITが今回の調達資金を活用して今後さらに力を入れていく領域で、その主軸になるのが6月にローンチしたBRANDIT systemだ。

BRANDIT systemは複数のツールに散らばっていた情報を一箇所に統合する

冒頭で触れた通り、多くのアパレル事業者は事業を運営するにあたって必要な情報を複数のツールを使って管理している。たとえば受注金額は「販売管理システム」、原価や利益に関する情報は「在庫管理システム」、出荷予定日などは「WMS(倉庫管理システム)」といった具合だ。

BRANDIT代表取締役CEOの鍛治良紀氏によると、アパレルでは役割や業務が細分化されていることもあり、各担当者が「異なる方向を向いて、バラバラのツールを使いながら、異なる数字を追いかけている」状態になりやすいのだという。

BRANDIT systemの特徴の1つは、それらの情報を一カ所に統合することで全員が必要な情報に直接アクセスでき、業務効率化に繋がること。同サービスに各担当者が保有している情報を順々に入力することで、アイテム単位の詳細なデータベースが作成される。

具体的にはまずMDや生産担当者が、商品の予定原価や販売予定価格、品番などを入力。それに続くように、ウェブ担当者やロジスティクスの担当者が詳細な商品情報、入出荷のデータなどをアイテムごとに追加していく。

これらの情報はWMSと自動連携できるほか、表側のECサイトにも反映される。一連の業務が1つのサービス上だけでできるので「大幅な業務改善が見込める」(鍛治氏)という。

アパレルの悪しき文化「売り上げ至上主義」を変えるECシステム

また鍛治氏はデータを集約することで、業務効率化に加えて「今までにない気づきが得られる」とも話す。

BRANDIT system上にはアイテムの原価や仕入数、在庫、売上など全ての情報がたまっていくので、粗利なども全員がすぐに把握できるようになる。ZOZOTOWNやSHOP LIST.comなどのプラットフォームでの販売情報をCSV形式で登録しておけば、各サイトの手数料情報も加味した上で「チャネル別の粗利」まで自動で算出される。

「アパレル業界の悪しき文化として、売り上げ至上主義で『売上のトップラインさえ伸ばせればいい』と考えがちです。ただ経営の観点では粗利をどれだけ出せているかが非常に重要。それを誰もが、簡単に見られるような環境が必要だと考えました」(鍛治氏)

特徴的なのが、アイテムごとに損益分岐点を超えているかどうかがひと目でわかる「勝ち負け表」を搭載していること。複数のカラーバリエーションが存在する商品であれば、色ごとにも「この商品が勝ったのか、負けたのか」を一瞬で把握できる。

BRANDIT systemではアイテムごとに勝ち負けがわかる
BRANDIT systemではアイテムごとに勝ち負けがわかるほか、チャネル別の粗利なども自動で算出される

「勝ちの到達日数」も見られるため、筋がいい商品であれば追加発注をするのもいいし、逆に負けてる商品は時期を見て値下げすることも視野に入れるべきかもしれない。そんな意思決定をするための“気づき”を与えてくれるのが、BRANDIT systemを使うメリットだという。

「今まではなんとなく感覚でやっていたことを、データをもとに論理的に打ち手を組み立てられるようなツールになっています。自分たちが大事にしているのが『気づきを得られるECシステム』であること。いろいろなポジション、視点で使っているユーザーの方に対して、どれだけ新しい気づきをもたらせるかを意識しながら開発を進めてきました」(鍛治氏)

利用料金は初期費用のほか、売上の11%が月額のシステム利用料として必要。倉庫を利用する際にはロジスティクスサービスの利用料が別途発生する。すでに1ブランドが導入しているほか、6ブランドで今後導入予定だという。

「攻めのEC」を実現する新しいアプリケーションも計画

鍛治氏はかつてサイバーエージェントなどのIT企業を経て、アパレルブランドを展開するMARK STYLERで働いていたことがある。

同社にはファッションや流行に詳しい反面、データや数字に抵抗があるメンバーも多く、売れている商品の分析をするにも「可愛いから売れている」という話になることも多かったそう。その時の経験を活かして、BRANDIT systemではビジネスライクな会話が苦手な人でも直感的にわかるUIや指標を考えながら開発を進めた。商品ごとの勝ち負けを◯と╳で示した勝ち負け表はその代表例だ。

前職のCandeeでも執行役員としてライブコマースやブランドビジネスを担当。BRANDIT systemには、鍛治氏の豊富なEC領域での経験や知見も反映されている。

今後はTRUNC 88に続くプライベートブランドの展開に加えて、BRANDIT systemの機能拡張も予定しているとのこと。すでに実装済みのECシステムや在庫管理システムだけでなく、マーケティングツールやカゴ落ち対策ツールなどのアプリケーションを増やし、ユーザーが好きなものを追加できるような仕組みを考えているという。

「従来は1つ1つのツールを自分でセットアップする必要があり、その度に追加で費用がかかることがほとんどでした。BRANDIT systemではCRMなど攻めの施策に使えるツールも拡充していった上で、それすらも11%の手数料で全て使えるようにしたいと考えています。このサービス1つあれば必要な機能がそろって完結する。そんなプラットフォームを目指していきます」(鍛治氏)