
- 4年半、ハードワークを続けた会社員時代
- 海外へ一人旅することで知った「予防医学」の考え
- 「何の野菜を摂ればいいかわからない」を解決
- 今後は第2弾、第3弾の新商品も
1日当たり350g以上──この数字は厚生労働省が推進する、21世紀における第二次国民健康づくり運動「健康日本21(第二次)」で推奨されている、成人の野菜摂取量の目標値だ。1日に5皿(おかず1皿=70g)の野菜料理を食べれば目標値はクリアできるが、現状ほとんどの人が目標値をクリアできず、“野菜不足”の状態に陥っている。
実際、厚生労働省が発表している「国民健康・栄養調査(平成30年)」の結果によれば、野菜摂取量の平均値は281.4g。また、年齢別に見ると20~30歳代の数値が著しく低く、男性の摂取量は約260g、女性の摂取量は約240gと目標値を大きく下回っている。
そうした中、自宅で手軽に野菜やフルーツを摂取できる手段として、20代後半~30代の女性を中心に人気を博しているサービスがある。それが定額制のパーソナルスムージー「GREEN SPOON(グリーンスプーン)」だ。
GREEN SPOONは、5つのカラダの悩みと5つの生活習慣を答えるパーソナルテストによって、一人ひとりの身体や生活習慣に必要な栄養素を特定。それをもとに60種類以上の野菜やフルーツ・スーパーフードから配合した、全25種類のレシピの中からユーザーごとに最適なスムージーを毎月、自宅に届けるサービス。カットされた野菜やフルーツが冷凍された状態で届くので、水か牛乳を入れてミキサーで混ぜるだけでスムージーが完成する。
価格は毎月8個プランが月額7200円、毎月12個プランが月額10500円、毎月20個プランが月額16800円となっている。
2020年3月に発売してから、約5カ月で累計契約者は6300人を突破。また、7月の売上高は発売開始直後の4月と比較して約3倍を記録するなど、右肩上がりで成長を続けている。そんなGREEN SPOONの運営元であるGreenspoonは9月3日、Heart Driven Fundと泉州屋のほか、個人を含む投資家から総額1.8億円の資金調達を実施したことを明かした。
今回調達した資金は購買層拡大に向けたマーケティング強化のほか、新商品の開発および商品改良、そして法人向けの事業展開に向けた採用強化に充てる予定だという。
「もともと、自分は健康的な食生活とは無縁の世界にいました。会社員だった頃は野菜を食べる機会がほとんどなく、それこそ毎日高カロリーなコンビニ弁当を食べたり、ホットスナックを食べたりするなど、不健康な食生活を送っていました」

過去をこう振り返るのは、Greenspoon代表取締役CEOの田邊友則氏だ。野菜とは無縁の日々を送っていた男がなぜ、定額制のパーソナルスムージー事業を立ち上げることにしたのか。その裏側にある思いを田邊氏に聞いた。
4年半、ハードワークを続けた会社員時代
田邊氏のキャリアはサイバーエージェントから始まる。2012年に新卒で入社し、まずはグループ子会社のCyberZに出向を志願し広告営業、広告運用コンサルタントとして2年ほど働く。その後、彼はサイバーエージェントに帰任し、インターネット広告事業本部で「アメーバブログ(以下、アメブロ)」のマネタイズ(収益化)に取り組む。
例えば、コンテンツになじませたフォーマットで広告を配信する「AmebaInFeedAd」は田邊氏がプロダクトマネージャーを務め、立ち上げた。当時アメブロのマネタイズ方法は純広告のみだったが、AmebaInFeedAdによって運用型広告によるマネタイズが実現した。
その後、彼はインターネットテレビ局「ABEMA(旧:AbemaTV)」の立ち上げに携わり、ゼロの状態からスポーツ局を組成。2016年4月にサービスをローンチできたものの、半年が経ったタイミングで4年半勤めたサイバーエージェントを退職する。
「サイバーエージェントでの仕事はすごく楽しかったんです。特にABEMAのリリース前後は部署全体が異常な熱気に包まれていれ、無我夢中で働いていました。ただ4年半ハードワークを続けていたので、けっこう疲れていたんです。それで一度何も考えない時間が欲しいなと思い、退職後のプランも決めずに会社を辞めることにしました」(田邊氏)
次は何をするか考える中で、田邊氏はセブ島への英語留学事業を手掛けている人を紹介してもらう機会があり、それをきっかけに2週間のセブ島留学を決意。セブ島で英語を勉強していた田邊氏だったが、現地で出会った韓国人から言われた「なぜ日本人は身体を鍛えないの?」という言葉にハッとさせられる。
「会社で働いていた頃は、とにかく仕事、仕事、仕事の毎日で身体を鍛える時間をとったことはありませんでした。でも韓国の人たちはライフワークとして当たり前のようにトレーニングしている。彼らの影響を受けて自分も週6でトレーニングしてみたら筋肉もつき、結果的に自分に少しだけ自信を持つことができたんです」(田邊氏)
そこで自分の身体をマネジメントすることの大切さを知った田邊氏は、セブ島から帰国後もトレーニングをライフワークとして取り入れる日々を過ごす。
海外へ一人旅することで知った「予防医学」の考え
帰国後は広告運用、制作のフリーランスとして働きながら、起業のアイデアを考えていた田邊氏だったが、手応えのない日々が続く。「ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家に事業アイデアを話してみては打ち返されていました」と彼は語り、起業する覚悟も決まらず、フリーランスとして働き続けることに。そんな田邊氏だったが、旅好きの友人に影響され、悶々と悩み続ける自分と向き合うため、海外へ一人で旅することを決める。
スペインやフランス、アメリカ、オーストラリアなどの国を訪れ、各国の人たちと話をする中で田邊氏が感じたのが「予防医学」の意識の高さだった。
「日本は保険制度が整っており、医療費は3割負担のため何かあったら病院に行く“治療医学”の思想が強いのですが、海外では医療費が高額なため“予防医学”の思想が強いんです。多くの人がライフワークとしてトレーニングを取り入れていますし、また野菜やフルーツを多めに摂るなど、食事に対して意思を持っています」
「ただ、日本は忙しい人ほど食事に意思がなく、お腹が減ったら近くのコンビニに行ってお弁当を買ったり、ファストフードを食べたりしている。身体が一番の資本のはずなのに多くの人が身体のマネジメントをできずにいます。一方、海外の人たちは予防医学の意識から自分の身体をきちんとマネジメントしていて、結果的に身体も健康であると同時に心も豊かになっているんです。そんな日本と海外のギャップに気づき、日本でも日々の食事を気遣い、身体のマネジメントをする人が増えるべきだと思いました」(田邊氏)

約1年半の一人旅を終えた後、田邊氏はInstagramに投稿した写真に商品をタグ付けした専用ページを簡単に生成できるツール「ONE BUY ONE(ワンバイワン)」を開発。大手アパレル会社からツール導入の口頭受注をもらうなど、それなりの需要を見込んでいたが、インスタグラムが投稿画像から直接ECサイトで購入ができるショッピング機能「Shop Now(ショップナウ)」を日本でも導入したこともあり、事業の撤退を余儀なくされる。
思わぬ形で会社を畳むことなった田邊氏が、次なる挑戦としてスタートさせたのが“ブランドづくり”だった。彼はこのように語る。
「世界に通用するブランドをつくりたい思いは持っていました。例えば、自分はAesop(イソップ)のシャンプーで髪を洗ったり、BOSE(ボーズ)のヘッドホンつけて音楽を聴いたりすると、すごくテンションが上がるんです。こうした『嬉しい』や『楽しい』という気持ちはすごく価値だと思っていて。目には見えないけれど、エモーショナルな価値を創出できるブランドを自分もつくってみたいと思ったんです」
「新卒でサイバーエージェントに入社していながら、テック系にはあまり興味がなかったんです。手段としてテクノロジーはすごく便利ですし、世の中を推し進めるもので自分も享受を受けているので素晴らしいと思いますが、テクノロジーを軸にして走っていくイメージが明確に持てませんでした。リアルなものが好きだったんです」(田邊氏)
自分自身が“食事”が大好きだったこと、そして海外への一人旅で知った“予防医学”の考えから、身体と心のケアができる食のブランドを作ることを決める。
そんなタイミングで田邊氏は知人の紹介を通じて、創業期の投資・支援に特化したVC「Full Commit Partners」の山田優大氏と出会う。その頃、山田氏はD2C事業に挑戦する起業家を探しており、出会うや否やすぐに意気投合。田邊氏は山田氏と事業構想について話し合い、2019年5月にGreenspoonを創業し、6月にはシードラウンドで3990万円の資金調達を実施した。
「何の野菜を摂ればいいかわからない」を解決
とにかく自分が欲しいものを作ろう──そんな思いのもと、田邊氏が最初の商品として開発することに決めたのがパーソナルスムージーだった。
「スムージーを飲んでいれば野菜が摂れてる実感があったので、海外にいた頃からよくスムージーを飲んでいたことは大きく影響しています。それに加えて、周りの友達たちにスムージーを飲んでいる理由を聞いてみたら、9割くらいの人が『野菜の栄養素を摂りたいから』と言うんです。でも世の中には葉物を使用したグリーンスムージーしかない。野菜の栄養素を摂りたいなら、他の野菜(トマトやさつまいも、かぼちゃなど)を主役にした野菜ベースのスムージーがあってもいいと思ったんです」(田邊氏)

また、健康の悩みや生活の課題は人それぞれ異なる。そこで1人1人が適切な栄養を摂取できるように“パーソナライズ”の仕組みを取り入れることにした。
「多くの人は『野菜を摂らなければいけない』と思っているものの、何の野菜を摂ればいいか分からないんです。であれば、生活課題と身体の悩みからパーソナライズされたスムージーを提供すれば、必要な野菜の栄養素が摂取できると思いました」(田邊氏)
そした田邊氏は管理栄養士による監修のもと、60種類以上の野菜やフルーツ・スーパーフードから配合した、全25種類のレシピを考案。

その後、アルコールブライン凍結機による「急速冷凍機」を保有する、高品質青果物の仲卸業者「泉州屋」にOEM生産を依頼し、2020年3月にGREEN SPOONをリリースした。
今後は第2弾、第3弾の新商品も
「野菜やフルーツを自宅で簡単に摂ることできる」「食事の置き換え=1食分の食事として楽しめる」といった点が人気を集め、リリースから5カ月で累計契約者は6300人を突破。7月からは3カ月連続で期間・個数限定の新レシピ1種(計3種)を連続リリース、8月には伊勢丹新宿店にてポップアップストア「THE FROZEN CLINIC」をオープンした。
また、毎月決まった個数が届くサブスクリプションプランの購入者が全体の85%を占めるものの、Greenspoonは「冷凍庫内でより効率的に収納したい」というユーザーの声をもとに従来のカップタイプと比較して薄さを約1/3にしたパウチタイプの販売を開始している。
「新型コロナウイルスの感染拡大による在宅時間の増加で、自宅で野菜を摂るためにGREEN SPOONを利用し始めた人は多いと思いますが、個人的にコロナ禍で伸びたわけではないと思っています。女性の社会進出や高齢者世帯の増加で宅食や冷凍食品の市場は伸びていますし、ここ数年でヘルスケアの意識も高まっている。GREEN SPOONは『ヘルスケア×宅食×冷凍食品』をミックスした市場をとらえることができているので、サービス開始後から数字が伸びていっているのかと思います」(田邊氏)
現在は「スムージーブブランド」を展開しているGREEN SPOONだが、田邊氏は「自分たちはスムージーブランドだけで終わるつもりはありません」と言う。会社のミッションである“たのしい食のセルフケア文化を創る“ことを目指し、今後、第2弾、第3弾の商品を順次リリースしていく予定だ。