
「リアルビジネスに関しては、変革の余地がまだまだある。だからこそ、テクノロジーを使って、リアルの生活を良くしていきたいと思ったんです」
メルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」取締役CPO(最高プロダクト責任者)を務めた松本龍祐氏が新会社「カンカク」を設立。東京・北参道に完全キャッシュレスカフェ「KITASANDO COFFEE」をオープンしたのは、今から約1年前のこと。
2020年2月には2店舗目となる「TAILORED CAFE(テイラードカフェ)」を東京・麻布十番にオープンし、同時に月額3800円でスペシャルティコーヒー(1杯400円)が毎日楽しめ、ドリンクメニューが全品200円引きになる定額プラン「メンバーシップ」を専用のモバイルオーダーアプリ「COFFEE App」でリリース。コロナ禍の影響もありながら、約半年ほどで累計会員数は1000人を突破するなど順調に会員数を増やしている。
また、2020年6月には新たに夜パフェブランド「parfait✕parfait(パフェパフェ)」のオンラインショップを立ち上げ、D2C領域に参入するなど、この1年で事業を拡大させてきた。

カンカクは成長の勢いを加速させるべく、新たな動きに出た。同社は2020年9月7日、ジェネシア・ベンチャーズ、Coral Capital、Heart Driven Fund引受先として、シリーズAラウンドで総額3.5億円の資金調達を実施したほか、アンケートに回答するだけで16種類のコーヒー豆から自分の好みに合った味が見つかる、コーヒー豆のカスタマイズオンラインショップ「Cottea(コッティ)」を運営するCotteaをM&Aにより事業買収したことを明かした。買収額は非公開。
「メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎は、シリアルアントレプレナー(連続起業家)で、自己資金だけでもある程度の事業ができたはずなのですが、メルカリを創業してすぐに事業の成長スピードを早めるために資金調達していました。その山田さんから『資金調達はできるなら早めにやった方がいい』という話は聞いていたのですが、自分が今の事業に確信を持てるようになった段階で資金調達を実施しようと思い、結果的にこのタイミングで初めて踏み切りました」(松本氏)
松本氏によれば「ブランドの統合に関しては検討している段階」とのことだが、Cotteaはカンカクの組織に加わり、一体となって経営していくという。
今後、カンカクは事業投資、採用、飲食業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に注力。具体的には2021年春頃までを目処に渋谷と六本木で新店舗の出店するほか、サブスクおよびECを拡充。また、エンジニア・デザイナー・PM(プロジェクトマネージャー)などの職種を中心に採用を押し進め、またさまざまな領域の企業との提携を視野に入れながら、飲食業界のDX推進に取り組んでいく。
「どうしたらOMO(オンラインとオフラインの融合)を実現できるかを考えていたとき、自社でつくったコーヒーが店舗で飲めて、同じものがシームレスにECで購入できる。そんな世界観をつくる必要があると思ったんです」(松本氏)
今から約1年前に立ち上がったカンカク。「将来的には自社でコーヒー豆のオンラインショップを立ち上げたい」と考えていたそうだが、事業を運営していく過程で、戦略の方向転換が求められた。コーヒー豆の焙煎は湿度や気温などで毎日変化する。そのため、実際に毎日豆の匂いを嗅ぎ、調整をする職人が必要だ。また、設備投資も相応に必要であるとわかり、「自社での立ち上げに尻込みしてしまった」と松本氏は語る。
そうした中、知人の紹介を通して6月末にCotteaの経営陣と知り合い、一気に買収の話を進める。交渉開始から、およそ2カ月で買収の実現に至った。
「お店のメインメニューが店頭、ECどちらでも購入できる状態をつくれなければ、自分が考えるOMOは実現できません。Cotteaはすでに約16種類のシングルオリジンと約10種類のブレンドのコーヒー豆を提供していて、彼らと一緒になることでカンカクはECのチャネルができますし、一気に十数種類のオリジナルのコーヒー豆を提供できるようになる。それがすべてサブスクで同じ料金で飲めたら、非常に面白いのではないか思いました」(松本氏)

最近では、診断結果をもとに自分専用のコーヒーボックスがポストに届くコーヒーの定期便「PostCoffee(ポストコーヒー)」などのサービスも出てきている。そうした動きも踏まえた上で、松本氏は「カンカクが提供するサービスは店舗で飲んで気に入ったコーヒーが自宅でも楽しめるところにあります」と語る。
Cotteaで提供されているコーヒー豆はもちろんのこと、今後は一緒に商品開発を進めていく。「どのチャネルでも良い商品が提供できるかを軸に、サービスの拡充も進めていく予定です」と松本氏は語り、そのために人材の採用も積極的に進めるという。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令されていた4〜5月頃は売り上げが悪化したが、現在、店舗の売り上げはコロナ前を超えるなど、影響はほとんどなくなってきている。「プラットフォームとして店舗やECをやりつつ、いろんなスイーツのブランドを立てていく。そんなイメージで事業を進めていきます」と松本氏は語る。
カンカクの立ち上げと同時に、イタリアンレストラン「ラ ブリアンツァ」をオープンした実績を持つシェフの奥野義幸氏と共同で完全キャッシュレスの低糖質ピザ専⾨店「SONOBON(ソノボン)」を立ち上げた松本氏だが、同店はすでに閉店している。
松本氏は「商品がすごく美味しかったのですが、原価のコントロールが想像以上に難しかった。たくさん商品を売らないといけないモデルだったので、1日2回転させていたのですが、売れないとすべてロスになっていました。であれば、ロスにならないような商品構成や商品を変える議論ができればよかったのですが、現場のチーム組成がうまくできず、奥野さんと自分もお互いに別の事業をやっていたので、店舗を閉じることになりました」と当時を振り返る。
ただ、そのときの経験が今の商品開発に生かされているという。現に、カンカクは季節ごとに新しいドリンクメニューやフードメニューを増やしている。またparfait✕parfaitの立ち上げも、その経験があったから出来たことだろう。

初の資金調達に踏み切ったほか、Cotteaを事業買収したことでEC事業を強化に加え、店舗運営との連携および店頭商品の拡充に取り組んでいくカンカク。
「今後は積極的な事業投資と採用活動を行い、店舗運営とサービス開発を通して、これまでにない新たなカフェ体験の提供と飲食業界のDX推進に取り組みます」(松本氏)