情報共有ツール「Stock」 すべての画像提供 : Stock
チームの情報を簡単に残せる情報共有ツール「Stock」 すべての画像提供 : Stock
  • ノート単位で必要な情報をサクサク蓄積
  • 既存ツールは「複雑でわからない」「面倒で続かない」
  • 社内ツールとして誕生、プロトタイプは30戦29敗

チームの情報を簡単に残せる方法がない──。そのような課題感から開発されたチーム向けの情報共有ツール「Stock」がじわじわと規模を拡大している。

Slackやチャットワーク、LINEといったチャットツールではコミュニケーションのスピードが早く、大事な情報が流れっていってしまう。かといってDropboxやGoogleドライブを使って管理するほどのものではない。そんなシーンで役に立つのがStockだ。

同サービスではブラウザやモバイルアプリを通じて“ノート単位”で重要な情報をサクサク蓄積することが可能。機能やデザインはかなりシンプルだが、その分ITに慣れていないユーザーでも使いやすく、非IT系の企業を中心に5万社以上に導入されている。

開発元のStock(9月にリンクライブから社名変更)では今後さらなる事業拡大に向けてプロダクト開発やマーケティング体制を強化していく計画。そのための資金源として、複数の投資家からシードラウンドで1億円の資金調達を実施した。

今回同社に出資したのはDNX Ventures、East Ventures、マネーフォワード、インフキュリオン・グループのほか、ラクスル取締役CFOの永見世央氏やスペースロケットファウンダー代表取締役の鎌田大輔氏を含む複数のエンジェル投資家たち。2014年の創業から自己資金で運営してきたStockにとっては初の外部調達となる。

ノート単位で必要な情報をサクサク蓄積

Stockではノート単位で情報を記録・蓄積していく
Stockではノート単位で情報を記録・蓄積していく

冒頭で触れた通り、Stockはチームのストック情報を残していく際に使える情報共有サービスだ。主な機能は3つ。メインとなるノート機能と、それに関連してタスクを管理したりメッセージをやり取りしたりするための機能が搭載されている。

残したい情報をノート単位でストックするのがStockの基本的な使い方。作成したノート1つ1つにはワンクリックでタスクとメッセージを設定することも可能だ。ノートとタスク・メッセージが紐づいた形で管理できるため、対応漏れや不要な話題が入り乱れることも少ない。

もちろんノートを横断してタスクを可視化する仕組みもあるので、担当者ごとや期限日ごとにタスクをチェックしたい時にも使える。

ノートに紐づけてタスクを管理することが可能
ノートに紐づけてタスクを管理することが可能
ノート別にメッセージのやりとりもできる
ノート別にメッセージのやりとりもできる

そのほかにもフォルダごとにメールアドレスを設定し、特定のアドレスに届いたメールを自動でStockに保存する「メール連携」機能を実装。Slack上の投稿をワンクリックでストックするための「Slack連携」機能も備えられているので、Slackの会話で良いアイデアが生まれたり、後で見返したい議論がなされたりした場合にはStockに取り込むことで、チームの資産として蓄積することもできる。

IT業界でさまざまなツールを使いこなしている人にとっては機能面で物足りなく感じるかもしれないが、“あえて機能を絞る”ことでITの専門知識がない人にもわかりやすい設計になっているのがStockの特徴。ある学習塾では65歳のスタッフが何の説明もなしで使いこなしているほか、高校生や大学生のユーザーも複数人存在する。

料金体系は利用人数に応じた月額定額制で、たとえば5人以下のチームの場合は月額1980円となる。ノートの数やストレージの容量に制限はあるものの無料から使い始めることも可能だ。

いわゆるフリーミアムモデルを採用したことで、広告費なしでも口コミ経由で継続的なユーザー獲得に成功。ベータ版をローンチした2017年9月から約3年で5万社以上に導入されるまでに成長した。

Stockで代表取締役社長を務める澤村大輔氏によると、実に有料ユーザーの9割が非IT企業なのだそう。業種や業界問わず、税理士事務所からメーカー、医療機関、小売企業、広告会社、建設会社、市役所と高校の共同プロジェクト、大学の研究室など幅広いシーンで活用が進んでいるという。

Slackと連携して、残しておきたい投稿をワンクリックでストックできる機能も搭載
Slackと連携して、残しておきたい投稿をワンクリックでストックできる機能も搭載

既存ツールは「複雑でわからない」「面倒で続かない」

多様なシーンで使われているStockだが、結局のところユーザーのペインは「チーム内で情報を簡単に残せる手段がなくて困っている」という点に集約されると澤村氏は話す。

たとえば10人ほどの社員が所属する内装工事会社では「田中さんの家の水道が壊れた」「鈴木さんの家の屋根が破損した」といった案件情報を、写真と共にすべてLINEで共有していたそう。ただLINEでは各案件ごとのやりとりが混ざってしまい、重要な情報がわかりづらくなってしまうことが大きな課題だった。

そこでカジュアルなコミュニケーションはLINEに残し、各案件の情報はStockにノート単位で管理する形に変えた結果、業務が円滑に進むようになったという。

情報共有に力を入れている企業ではExcelやGoogleドライブ、Dropboxなどを使っているところも多いが、毎回それらのサービスを開いて情報を記入していくのは現場のスタッフとしても楽ではない。試しに始めてみても「更新されない」「情報が見辛い」という新たな壁に直面することもよくある。

「今までどのように情報共有をされていたのかを実際に聞いてみると、チャットツールとファイル共有ツールを組み合わせて対処していた方々が多いです。(Stockと)同じような使い方ができるサービスは存在しますが、非IT企業の人にとっては『マークダウン(記号を用いてプレーンテキストをHTMLのようにリッチな表現にする言語)』という言葉が入ってくるだけでも難しい印象を持たれてしまう。Stockのユーザーはリッチな機能はいらないから、とにかく簡単に情報を残せるツールが欲しいという方がほとんどなので、あえて機能を削ぎ落として最も簡単に使えるプロダクトを追求してきました」(澤村氏)

とあるIT系のマザーズ上場企業のバックオフィスチームでは、複数のツールを試した結果、最終的にStockに落ち着いた。他のツールでは続かなかったメンバーによる情報共有が、唯一Stockでは継続できたことが大きな理由だ。

「マークダウン形式で情報をきれいに整理できるのがウリのツールだと本腰を入れてアウトプットをしないといけない感覚になり、『記事を書いているような雰囲気になるため長続きしなかった』という話を伺いました。Stockの場合はなぐり書きで良いから継続できていると聞き、シンプルな構造で情報を残すことだけにフォーカスしたプロダクトがありそうでなかったのだと改めて感じています」(澤村氏)

ウェブブラウザからはもちろん、専用のモバイルアプリ(iOS、Android)を用いてモバイル端末からもサクサク使える
ウェブブラウザからはもちろん、専用のモバイルアプリ(iOS、Android)を用いてモバイル端末からもサクサク使える

社内ツールとして誕生、プロトタイプは30戦29敗

Stockはもともと自社の課題を解決するための社内用ツールとして開発された。まさに澤村氏自身が顧客企業と同じような課題を抱え、簡単にチームの情報を残せるサービスを探していたものの、要望に合うものが見つからなかったために自分たちで作り上げたのがStockの原型だ。

実際にプロトタイプを作ってみると思っていた以上に便利なものができたため、知り合いの企業を中心に30社ほどに使ってみたいかをヒアリングしてみたところ、結果は30戦29敗。29社には全く刺さらなかったが、1社だけ、とある税理士事務所から「今の状態でもお金を使ってでも使いたい」という反応が返ってきた。

「その会社は税理士事務所という仕事柄もあり、顧問先とのやりとりの議事録をWordに綺麗にまとめ、Dropboxで細かく階層を分けながら丁寧に管理されていました。だけど(欲しい情報への)アクセスが良くない点が1つのネックとなり、ドキュメント内に書かれた重要な情報をメンバーが見返さないことが課題になっていたんです。それがStockのフォルダ一覧に並んだ状態であれば、忙しくてもみんなが確認する。その点をすごく喜んでもらえました」(澤村氏)

それからはこの税理士事務所に何度もヒアリングをしながら、機能開発を進めていった。ちなみに同事務所は現在もStockユーザーだ。

Stock代表取締役社長の澤村大輔氏(中央)と投資家陣
Stock代表取締役社長の澤村大輔氏(中央)と投資家陣

Stockでは今回調達した資金を活用して開発面を中心に組織体制を強化する計画。澤村氏によると主要な機能はある程度出そろった状態ではあるが、各機能を骨太にしていくことでさらに使いやすいサービスを目指していくという。

「ベータ版のローンチ当初は実際にお金を払ってでも使いたいと思ってくれる人がいるのか、自分の中でも確証がない状態でスタートしました。それから約3年が経って、今では5万社以上のチームが登録し、実際に日々の業務の中で使ってもらえている。少しずつインフラのような存在に近づいてきている手応えはあります。今後は特に非IT企業にとって強固なインフラとなるサービスを目指し、より使いやすいプロダクトになるようにアップデートを続けていきます」(澤村氏)