BLAST代表取締役の石井リナ氏
  • メディア事業からピボット、ブランドの立ち上げへ
  • 150人の女性たちの声をもとに、1年半かけて開発
  • 経血漏れの不安がなく、行動の制限がなくなった
  • 女性起業家だけでなく、女性投資家も増えるべき
  • 市場が盛り上がる前に、どれだけ純粋想起を獲れるか

「経血が漏れていないか不安」「着たい服が着られない」「生理用ナプキンを使うと肌がかぶれてしまう」──毎月1回やってくる生理期間中、このような悩みを抱える女性は多い。

そんな生理と快適に付き合うための生理用品として女性たちから注目を集めているのが、生理期間中に1枚でも使用できる吸水ショーツ「Nagi(ナギ)」だ。Nagiはスタンダードタイプ1枚で一般的な昼用ナプキンの約3枚分の吸水量(30ml)があり、30秒ほどで97.2%の水分を吸水。また速乾シート、吸水シート、防臭シート、防水シートという4枚構造になっているほか、吸水部分の周りを防水シートで囲み、 織り込むことで経血の伝い漏れを抑える。

そのほか防臭機能、制菌効果(菌を減らす効果)のある機能素材を使用しており、使用後はぬるま湯に20分浸し、汚れを落としてから洗濯機で洗えば、繰り返し使える。現在、吸水ショーツの形はスタンダード、スリム、フルの3タイプあり、価格はスタンダードが5400円(税別)、スリムが5250円(税別)、フルが5800円(税別)となっている。

(左から)スタンダードタイプ、スリムタイプ、フルタイプ 画像提供:BLAST

こうした点が生理期間を安心して過ごしたい女性たちの心を掴み、5月末の発売開始後、1週間ほどで2000枚が完売。その後の再入荷分も1〜2時間で完売する人気ぶりだ。また再入荷の連絡を待つリクエストは合計1万4000件ほど寄せられているという。

Nagiの開発を手がけるBLAST(ブラスト)は安定した供給体勢の構築、関連商材の企画開発や組織体制の強化を図るべく、9月8日に独立系VC(ベンチャーキャピタル)のANRI、有安伸宏氏と赤坂優氏が運営するエンジェルファンドを引受先として、総額5000万円の資金調達を実施したことを明かした。

メディア事業からピボット、ブランドの立ち上げへ

BLASTは2018年1月の創業。もともとは“エンパワーメント”をキーワードに番組・ニュース・インタビュー・スナップなどの4つの形式を軸として、女性のためのトレンドから社会問題までを取り上げる動画メディア「BLAST」を運営していた。

「米国発のミレニアル世代の女性向けメディア『Refinery29(リファイナリー29)』が発信する情報や海外のトレンドに触れているうちに、日本にも女性をエンパワーメントするメディアが必要だと感じたんです」とBLAST代表取締役の石井リナ氏は、こう振り返る。

日本版のRefinery29をうたってスタートを切ったBLAST。ローンチ後から、社会問題やセックスまで多様なトピックを取り扱い、女性たちに多様な価値観、選択肢を提示してきた。

女性を固定観念から解き放ち、タブーなくオープンにいろんなことを話せる社会を目指す──そんな思いでコンテンツを配信してきたBLASTだったが、その世界観はなかなか日本で受け入れられなかった。8カ月ほど運営したものの、Instagramのフォロワーは約7000人。当初、想定していたほどメディアが成長していかなかった。

そうした状況を踏まえ、Instagramストーリーズによるコンテンツ配信もストップし、石井氏は「物理的に女性たちをサポートする」方向に切り替える。

「ジェンダーギャップのある日本で、女性たちをエンパワーするためには先進的な情報が必要だと思い、メディア事業から始めたんです。ただ想像以上にフェミニズムについて発信するメディアは広がりづらく、次第にメディア運営の難しさも感じていきました。であれば、このままメディアの運営を続けるより、物理的に女性たちをサポートしていくブランド事業にフォーカスする方が可能性があるのではないか、と思ったんです」(石井氏)

150人の女性たちの声をもとに、1年半かけて開発

選択肢が少なく、女性たちが抱える問題のひとつが「生理における悩み」だと石井氏は考え、生理用品ブランドを立ち上げることにした。

「女性たちの身体には毎月1度、生理がやってきます。その度に生理用品を購入するのですが、その購入体験は決してワクワクするものではありません。中には、ほかの選択肢を検討せず、紙ナプキンを購入している人も多いと思います。そんな生理用品に新たな選択肢を増やし、女性たちを物理的にサポートしたいと思ったんです」(石井氏)

画像提供:BLAST

実際、生理用品ブランドの立ち上げにあたって、石井氏はBLASTのSNSのフォロワーだった女性たちにアンケートを募った。すると、7〜8割の女性たちが紙ナプキンを使っている状況で、タンポンや布ナプキン、月経カップは日本においてマイナーな存在であることがわかり、吸水ショーツを開発することに決めた。

「日本人は膣の中に入れる生理用品に対し、すごく抵抗があることがわかりましたし、若い世代はタンポンを試したことがない人も想像以上に多かったんです。それを踏まえ、何を開発するか考えたとき、私自身も過去に使ってみて快適だった経験があったことから、第1弾の商品として吸水ショーツを開発することにしました」(石井氏)

また、石井氏は約150人の女性たちに対して、生理期間にどのような悩みを抱えているのか、どういったデザインが良いかなどのアンケートやヒアリングを実施。その声をもとに商品の開発を進め、さらには「BLAST」の読者など100人にモニターとしてサンプルを使ってもらい、試行錯誤を繰り返した末、5月末にNagiをローンチした。

経血漏れの不安がなく、行動の制限がなくなった

実際、Nagiを発売後、購入した女性たちからは「初めて生理期間が楽しみになった」という声がいくつも寄せられている、と石井氏は話す。今回のラウンドでBLASTへの投資を担当したANRIのシニアアソシエイトである江原ニーナ氏も、Nagiのいちユーザーだった。

生理期間中、女性たちは経血漏れを気にすることから運動ができなかったり、経血で汚れないか心配で着たい服を着られなかったり、行動に制限がかかってしまう。だが、江原氏は「Nagiを使ってみると経血漏れの不安から解放され、行動の制限を感じなかった」と言う。

「吸水性などNagiの機能性はもちろん良いのですが、それ以上にNagiを使うことで生理期間中の行動が制限されず、安心して過ごせることに驚きを覚えました。これはプロダクトの機能性とは別で、女性たちに大きな価値を提供していると感じたんです」(江原氏)

ANRIシニアアソシエイトの江原ニーナ氏

Nagiのような吸水ショーツをはじめとした、女性の健康問題をテクノロジーで解決する“フェムテック(FemTech)”市場はここ数年で急速に盛り上がってきており、2027年にはグローバルで5兆7000億円の市場規模になると言われている。

日本でも最近になりフェムテックという言葉を耳にする機会は増えてきたが、まだ女性の悩みは根強く残っており、その悩みを解決するプロダクトの数も少ない。そうした中、強い思想を持って事業を展開する石井氏に可能性を感じ、「投資を決めた」と言う。

「人類の半分が抱えている課題であるにもかかわらず、まだ負が多く陽が当たってこなかった市場に対して、熱量の高いコミュニティと共に検証を重ねた機能性の高いプロダクトを展開している。今後、マーケットが伸びていくことも予想されていますし、また石井さんのように強い思想を持っている人は稀有です。Nagiであれば、プロダクトを通して女性をエンパワメントする世界が実現できると思い、すぐ投資したいと思いました」(江原氏)

江原氏によれば、Nagiの機能性にはANRIの他のメンバーも驚いていたという。投資検討にあたって、石井氏がANRIのオフィスにNagiと海外の吸水ショーツを2種類ほど持って、実際に吸水の機能性を比較してみたところ、性能が良いことは一目瞭然だった。

画像提供:BLAST

「Nagiの生地は日本の安全な生地メーカーのものを使用し、 高い技術をもつ国内の工場で1枚ずつていねいに人の手で縫製してつくっています。実際に比較することで、『Made in JAPAN(メイドインジャパン)』の強さを感じてもらえたと思います」(石井氏)

女性起業家だけでなく、女性投資家も増えるべき

また、今回の発表でユニークなのが同世代の女性投資家が女性起業家に投資している点だ。スタートアップ業界は“男性社会”と言われることが多く、実際のところ母数として男性の数は多く、特に投資家サイドはなおさらだ。そのため、生理の悩みを解決するといった事業アイデアをプレゼンしても必要性を理解されにくく、投資に至らないケースも多々ある。

実際、石井氏は前回の調達ラウンドで投資家をまわった際、「生理についてイチから説明したものの、なかなか理解してもらいづらかった」と語る。一方の江原氏は投資家の立場から、女性の起業家を取り巻く環境の課題について、こう思いを口にする。

「女性起業家の数も増えてきていて、少しずつプレゼンスも上がってきていますが、まだまだ十分ではありません。また女性の起業家が増えても、彼女たちの解決したいペインに共感できる女性の投資家がいないことも問題だと思っているので、私は女性の投資家も増えていくべきだと思っています」(江原氏)

そんな彼女が所属するANRIはこれまでに130社ほどのスタートアップに投資しているものの、女性起業家への投資件数はわずか7件ほどしかない。

「年々ファンドサイズも大きくなって、スタートアップ業界に与える影響力も高まってきている中で、ファンドとしてどうあるべきなのか。そこはANRI全体として課題意識を持っていて、今は女性起業家を増やすために具体的な数字の目標を決め、そこに向かって全員で走っていけるように準備を進めているところです」(江原氏)

市場が盛り上がる前に、どれだけ純粋想起を獲れるか

また、ANRI代表パートナーの佐俣アンリ氏は著書『僕は君の「熱」に投資しよう――ベンチャーキャピタリストが挑発する7日間の特別講義』の中で、ラクスル代表取締役社長CEO松本恭攝氏を例に、同世代の起業家と投資家がペアを組むことの重要性を説いている。

石井氏、江原氏ともにまだ20代半ば。それぞれ起業家、投資家としての経験としては1〜2年ほどだが、「同世代がペアを組むこともそうですし、マイノリティである女性起業家が女性投資家と組むことは非常に意味のあることだと思います」(石井氏)と語る。

女性起業家と女性投資家──この2人の組み合わせが今後増えていけば、スタートアップ業界のダイバーシティ(多様性)が進んでいくはずだ。今後、Nagiは江原氏の知見も活かしながら、まずは安定した供給体制を構築し、さらなる事業のグロースを目指す。

「いくつか競合が出てきて、市場が盛り上がってくるまでの段階で、どれだけNagiが一番最初に思い浮かぶブランドになれているか、が勝負になってくると思っています。生活必需品として、使用したいときに使用できるよう、安定した供給を目指すとともに、関連商材の企画を開発することで“生理の日にはNagi”という認知を獲得していきたいです」(石井氏)