- 海外PEを含む、100億円の大型資金調達
- 働き方改革、生産性向上の観点から誕生した「b→dash」
- 高額SaaSながら、高い継続率を保持
- 採用とマーケティングを強化、「3年で600名」の規模拡大
- 元社員の告発、そして労務制度の刷新
マーケティングにおいて「欲しい数字」を出そうとするほど、コストがかさむ問題がある。そこへ挑むのが、月額5万円から必要なビジネスデータを活用できるデータマーケティングツール「b→dash」だ。その運営元であるフロムスクラッチが8月6日、総額100億円の資金調達を発表した。今後の展開についてフロムスクラッチ代表取締役の安部泰洋氏に聞いた。(ダイヤモンド編集部副編集長 岩本有平、ライター 福岡夏樹)
海外PEを含む、100億円の大型資金調達

フロムスクラッチは2010年4月の設立。今回の資金調達は同社にとって4回目。シリーズAラウンドでは3億円、シリーズBラウンドは10億円、そして2017年に実施したシリーズCラウンドの資金調達は32億円と、着実に調達額を積み上げてきた。
今回の資金調達ではニューヨークを拠点に投資を行うPEファンドのKKR(Kohlberg Kravis Roberts & Co. L.P.)を始め、ゴールドマン・サックス傘下のジー・エス・グロース・インベストメント合同会社、ジャパン・コインベスト2号投資事業有限責任組合、大和企業投資、SFV・GB投資事業有限責任組合、JPインベストメント1号投資事業有限責任組合が新規の引き受け先となったほか、既存引き受け先の、DNX Ventures、楽天、リンクアンドモチベーションも追加出資を行った。
フロムスクラッチ代表取締役の安部泰洋氏によると、同社が資金調達に向けて動き出したのは2018年12月。KKRにはSalesforceが買収したMA(マーケティングオートメーション)ツール「ExactTarget (現在のSalesforce Marketing Cloud)」の創業者であるPeter McCormick氏が参画しているが、そのMcCormick氏らのチームがフロムスクラッチのデューデリジェンスを実施。今回の調達のうち40億円をKKRが出資するに至った。
働き方改革、生産性向上の観点から誕生した「b→dash」
b→dashはMAやBI(ビジネスインテリジェンス)などの機能を統合したワンストップ型の製品だが、投資家たちが最も評価したのは「Data Palette」と呼ぶ同社のデータ統合技術だ。
そもそもb→dashは、働き方改革や生産性向上の観点から誕生したツールともいえる。短時間で最大限のパフォーマンスを発揮するには、データ活用や人工知能はもはや必須。しかし、日本にはまだ、各企業の基幹システムでデータが整理されているわけではないうえに、活用には専門知識が必要だ。そのため、データを扱おうとしても膨大な量の名寄せや変換が必要になることもあり、結果的に外注することが多い。外注すると1人月で数百万円かかるなどのコスト面での課題もあり、これまでデータ活用は大手企業でしか実現できない背景があった。
「b→dashは、Excelを使う感覚で自社データを扱えるツールです。その強みの1つが、SQLやPythonなどプログラミング知識がなくても、データを直感的に使いこなすことができる機能のData Palette。これによって、マーケターやデータアナリストが数カ月かけていた作業を、15分程度あれば完了させることが可能となったのです」(安部氏)
b→dashは利用する機能ごとに課金を行うことで月額5万円の低価格から利用できるツールだが、400社以上ある導入企業のすべてがこのData Paletteを活用している。
「もともとツールを作るより、いかにスマートデータ社会を実現するかと考えていました。これからキーになるのはデータ。いかにデータを民主化するかが重要です。MA、BIの機能的な違いはもはやなくなってきています。(デジタルマーケティングが)うまくいくかいかないかは、データの準備ができているかどうかが差になってくると思います」(安部氏)
高額SaaSながら、高い継続率を保持
MAツールであれば製品のリプレイスも比較的容易だが、さまざまなMAツールにつなぎ込む「基盤」となるデータ管理ツールであれば、リプレイスは難しい。安部氏も「言葉を選ばずに言えば、『はがせなくなる製品』」と自信を見せる。b→dashは月額5万円から導入できるが、導入企業の平均月額は、名刺管理サービスのSansanや、人事・労務管理サービスのSmartHRなど、同じ国産SaaSと比較しても高額だという。だが継続率は他のSaaS同様に高く、現在でも96パーセント以上を誇るという。
「本当にデータ活用できる環境をつくるには、専門知識を持った人だけでなく、アルバイトやインターンでも扱える必要があります。その先に、生産性向上がある。そういった課題を考えたときに『これはいける』と思い、2年前に開発をスタートさせたのがData Paletteです」(安部氏)
また、タクシー広告や交通広告、ネット動画広告を駆使した大型プロモーションによる効果も企業の認知や導入を高める一手となった。テレビCMなどのマス向けではなく、あえて「データを扱う担当者」を狙ったことで、企業の意思決定者層への認知が広まり、コンペ勝率が68%から90%以上になった。この数値は、今回調達を決めた投資家たちも納得させた。
採用とマーケティングを強化、「3年で600名」の規模拡大
気になるのが、調達した100億円の使いみち。この質問に対して安部氏は「採用とマーケティングの強化に活かしたい」と話す。
「タクシー広告での成果をきっかけに、他企業のデータなどを見ながら『どこに投資すると売り上げが出るのか』という自社オリジナルのマーケティングモデルをつくりました。今後は、このモデルを実現するマーケターやカスタマーサポート、セールスに注力することはもちろん、このポジションを担える人材採用も強化していくつもりです」(安部氏)
フロムスクラッチの現在の社員数は、福岡オフィスも含め約200名。今後は新卒・中卒あわせて1年後には100名、3年後には600名を新たに採用予定だという。そのほとんどが、カスタマーサポートとセールスだと安部氏は語る。これはすべて、今はまだ広まりきっていない「データ活用」という言葉が市民権を得たとき、動き出せるようにするための仕込みになる。
元社員の告発、そして労務制度の刷新
フロムスクラッチといえば、5月に元従業員がブログで「新宿労働基準監督署から賃金未払の是正勧告があった」と告発したことも記憶に新しい。その後SNSでは、「目標達成できなかった社員を丸坊主にする」「社長の家に呼び出され、テレビゲームをしている様子を見させられる」といったコメントを匿名で投稿するアカウントも現れた。
この騒動の真偽について安部氏にたずねたところ、「ブログに関しては当人がいることなので、詳細なコメントは控えさせていただきます。SNSでの誹謗中傷もありましたが、事実無根であることが多い。弁護士や専門家に相談をしていますが、あまりにも悪質なもの以外の個別対応はキリがないため、こちらも回答は控えさせていただきます」とコメントするにとどまった。
一方で、一連の騒動を受けて、(1)裁量労働制を撤廃し、原則固定労働を採用(一部保守エンジニアなどは除く)、(2)センターコントロールにより、社内PCの使用時間を8時50分~20時までに制限、(3)年次有給休暇の取得率目標を100%に設定、(4)社外監査役を設置したガバナンス強化――の4点を実施したと説明した。
「会社のステージをプライベートカンパニーからパブリックカンパニーへ変容させるよいきっかけになったと捉えています。これからも従業員にとって、より一層働きやすい会社へと変革してまいります」(安部氏)