クラウド契約サービス「クラウドサイン」  すべての画像提供 : 弁護士ドットコム
クラウド契約サービス「クラウドサイン」 すべての画像提供 : 弁護士ドットコム
  • リモートワークによる「契約のデジタルシフト」が加速
  • 何百回、何千回と言われた「電子署名法に準拠しているんですか?」
  • エンタープライズ導入のカギは、クラウドの外側の整備
  • データ活用で「契約の新しい形」を提案

ウェブ完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」が事業を拡大している。

4月に新型コロナウイルスの感染対策に伴う緊急事態宣言を受けてリモートワークに移行する企業が増えたことで、“契約のデジタル化”ニーズが急増し、単月で約6500社に導入された。実に1日平均で200社以上が新規のクラウドサインユーザーになった計算だ。

その後もユーザーは増え続け、8月には導入企業社数が10万社を超えた。

弁護士ドットコム取締役でクラウドサインの事業責任者を務める橘大地氏は、昨年以降も着々とユーザー数は伸ばしていたものの「新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったことは間違いない」という。リモートワークに移行する企業が増えただけでなく、電子契約に関連する法整備が加速したことも同社には追い風となった。

昨年7月に5万社を突破してから、約1年間で2倍の規模に成長したクラウドサイン。今回は橘氏にここ半年ほどの状況と今後の展望について話を聞いた。

リモートワークによる「契約のデジタルシフト」が加速

明日からリモートワークに移行しなければならない──。4月に緊急事態宣言が発令されたことにより、多くの企業が働き方を変えた。契約業務はその代表例だ。これまでは「紙と印鑑」を用いて行っていた業務を、クラウド契約サービスによる「電子契約」に切り替える企業が増えた。

冒頭でも触れた通り、クラウドサインもそのニーズに応える形でユーザー数を拡大。4月は特にその勢いが凄まじく単月で6500社以上へ導入された。これは前年同月比で300%以上の数字だ。

4月に大きく導入企業社数を伸ばしたクラウドサイン 。8月には10万社を突破した
4月に大きく導入企業社数を伸ばしたクラウドサイン 。8月には10万社を突破した

橘氏の話ではここ数カ月で導入企業社数が増えたことに加え、特にエンタープライズの顧客で「全社導入」に至る事例が増えたという。

以前は大企業に導入される場合、まずは社内の一部門で試してもらうことが多かった。橘氏の肌感覚としても全社導入に至るのは全体の10%に満たないくらいだったそうだが、直近では半数近くの企業が全社導入を前提にクラウドサインの導入を検討するようになっている。

「雇用契約や業務委託契約など内部の契約には電子契約が使われていても、業務提携のように取引先が関わる際には相手に合わせて紙で契約をするということがよくありました。ただこのご時世に相手方に合わせるということは、法務担当者に出社を強要することにも繋がります。そこで『自分たちはそのスタンスは取りません』という意思表明として、全ての契約に電子契約を導入することを発表する企業が続々と出てきました」(橘氏)

たとえばメルカリやLINEは早い段階から電子契約への全面移行を発表していたが、両社はともにクラウドサインのユーザーだ。新規顧客だけでなく既存顧客がクラウドサインを全面的に利用するようになった事例も多く、その変化は「契約送信件数」の伸びにも顕著に現れている。

導入企業社数だけでなく、クラウドサイン上での「契約送信件数」も大きく伸びているという
導入企業社数だけでなく、クラウドサイン上での「契約送信件数」も大きく伸びているという

クラウドサインのビジネスモデルは月額の固定利用料に送信件数ごとの費用が加算される仕組みのため(たとえばスタンダードプランは月額1万円の基本利用料に送信件数あたり200円が加算される)、社内で活発に利用されるほど収益も増える構造だ。

7月27日に開催された弁護士ドットコムの第1四半期決算説明会ではクラウドサイン単体で6月の月商が1億円を超えたことも明かされていたが、「導入企業数だけでなくARPU(1社あたりの平均売上)も大きく成長している」(橘氏)という。

何百回、何千回と言われた「電子署名法に準拠しているんですか?」

クラウドサインを筆頭に電子契約サービスが一気に広がったことで、その法的な位置付けも変わり始めている。

直近半年ほどで電子契約の法的な位置付けも大きく変わってきた
直近半年ほどで電子契約の法的な位置付けも大きく変わってきた

5月29日に法務省が会社法施行規則の解釈として、クラウドサインによる電子署名が取締役会議事録に用いるものとして適法であることを認定。翌月には商業登記のオンライン申請においてクラウドサインで締結された書類を受け付けることが発表された。

合わせて直近では行政がQ&Aを通じて電子契約に関連するスタンスを明確にする事例が続いている。6月には内閣府・法務省・経済産業省が「押印についてのQ&A」の中で押印の効果が絶対神話的なものではなく、電子契約にも効力がありその利用を促進することを提示。7月には総務省・法務省・経産省が曖昧だった電子署名法の解釈を見直し、クラウドサインを含む事業者署名型電子契約サービスによる電子署名が電子署名法第2条の要件を満たす基準を示した。

特にこのQ&Aを通じて、クラウドサインが電子署名法第2条に準拠していることが公式に表明されたことが大きいと橘氏は話す。

もともと民法では契約方式を定めた条文はなく、どの方式を選ぶのかは当事者の自由によると考えられている。そこに20年ほど前に電子署名法という法律ができ、この規格に準拠すれば裁判上『その人が本当にこの文章を作成したこと』を推定してくれる仕組みが作られた。

ただ、電子署名法では厳格な手段に限定されていたため「(全ての契約において)準拠しようと思うと一般的には使いづらい面がある」(橘氏)のが難点。クラウドサインでは本人確認手段として2段階認証を入れるなどセキュリティ面に配慮して開発はしていたものの、電子署名法上の扱いにおいては曖昧な状態だったという。

「この5年間でさまざまな企業の法務担当者と話をする中で、(電子署名法は)絶対の法律ではなく、民法に照らし合わせればクラウドサインの方式でも問題がないことを伝えても、『民法や御社の考えは分かったけど、結局電子署名法に準拠しているんですか?』と言われることが何百回、何千回とありました。これは法務部としては当然生じる疑問です。だからこそ今回3つの省庁が正式に電子署名法の解釈について表明いただけたことのインパクトは大きく、自分たちとしては『クラウドサインを使っても問題ない』とお墨付きを得られたようなものだと捉えています」(橘氏)

今までも電子署名法上の位置付けが1つのネックとなり、導入に至らなかったり、部分的な利用に留まることもあったそう。すでに法整備の影響は感じていると言うが、今回のアップデートは今後のクラウドサインにとって追い風となりそうだ。


エンタープライズ導入のカギは、クラウドの外側の整備

クラウドサインは「紙と印鑑」を「クラウド」に置き換え、契約作業をパソコン上だけで完結できる仕組みを提供
クラウドサインは「紙と印鑑」を「クラウド」に置き換え、契約作業をパソコン上だけで完結できる仕組みを提供する。最近では大手企業が全社導入する事例も増えてきた

昨年10月にクラウドサインが4周年を迎えた際、橘氏は「日本中に電子契約を浸透させていく上で、次の1年はエンタープライズ市場への本格参入を目指す」ことを自身のnoteで言及していた。

それから1年弱。クラウドサインの導入企業のラインナップを見ても、トヨタ自動車、サントリー、みずほ証券、野村証券、東京海上日動、大和ハウス工業、リクルートなどエンタープライズど真ん中の企業名が増えてきた。

「良いペースでは来ているものの、やはり今でも顧客企業の担当者からは『クラウドサインを使った契約を相手先に提案したけど断られた』という声を聞くことはあります。本当の意味で電子契約を普及させるためには、経団連に所属するような日本を代表する企業の方々にも普段から使ってもらえるサービスにしなければならない。そこが次の山場です」(橘氏)

そのためにはプロダクトの磨き込みはもちろん、「契約業務をオンラインに乗せるための手助け」をどれだけできるかがキモになるという。

たとえば印章管理規程を基に誰がどのハンコを押していいのかを明確に定め、契約についてのワークフローをカチッと作っていた企業がクラウドサインを導入する場合、「誰にIDを発行するべきか」「電子契約へ移行するにあたってワークフローをどのように変えるべきか」といったポイントを1つ1つクリアしていかなければならない。

これはいくらクラウドサインのUI/UXを改善したとしてもそれだけでは不十分で、顧客に向き合いながら「契約業務のデジタルシフト」を支えていく必要がある。

「クラウドサインの強みは、これまで10万社にサービスを提供してきたことでノウハウが蓄積されていること。まさに昨年から大企業向けに有料のコンサルティングサービスも始めていて、導入企業側が不便を感じることなくクラウドサインに移行できるような体制を整えて来ました。『クラウドの外側の整備』こそがすごく大変で、そこをどれだけやり切れるかが勝負の分かれ目になると考えています」(橘氏)

データ活用で「契約の新しい形」を提案

新サービスの「クラウドサインAI」
新サービスの「クラウドサインAI」

もう1つ、橘氏が今後の注力ポイントに挙げるのが「契約データの活用」だ。

弁護士ドットコムでは8月に契約マネジメントシステム「クラウドサインAI」をローンチしている。この新サービスはクラウドサインや紙で締結された契約書をアップロードするだけでAIがその内容を解析し、契約先企業名、契約開始日、終了日などの情報をデータ化してくれるというもの。これによって「契約の締結時」だけでなく、「過去の契約書の管理・有効活用」にもクラウドサインが使えるようになった。

クラウドサインAIではアップロードした契約書を自動で解析し、過去の契約書をデータ化する
クラウドサインAIではアップロードした契約書を自動で解析し、過去の契約書をデータ化する

「リモートワーク環境において“ハンコを押すためだけに出社すること”が話題になりましたが、実は契約書の原本が会社にファイリングされているために“過去の契約を見返すために出社する”というケースもかなりあるんです。今はそういった需要にも応えられるようになり、そこに魅力を感じてクラウドサインを使ってくださる企業もいます」(橘氏)

次の1年はここからさらに一歩踏み込み、クラウドサインAIを使ってデータ化した情報を使って「法務担当者がデータドリブンで意思決定をしていく」ためのアナリティクス基盤を整える計画だ。

「契約書をデータ化することで『来月契約期間が切れる契約書が30件あって、それぞれの契約内容がどうなっているのか』といった細かい情報が全て可視化されるんです。この定量的な情報を基に、法務担当者が事業部門に手数料率を交渉するようにアドバイスをしたり、目標を設定したりするための仕組みを整えていきます。実は現場でも過去の契約書の見直しが十分にできているところは少なく、中には10年前の力関係のまま契約を更新し続けているような場合もある。過去の契約をクラウド化することで、契約業務においてもっとデータを有効活用できるようになります」(橘氏)

この機能はすでに10万社に導入されていて、日本で最も多くの契約書の流通量があるクラウドサインだからこそ付加価値を提供できるというのが橘氏の考え。弁護士ドットコムでは業界を問わないHorizontal SaaSとしてクラウドサインを改良しつつも、クラウドサインAIや「クラウドサインNOW」のように特定の領域の悩みを解決する派生プロダクトも充実させることで、クラウドサインならではの体験を拡張していきたいという。

クラウドサインを軸に、そこから派生するプロダクトも徐々に充実してきている
クラウドサインを軸に、そこから派生するプロダクトも徐々に充実してきている

「最近自分の中では『次の100年、契約の新しい形』ということを考えているんです。明治に印鑑登録制度ができてから147年間、契約のスタンダードは紙とハンコでした。基本的に過去の契約を遡ることはできず、契約プロセスも重厚で法体系もそれに合わせる内容になっています。それが今、テクノロジーの進化によってクラウド契約や契約書のクラウド化ができるようになり、新しい契約の形が生まれ始めている。ここから先の契約はこれまでの人類が体験したことがないものであり、クラウドサインを通じて次の100年のスタンダードになるような、新しい契約のスタイルを作っていきたいと考えています」(橘氏)