
- アプリ経由で簡単に魚を発注、情報の透明性も担保
- 地元の漁港の衰退を目にして起業を決意
- 自ら“魚屋”になることがマーケットプレイス実現のための最短ルート
- 数億円規模の資金調達も実施、さらなる事業拡大目指す
レガシーな産業をテクノロジーの活用で変革していくためには、時として一見“非効率”や“遠回り”にも思えるアプローチが目標に近づくための最短ルートになることもある。水産業のデジタルシフトを進めるウーオの取り組みはまさにその代表例と言えるかもしれない。
同社では産地市場のセリに並ぶ鮮魚をスマホアプリから簡単に発注できるサービス「UUUO」を9月11日にローンチした。このアプリの直接的なユーザーとなるのはスーパーの鮮魚バイヤーや、そこに食材を卸していく消費地市場の水産業者たち。UUUOではユーザーが提携産地で水揚げされた鮮魚の情報をアプリ経由で取得し、仲買業者に対して直接買い付けのリクエストを出せる仕組みを作った。
ユニークなのはウーオ自身が鳥取県にある2つの漁港の買参権(買い付けの権利)を取得し、自社スタッフがセリに参加して鮮魚を仕入れていること。大雑把な言い方をすればウーオはITスタートアップでありながら「魚屋(仲買業者)」でもあるわけだ。
アプリ経由で簡単に魚を発注、情報の透明性も担保

ウーオでは自社で鳥取港と網代港の買参権を持つほか、現在100以上の漁港とパートナーシップを組んでいる。
それらの場所で水揚げされた魚の写真やサイズ、数量、相場価格などをリアルタイムでUUUOアプリへ配信。鮮魚バイヤーなどのユーザーはその情報をもとにめぼしい魚を見つけ、アプリを使って産地のバイヤーへ買い付けのリクエストを送る。
要望を受けたバイヤーは実際にセリに参加。競り落とせた魚は直送や市場経由など、ユーザーが希望する配送方法で届ける仕組みだ。
ウーオ代表取締役の板倉一智氏によると従来の流通フローでは「安定供給」「情報の透明性」「受発注業務の負担」などの面で改善の余地があり、UUUOではこの課題を解決しているのがポイントだという。
同サービスのメインターゲットとなる鮮魚バイヤーは、馴染みのある一部の取引先に仕入れを依存していることが多い。そのため、たとえば台風など急な天候不良などで仕入れ先がストップしてしまった場合、そもそも魚が手に入らない状況に陥ってしまう恐れがあった。

また仕入れ先となる仲卸業者との間に情報の非対称性があり、中途半端な情報しかもらいにくい業界構造になっている点も大きな課題だ。「この魚が昨日捕れたものなのか、3日前に捕れたものなのか。そういった情報が不透明な中で仕入れの決定をしないといけない」(板倉氏)ため、場合によっては嘘をつかれ、不利な条件で取引をしてしまうこともあるという。
その点UUUOでは「どんな魚がいつ獲れて、直近の相場ではいくらぐらいで取引されているのか」がすべて可視化される。新しい産地が見つかれば仕入れが安定することに加え、取り扱う魚種の幅を広げられる可能性もある。
「アプリ経由で仲買業者が持っている情報を小売企業のバイヤー向けに変換して届けることで、これまで仕入れ先(卸売業者)がオープンにしていなかったような情報に直接アクセスできるようになります。それによって知識や経験が少ないバイヤーであったとしても、産地の仲買人と同じ視点で買い付けをできるのが特徴です」(ウーオ取締役CPOの土谷太皓氏)
ローンチ前に数社にテスト利用してもらったところ、情報がオープンになっていることで鮮度の高いものを適切な価格で購入できるようになった点に対しては特に評判が良かった。魚種の幅が広がるのはもちろん、同じ種類でもサイズなどの選択肢が広がったことで、ある魚の売上が前年同期比で300%成長した事例もある。
またUUUOではスマホアプリから発注できるため、これまで主流だった電話での発注に比べて業務負担が少なくて済むのもメリットだ。休憩中やちょっとした空き時間で発注ができるため、そこに利便性を感じているユーザーも多いという。
地元の漁港の衰退を目にして起業を決意

漁師の人たちがなかなか儲からない問題を解決して、水産業を再生していきたい──板倉氏はそのような思いから2016年にウーオ(当時の社名はポータブル)を創業した。
板倉氏の地元は鳥取県の岩美町で、実家の目と鼻の先にはズワイガニで有名な網代港がある。漁業が盛んな地域で、板倉氏の親族や友人の中にも漁業従事者が多いそうだ。
起業のきっかけとなったのは、その漁港が徐々に衰退する様子を目の当たりにしたこと。地元へ戻る度に漁船が減っていたり、セリが衰退したりしていた。今では港も半分しか使われなくなっている。そんな光景を目にして「このままではマズい」という危機感とともに、「どうにかして地元の水産業を再生したい」という思いが強くなっていった。
「漁師を継いでいた幼なじみから『もう自分の子供には継がせたくない』という話を聞いた時には衝撃を受けました。魚の売価はそこまで変わらないのに、燃料や資材の高騰でランニングコストだけは上がっていく。つまり出ていくお金は増えるのに、入ってくるお金は変わらない。漁師の方々の置かれている環境が厳しくなっていく中で、何とかその構造を変えられないかと試行錯誤しました」(板倉氏)
いろいろと調べていくうちに、板倉氏は「産地の相場が上がっていかないこと」が大きな問題だと考えるようになった。それならば、産地の人たちが新たな販路を持つことができれば競争が生まれ、相場が上がっていくかもしれない。
その時に頭に浮かんだのが、今のUUUOにも繋がるマーケットプレイスの構想だ。
ウーオの投資家であり、初期の構想段階から同社をサポートしているインキュベイトファンドの村田祐介氏(村田氏はウーオの社外取締役も務める)も水産市場にはテクノロジーを活用することで変革できる余地が十分にあるという。
「10〜20km程度しか離れていない漁港でも、同じ数量の同じ魚種が全く別の料金で売買されていたりするんです。仲買人が寡占市場になっていたり、漁師と卸売人の関係性が歪な状態になっていることがあったり、そもそも情報の非対称性が地場のネットワークで守られすぎていたり。ものすごくローカルに閉じたネットワーク構造になっているからこそ、この市場が健全に回るマーケットプレイスを作ることができれば、大きな可能性があると感じました」(村田氏)
自ら“魚屋”になることがマーケットプレイス実現のための最短ルート
面白いのはマーケットプレイスを立ち上げる構想自体は初期からあったものの、結果として板倉氏たちが選んだのは、買参権を取得して自ら仲買事業者として産地に入っていったことだ。なぜ、一見遠回りにも思えるようなアプローチを選んだのか。
「自分たちに水産業の経験や知見がなかったため、いざマーケットプレイスを立ち上げようと思った時に魚をどう売ればいいのか、どう買えばいいのかがわからずつまずいたんです。プロトタイプを作るにも、必要な情報が揃っていなくて、やればやるほど課題が出てきた。その時に自分たちが実際に産地のプレーヤーとして一連のオペレーションを経験してみることが、現場の人たちに使ってもらえるマーケットプレイスを実現する上で1番手っ取り早い方法だと考えました」(板倉氏)
地元の鳥取や本社のある広島、そして東京・築地などの水産業者にヒアリングを重ねる中で、現場の人たちが同じ課題感を持っていることがわかった。自分たちが目指している方向性自体は間違っていない。だからこそ、そのためには自分たちが一度プレーヤーになって現場の解像度を上げる必要があった。
「ヒアリングをしていて強烈に感じたのが、産地の人たちも新しい取引先を見つけないと、このままでは売り上げが上がっていかないと感じていたことです。ただ課題はわかっているものの、既存の流通を改善する手段が見つからない。そのノウハウがないので、どうやったらいいのかがわからずに悩まれている方が多かったんです」(板倉氏)
「免許や地場のネットワークに守られている業界だからこそ、いきなりマーケットプレイスから始めるのは難しい。まずはウーオ自身が仲買業者として(UUUOのサービス上で)取引をけん引していくことができれば、それが自ずとマーケットプレイスを育てていくことにも繋がるだろうと仮説を作ってスタートしたのが最初です」(村田氏)
その後ウーオでは2018年5月に鳥取港仲買免許を取得し、現地に自社出荷拠点を開設。自社でバイヤースタッフを雇い仲買業者としての事業をスタートした。板倉氏や土谷氏は実際にプレーヤーとして現場に入っていく上でいくつもの収穫があったという。

自らが商取引を体験することで、現場で本当に求められる機能がわかる。これは筋のいいプロダクトを開発するためには絶対に必要なことだ。また自分たち自身がプロダクトのユーザーになるので、仮説検証のサイクルも早めることができる。
そして何より、産地の事業者や消費地のバイヤーからの見られ方が大きく異なる。
「自分たちのことを『IT企業です』と言うのと『自分たちも仲買をやっているんです』と言うのでは圧倒的に反応が違います。特にマーケットプレイスを拡大していく上では多くのパートナーに参加してもらうことが重要で、この違いはとても大きいです」(板倉氏)
「(小売バイヤーなど)お客さんにコンタクトを取る際にも『産地の仲買です』と言えば、話を聞いてくださる方が多い。本当に必要とされるアプリを作っていくためには、顧客からの声を踏まえて細かい改善を重ねていくことが不可欠です。本質的なフィードバックをもらいやすい環境はプロダクト作りにおいても大きな利点になっています」(土谷氏)

数億円規模の資金調達も実施、さらなる事業拡大目指す
今回ウーオではUUUOの正式ローンチに先駆けて、複数の投資家からシリーズAラウンドの資金調達を実施したことも明かしている。同社に出資したのは伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、インキュベイトファンド、ツネイシキャピタルパートナーズ、広島ベンチャーキャピタル、Full Commit Partners、とっとりキャピタル。具体的な調達額は非公開だが、数億円規模になるという。
ウーオにとっては、2018年2月にインキュベイトファンドなどから1.2億円を集めて以来となる資金調達だ。この2年の間に2港の買参権を獲得し、自ら仲買業者として事業に取り組むとともに、パートナーやユーザーとの関係性を作ってきた。

現状では思い描いてきたマーケットプレイスの手前に差し掛かっている状況だ。今はウーオ自らが仲買業者として産地で鮮魚を買い付け、それを水産業者や小売業者に販売することで得られる利益が同社の主な収益源になっている。ただマーケットプレイスに参画する事業者が増えていけば、そこでのビジネス(手数料)の割合が増えていくだろう。
パートナー漁港の数が3桁を超えてきた一方で、今回ローンチしたアプリを起点に小売側のユーザーとの接続も進みその準備も進みつつある。
今後ウーオでは特に魚を供給するパートナー漁港/事業者の拡大に力を入れていく計画。引き続きプロダクトのアップデートも進めながら、マーケットプレイスの拡大を目指す。
参画するプレイヤーが増え、マッチングが加速すれば健全な競争も生まれ「産地の相場が上がっていく」状態を作れるかもしれない。漁師がきちんと儲かる世界を作ることで、水産業を再び盛り上げる。ウーオの挑戦は始まったばかりだ。