クラウド郵便管理サービス「atena」 すべての画像提供 : N-Technologies
クラウド郵便管理サービス「atena」 すべての画像提供 : N-Technologies
  • 郵便物の転送やスキャン依頼をワンクリックで
  • “郵便物のための出社”なくし総務部のリモートワークを支援
  • 2500万円の資金調達も実施、年内500社への導入目指す

「会社のポストがインターネットに繋がって、クラウドサービスのようにどこからでもアクセスできるようになったイメージです」──。クラウド郵便管理サービス「atena(アテナ)」を開発するN-Technologies代表取締役の白髭直樹氏は、同サービスの全体像をそのように説明する。

atenaはオフィスに届く郵便物をクラウド上で管理できるサービスだ。郵便物の受け取りはatenaが代行し、届いたものの情報を写真とともに管理画面上に登録。ユーザーは原本を受け取りたければ「転送」してもらうこともできるし、デジタルデータとして管理したければ「スキャン」を依頼することもできる。不要なものは「破棄」してもらってもいい。

多くの企業では総務や経理の担当者がオフィスに届く紙の請求書、郵便物などを手作業で処理しているが、この大部分をまるっと任せられるようなサービスだと考えるとわかりやすいだろう。

5月11日のローンチ当初は主に個人向けのサービスとして打ち出していたが、日を追うごとに法人からの問い合わせが増加。すでに30社以上が正式導入しているほか、現時点で数百社から問い合わせが来ているという。

そんな状況を踏まえ、N-Technologiesでは9月14日にatenaのリニューアル版をリリースした。新たに法人向けの組織管理機能などを追加し、プライシングやデザインも変更。今後は法人の需要を取り込み、年内に導入企業数500社を目指す計画だ。

郵便物の転送やスキャン依頼をワンクリックで

atenaでは郵便物の受け取り方法が2つ用意されている。1つが自社用の“クラウド住所”を発行する方法、そしてもう1つが本社オフィスなどの郵便ポストからateneのスタッフに回収してもらう方法だ。

クラウド住所を発行するやり方はバーチャルオフィスなどの仕組みに近い。取引先にその住所を伝えておくことで郵便物が直接atenaに届くようになる。

ただ、この場合だと取引先の数が多い大企業にとっては住所変更の負担が大きい。そこでatenaでは一度オフィスのポストなどに届けられた郵便物を後からスタッフが回収するオプションを設けている。この回収オプションを使えばユーザーは住所を変えることなく、郵便物の管理を代行してもらうことが可能だ。

どちらの方法にせよatenaの元に届いた郵便物は1つ1つ写真とともにサービス上にアップロードされる。ユーザーは「転送」「破棄」「スキャン」の3つの選択肢の中から、各郵便物の内容を踏まえて必要なアクションをワンクリックで選べる仕組み。特に「中身のスキャン」は既存の類似サービスと異なる、atenaならではの特徴だと白髭氏は話す。

atenaの郵便ボックス画面。届いた郵便物は画面上ですべて管理でき、ワンクリックでスキャンや転送の依頼も可能だ
atenaの郵便ボックス画面。届いた郵便物は画面上ですべて管理でき、ワンクリックでスキャンや転送の依頼も可能だ
郵便が届いた際にはLINEやSlackで通知を受け取ることができる
郵便が届いた際にはLINEやSlackで通知を受け取ることができる

スキャンを依頼したものはatena側で開封・スキャンされ、そのデータをクラウド上でいつでも見られる状態になる。インターネットにアクセスできる環境であれば、本社に届いた郵便物を自宅や別の拠点からでもチェックできるようになるわけだ。

「バーチャルオフィスなど似たような仕組みもありますが、そこにテクノロジーを掛け合わせることによってもっと便利な体験が作れるのではないかと考えました。郵便物を手元で見るとの同じくらいの情報量をネット上で確認できて、メールと同じように通知を受け取るだけ、つまりあくまで受け身で利用できるのがポイントです」(白髭氏)

スキャン依頼をすれば、郵便物の中身をatena上でいつでも確認できる
スキャン依頼をすれば、郵便物の中身をatena上でいつでも確認できる

これらの基本機能に加えて、本日から法人向けの新機能がいくつか搭載された。

従来は主に個人利用を想定していたため、法人がatenaを利用する場合にも1つのアカウントを複数人で使い回す形になっていた。この仕様では「いつ、誰が郵便物を操作したのか」を把握することができず、それが監査の観点でネックになることもあったという。

そこでatenaでは社員1人1人にアカウントを発行し、スキャン依頼やデータ削除などのアクティビティの履歴を確認できる機能を実装。部署や部門を設定しておくことで、郵便物を自動的に該当するチームに振り分ける仕組みも取り入れた。

新たに搭載されたアクティビティ機能
新たに搭載されたアクティビティ機能
同じく新機能のチーム機能
同じく新機能のチーム機能

「法務部へ届く書類を他部署には見せたくない、経営陣宛の郵便物は宛名も含めて全社的に開示するのは難しいといったような要望が特に大企業からは多いです。グループ企業が数十社ある大手企業や創業から数百年経つような老舗企業などからの問い合わせが増えるとともに、複数アカウントへの対応や履歴管理機能のニーズも増えてきたので、今回新機能として取り入れました」(白髭氏)

他にもデータの閲覧権限を細かく設定する仕組みや複数の転送先を設定できる機能も追加した上で、月額1万円から使えるクラウドサービスとして提供する。基本プランでは100通までの郵便受け取り、50通の内容スキャンに対応可能だ。

転送先を複数設定することもできる
転送先を複数設定することもできる

“郵便物のための出社”なくし総務部のリモートワークを支援

今回のリニューアルに先駆け、すでに上場企業3社を含む30社以上がatenaを使って郵便物の管理を行なっている。業種や規模はさまざまだが、白髭氏によると企業側の導入理由は「総務部の業務効率化」か「リモートワーク推進」のどちらかだ。

連結の従業員数が数千人規模のとある一部上場企業では、郵便物を整理・スキャンし、PDFファイルの形に変えて管理するところまでの業務を総務部の社員がすべて人力で行なっていた。atenaの導入後はそれらの業務にリソースを割く必要がなくなり、より専門性の高い業務に集中できるように変わったという。

「ローンチ前に複数の企業にヒアリングをすると、数十名〜数百名規模の企業でも郵便物の対応が大きな負担になっていることがわかりました。典型的な例としては、朝9時に出社して郵便物を受け取り、仕分けして該当する部署に届ける。関連する作業も含めるとそれだけで1時間ほど。担当者が1人の場合でも月換算で20〜30時間の業務になりますし、大企業ではメール室に数人のスタッフが常駐していることも珍しくありません。この業務は時間とコストがかかる反面、ルーティンワークになりやすく、代替手段を探している企業も多かったので間違いなく需要はあると感じました」(白髭氏)

新型コロナウイルス感染症対策としてリモートワークを推進する企業が増えたこともatenaにとっては大きい。

社員数が数百名規模の某マザーズ上場企業では総務が週に1度出社し、郵便物の整理や仕分け作業を行っていた。「オフィスに届く郵便物の処理」はリモートワークを推進する上で1つのネックになっていたが、atena導入後は組織管理機能を使って各社員にアカウントを発行。総務が関わることなく、1人1人がオンライン上で郵便物を確認できるようになった。

atenaでは従来手作業で行なっていた郵便物の振り分けもサポートする
atenaでは従来手作業で行なっていた郵便物の振り分けもサポートする

こうした「総務のリモート化」文脈でのatenaの活用はかなり増えてきていて、事業会社やコンサルティング企業、税理士事務所など幅広い業種で導入が進んでいるそう。atenaを使えば、特別な場合を除き基本的に「郵便物のための出社」が 不要になる。

2500万円の資金調達も実施、年内500社への導入目指す

atenaはもともと創業者である白髭氏の体験から生まれたプロダクトだ。

白髭氏は以前ニュージーランドに居住しながら日本の仕事をしていたため、日本の拠点・自宅に届く郵便物を同僚や家族に写真に撮って送ってもらいながら処理をしていたそう。自分に限らず似たような理由から郵便物に課題を感じている人が一定数存在すると考え、昨年日本に帰国したことを機にatenaの原型となるプロダクトの開発に着手するとともに一足早くランディングページを公開した。

すると個人、法人を問わずすぐに十数件の問い合わせがきたため、それ以降は具体的な課題点や要望をヒアリングしながらプロダクトを磨いてきたという。

「コロナの影響で自分たちの開発しているサービスが『あったら便利なもの』というよりも、『今すぐに必要とされるニーズの高いもの』になったと感じたので、当初の予定よりも前倒しでリリースを決めました」(白髭氏)

N-Technologies代表取締役の白髭直樹氏
N-Technologies代表取締役の白髭直樹氏

想定していた以上に法人からの引き合いが多く、週に数十件単位で問い合わせが増加。継続的なサービス運営のためにはしっかりと収益を上げられることも必要なため、サービスを法人向けにシフトすることを決断した。サービス拡大のための軍資金として、Coral Capitalを引受先としたJ-KISS型新株予約権方式により2500万円の資金調達も実施している。

今後は開発・オペレーション体制を強化するとともに、引き続きセキュリティ面への投資や機能拡充にも力を入れていく計画。他サービスとのAPI連携や物流連携などもすでに水面下で動いているそうで、PoCにも取り組む予定だという。

この事業ではセキュリティも1つのポイントになる。atenaでは初期から体制を整備することで、上場企業への導入も進む
この事業ではセキュリティも1つのポイントになる。atenaでは初期から体制を整備することで、上場企業への導入も進む