サイカの経営陣。左から執行役員CFO杉山賢氏、代表取締役CEO平尾喜昭氏、取締役COO彌野正和氏、執行役員CTO是澤太志氏  すべての画像提供 : サイカ
サイカの経営陣。左から執行役員CFO杉山賢氏、代表取締役CEO平尾喜昭氏、取締役COO彌野正和氏、執行役員CTO是澤太志氏 すべての画像提供 : サイカ

どの広告が売上に対してどれだけ貢献しているのか──。これまでは正確な分析が難しかったテレビCMを始めとするオフライン広告も含め、企業が手掛けるさまざまな広告施策の効果を統合的に分析して最適化をサポートする「XICA magellan(マゼラン)」が事業を伸ばしている。

2016年9月のサービスローンチから約4年、国内のエンタープライズ企業を中心に100社以上の顧客を抱え、SaaSの成長指標として有名な「T2D3」(サービス開始から年々3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と売上成長を継続していること)に迫るペースで拡大してきた。

直近では新型コロナウイルスの影響で多くの企業が広告予算の見直しを迫られる中で、広告の成果を俯瞰的に捉え、最適な予算配分を実現したいというニーズが増加。マゼランへの引き合いもこれまで以上に増えている。

そんな要望に応えるべく、運営元のサイカでは9月16日に開発部門・事業部門の人員強化などを目的とした総額12.1億円の資金調達を実施した。

今回同社に出資したのはDNX Ventures 、ジャパン・コインベスト3号(三井住友トラスト・インベストメントが運営するファンド)、NTTドコモ・ベンチャーズ、 およびSalesforce Ventures(セールスフォース・ドットコムの投資部門)の4社。ジャパン・コインベスト3号以外の3社はすべて既存投資家であり、サイカの累計調達額は今回のラウンドも含めて21.6億円となった。

マゼランの機能構成。統計的な分析手法を基に、オンライン広告・オフライン広告を統合して各施策の成果を正確に分析できるのが特徴
マゼランの機能構成。統計的な分析手法を基に、オンライン広告・オフライン広告を統合して各施策の成果を正確に分析できるのが特徴

サイカが開発するマゼランはMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)という手法を軸にした広告分析ツールだ。

MMMとは統計的な分析手法を基に、さまざまなマーケティング施策が事業成果に与える成果を定量的に測定し、マーケティング投資の最適化やシミュレーションを行うアプローチのこと。マゼランではオンライン広告・オフライン広告を統合して各施策を適性に評価することで、成果への貢献度だけでなくROI(費用対効果)を踏まえた最適な予算配分を算出できる仕組みを作った。

サイカ代表取締役CEOの平尾喜昭氏によると、ここ20年で広告媒体が多様化する中で、企業のマーケターは「結局どの広告がどれだけ成果に繋がったのかがわからない」「その結果として適切な予算配分ができない」という2つの課題を抱えているという。マゼランではこれらの課題をツールとCSメンバーによるサポートで解決する。

たとえば企業がテレビCMを実施する際にはオンライン広告や交通広告などと連動してプロモーションをかけることが多いため、テレビCMだけの成果を正しく評価するには他の施策の成果を差し引いて考えなければならない。そうでなければ“過大評価”に繋がってしまう可能性があり、適切な予算配分も実現できないからだ。

従来こうした複雑な分析はデータサイエンティストなど“分析のプロ”が時間をかけて行ってきたが、マゼランでは同じような分析業務を「現場のマーケター」が限られた時間で実施できるのが大きな特徴。これまで属人的で労働集約的だった業務を誰でもできるようにするという意味では「分析の民主化という側面もある」(平尾氏)という。

認知から成果に至るまでのつながりを可視化
認知から成果に至るまでのつながりを可視化
統合的に分析することで自社にとって最適な予算配分を算出
統合的に分析することで自社にとって最適な予算配分を算出

またサイカのCSチームには事業会社や広告代理店で実際にマーケティングの現場を経験してきた“元マーケター”が集結。「ツールで分析をした後にどのようなアクションをすべきなのか」はCSメンバーがしっかりとサポートする体制ができているそうだ。

4年間かけてプロダクトの磨き込みとサポート体制の強化を進めてきた結果、独自の分析技術やナレッジも溜まってきた。特にテレビCMを科学するような分析ツールは近年増えてきているものの、コアとなる分析技術では負けない自信があるという。

現在はライオンやパナソニック、KDDIなど広告予算の大きいエンタープライズ企業を中心に導入企業は100社を突破。昨年ショッパーズアイが実施したサイト比較イメージ調査では「CM効果分析ツール」を含む3部門でナンバー1を獲得するなど、定性的な評価も高めてきた。

「ようやく胸を張って世の中に出せるものになってきた」(平尾氏)からこそ約2年半ぶりとなる外部調達を決断し、ここからは組織体制を強化しながら一気に事業を加速させる計画だ。

冒頭でも触れた通りコロナの影響で事業環境が悪化し、広告宣伝に使える予算を減らす企業も多い。マーケティング投資の最適化は今まで以上に重大なミッションとなっている。

「従来はテレビCMはテレビCM、ネット広告はネット広告という形で独立した指標で分析をして、部分最適になっている企業も多かった。それが近年デジタル広告が急激に伸びる中で、デジタルにずっと投資をしたからといって必ずしも同じような成果が出続けるわけではないということが見えてきました。改めて俯瞰的に全体を見た上で本当に最適な予算配分を考えたいという企業が増え、結果的にマゼランへの引き合い自体も増えている。その動きを今回のコロナがさらに加速させたような印象です」(平尾氏)

「自分たちが最適化しているオフライン広告は、企業のコストの中でも説明が難しかった部分です。だからこそ実はしっかりと分析をすればオフラインの方が投資効率が良いのに、オンライン広告に流れてしまうケースもありました。このような市況だからこそ、オフラインとオンラインを統合して広告の最適化を図りたいというニーズは増えていくと感じています。広告をサイエンスする動きが広がる中で、そのサポートをしながら自分たちも一緒に成長していきたいと考えています」(サイカ執行役員CFOの杉山賢氏