
- 多様性に対応し米国での支持を獲得
- コロナ禍でアクティブユーザー数は倍増
- ニュースアプリから“情報インフラ”へ
新型コロナウイルス、ブラック・ライヴズ・マター、大統領選挙──。米国民は今年、これらの事象に関する情報を積極的に追っている。そこで利用が急増しているのが、日本発のニュースアプリ「SmartNews」だ。
SmartNewsは、さまざまなメディアのニュースを幅広く配信。独自のアルゴリズムでユーザーごとにコンテンツをパーソナライズし、個々人に適した情報を提供する。
運営元のスマートニュースは2014年にSmartNewsの米国版をローンチ。米国の解析サービス「Parse.ly」の発表によると、英語圏におけるメディアへの送客元として、2018年12月には米ヤフーを抜いて第10位にランクインしている。2019年には評価額が10億ドルに達し、晴れて“ユニコーン企業”となった。
SmartNewsの総ダウンロード数は5000万以上(2019年10月末時点、日米合算)、月間アクティブユーザー数は2000万以上(2019年8月末時点、日米合算)だ。2019年11月には総額100億円を調達し、米国展開のさらなる加速に踏み切った。
日本に先んじて、サブスクリプション化やニュースレターなど、メディアのさまざまな配信方法が模索されている米国。その中でニュースアプリのSmartNewsがユーザーに評価されている理由はどこにあるのか──。スマートニュース代表取締役会長兼社長の鈴木健氏に話を聞いた。
多様性に対応し米国での支持を獲得
──米国ではどのようなユーザーがSmartNewsを使っているのでしょうか。
米国では、もともとのコアなSmartNewsユーザーは“ニュース好き”の人たちでした。色々なニュースを比較して読む人たちです。
最近では、米国の様々な郡に住む多様な人たちがナショナル(全国)とローカル(地域)、両方の情報を得られて便利だから使いたいという人たちが増えてきています。

米国には50の州があり、その下に約3100の郡(カウンティー)があります。郡は日本で言うところの市町村1つに相当する人口規模があります。その各郡単位に関する情報を配信するチャンネルを米国版では用意しています。
SmartNewsではあらゆるジャンルのニュースを扱っていていますが、米国では特にローカルニュースの配信に注力しており、専用のチャンネルをトップのすぐ隣に配置しています。
ローカルニュースのチャンネルでは、ユーザーの住んでいる地域に関するコンテンツが配信されます。天気予報からコロナウイルスに関する情報までワンストップで見られるところが、米国のユーザーに受け入れられているのだと思います。
日本でも市町村ごとの情報に対するニーズがありますから、今後、日本でも適応される可能性はあるかもしれません。ですが、米国と日本では国土の広さも多様性も全く異なります。日本ではみんなが同じコンテンツを見ている。米国は文化的な多様性も国土も大きいため、日本よりも(ローカルニュース配信の)ポテンシャルは大きいと言えるかもしれません。
ローカルメディアは集客や収益化に苦しんでいると思います。ローカルメディアの読者は狭い地域に住む人たちに限定されがちですが、SmartNewsではその幅を少し広げてレコメンドし、配信しています。結果として、ローカルメディアのオーディエンスデベロップメントと広告収益に貢献しています。
米国でも日本と同様に収益分配のプログラムがあり、いくつかのローカルメディアが参加している状況です。今後はそれも加速させていきたいと思っています。「オーディエンスを作る」というところが、SmartNewsが最も貢献できる部分だと思います。
──日本と米国のユーザーにはどのような違いがありますか。
僕は米国で20ほどの州を訪れ、多種多様な人たちと話したり交流をしてきました。そこで気付いたのは「(パターン化されているという意味での)典型的な米国人」など存在しないということです。そのため、SmartNewsを日本と同じやり方で広めようとしても、米国の人たちには受け入れられない。
多様性にどのように対応していくかを考えて、3年前に「FOR YOU」という機能をリリースしました。これはユーザーごとにパーソナライズされたコンテンツを配信する機能です。
ですが、パーソナライズを強化すると、今度はフィルターバブル(検索エンジンなどのアルゴリズムによって、ユーザーが自分の興味ある情報にしか触れられないこと。結果として情報の断絶が起こる)によって視野が狭くなるという問題が出てきます。
政治的分極化(ポリティカルポラライゼーション)が進む中、我々はこの問題の解決に貢献したいと強く願っています。そこで「News From All Sides」というスライダーの機能(編集部注:画面下の「Political Slider」というスライダーを左(リベラル)右(コンサバティブ)に動かすことで、表示される政治ニュースが変わる)を去年、提供開始しました。
4年前の大統領選挙の以前から、リベラルとコンサバティブのコンテンツを両方とも配信するなど、バランスを取った編成はしていましたが、それをユーザーにより強く実感してもらえる機能がNews From All Sidesです。
FOR YOU、News From All Sides、そしてローカルニュースの配信が、アメリカの多様性に対応する鍵となっています。
コロナ禍でアクティブユーザー数は倍増
──コロナの感染拡大はユーザー獲得につながりましたか。
米国での成長は好調です。日本では2月中旬、米国でも3月の上旬くらいに新型コロナウイルスの特設チャンネルを作りました。その後に大きな第一波が米国を襲い、人々がコロナに関する情報を集めていたということもあり、かなり急速にユーザー数が増えました。
アクティブユーザー数はコロナ以前と比較して倍以上です。新規ダウンロード数もかなり伸びていて、コロナの感染が急速に広がった3〜4月の新規ダウンロード数は特に多かった。コロナに加えて、ブラック・ライヴズ・マターや大統領選挙など、米国では国民の関心がこのような情報に向いています。ニュースに対する関心が既存ユーザーも含めて非常に高くなっている状況です。
コロナに関する情報は米国全体の国レベルの情報に加えて、郡単位のローカルな情報も積極的に配信しました。結局のところ、人々にとって一番関心があるのは、自分たちの周りで何が起こっているか。郡ごとの情報を配信するチャンネルを早い段階で提供開始したことが、新たな米国ユーザーに受け入れられた理由だと思っています。
──事業成長についてはいかがでしょうか。
広告単価自体はコロナの影響で下がっています。一方でニュースを読みたいというニーズは強く、滞在時間が延びています。それで打ち消しあっているような状況です。
広告主もコロナに直面して意志決定が大変だと思いますが、(出稿先に)選ばれる場として存在感を出していきたいです。
──米国を皮切りに日本でもメディアのサブスクリプション化が起こっています。この動きはSmartNewsにどのような影響がありますか。SmartNewsがメディアのサブスクリプション機能を担うようなことを検討していますか。
メディアのサブスクリプション化の流れは強く感じています。ですが、僕はサブスクリプションモデルと広告モデルは共存する世界になっていくだろうと思っています。
全てのコンテンツがサブスクリプションになってしまったら、無料で読めるコンテンツはなくなってしまう。そうすると、お金を払える人しか良質なコンテンツにアクセスできない社会になってしまします。
それでは社会の分断が進んでしまう可能性があります。一方で、サブスクリプションモデルでなければ維持できないコンテンツのエコシステムもあります。ですがそれは広告モデルと共存していく。
SmartNewsとしてサブスクリプションを提供する予定は現時点ではありませんが、メディアのオーディエンスデベロップメントに貢献させていただき、その先で各社がサブスクリプションに登録するユーザーを増やしていくということを、支援できたら良いなと考えています。
ニュースアプリから“情報インフラ”へ
──ニュースのプラットフォームとも言えるSmartNewsが果たすべき役割はコロナを契機に変わりましたか。
僕たち自身でSmartNewsを「プラットフォーム」と呼ぶことはしていません。提供しているのはあくまでもニュースアプリです。
コロナをきっかけに変わったことは、「自分たちの仕事は重要なんだ」という自覚が一層高まったことです。ここ半年は社員が一丸となってミッションに取り組む期間となりました。一刻でも早く正しい情報を配信できる仕組みを作っていくために、一カ月で15回ほどのアップデートを実施することもありました。
米国ではエッセンシャルワーカー(人間が社会生活を維持する上で不可欠な仕事に従事している労働者)という言葉があります。僕たちは危機的な状況であるからこそ、インフラとして情報を配信し続けなければならない。そして正しい情報を配信しないといけない。
SmartNewsはニュースのプラットフォームではなくインフラなのだと考えています。
──検討している追加機能など、今後の展開について教えてください。
ニュースアプリとして提供したいと考えている機能やコンテンツは多岐に渡ります。
直近では閲覧履歴を見られるようにし、検索機能も追加しました。このような基本的な機能もしっかりと提供していくことが重要です。
そしてニュースはテキストコンテンツだけとは限りません。天気予報や雨雲レーダーも重要なニュースコンテンツです。インフラとしての基本機能をしっかりと強化し、足腰をしっかりとしていきたいと思っています。
グローバル開発体制の構築のために去年、資金調達を実施しました。以前からやりたかった企画を世に出していく体制ができ、開発が加速しています。
米国では11月に大統領選挙がありますので、これに向けた機能を米国限定でローンチする予定です。
新機能では、2020年1月に開設された大統領選挙の特設チャンネル「Election 2020」において、候補者に関するニュースに加え、大統領選挙で投票するために必要な情報を提供します。
具体的には、ドナルド・トランプ氏とジョー・バイデン氏について、News From All Sidesで見られるようになります。そして各郡ごとの投票に関する情報をワンストップで得られるようになります。
米国の大統領選挙は制度がとても複雑なので、米国の方々が正しい選択をできるように、インフラとしてサポートしていきたいと思っています。

──コロナに伴うリモートワークは組織にどのような影響を与えましたか。また年初には、ネットにはキーマンが流出しているという匿名の投稿もありました。
300人規模の企業になると、会社として1人1人と向き合っていく中で、本人と会社がやりたいことが一致しないケースは当然出てきます。ですが、会社全体の士気はすごく高いです。特にコロナがニュースになり始めた2月くらいからは従業員の結束はより一層高まっています。
リモートワーク下、この状況を長期的に持続させるためにケアしていく必要はあると思っています。リモートワークでは生産性が高くなりますが、チームの信頼関係を作っていくには対面で話したりすることが重要です。チームビルディングをきちんとやっていかなければならないと考えています。
ですが、今はどんどんと新しい機能がリリースされているし、結果も出てきています。会社の雰囲気は良好な状態です。