BitStarの渡邉拓社長 Photo by Karin Hanawa
  • 子どもの間で「ユーチューバー」人気が加速
  • バンダイナムコが挑む「子ども向けYouTube番組」の世界
  • 企業がYouTube番組を制作したい理由
  • SNSのトレンドは、YouTubeが一人勝ち

インフルエンサーマーケティングを行うBitStarが、YonTube番組の制作スタジオ「BitStar Studio」を立ち上げた。企業のYouTube番組の制作を、企画から分析までサポートする。スタジオ発の番組第一弾として8月9日、バンダイナムコエンターテインメントが、新作ゲーム「ニンジャボックス」の番組の配信を開始した。大手ゲーム会社がYouTube戦略に乗り出す背景にある、市場の変化とは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

子どもの間で「ユーチューバー」人気が加速

「学校では、いつもユーチューバーの話が出る。知らないと乗り遅れるから大変」

 都内の小学校に通う5年生のゆうた君(仮名)は、親のスマートフォンで毎日、人気のユーチューバーの配信を視聴する。友達との会話についていくために、毎日のチェックが欠かせないという。

 日本FP協会の調査では、小学生男子の「将来なりたい職業」で、ユーチューバーが2年連続6位にランクインした。さらに、2019年3月に内閣府が発表した『青少年のインターネット利用環境実態調査』によれば、10歳から17歳の青少年がインターネットを利用する用途のうち「動画視聴」は78.6%を占め、第1位だった。

 ユーチューバー大流行という追い風の中、インフルエンサーマーケティングで成長した企業がBitStarだ。BitStarが今回設立したコンテンツスタジオ「BitStar Studio」は、番組制作はもちろん、コンセプト立案やマーケティング、分析に至るまでを、専門のクリエイティブ集団が一気通貫で行う。その最初の利用企業として、ゲーム大手のバンダイムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ)が名乗りを上げた。

バンダイナムコが挑む「子ども向けYouTube番組」の世界

 バンダイナムコは、『機動戦士ガンダム』シリーズをはじめ、ゲームやアニメなどエンターテインメント分野でキャラクターなどのIP(知的財産)戦略を進めてきた。近年、インターネットの発展に伴い、世代間で嗜好が細分化し、キャラクターごとにマーケティング手法が異なっている。

9月26日に発売予定のNintendo Switch用ゲームソフト「ニンジャボックス」(提供:BitStar)

 そこで今回、YouTubeと親和性が高い小学校高学年の男子をターゲットにした「ニンジャボックス」で、YouTube番組に初挑戦する。「ニンジャボックス」は、9月26日に発売予定のNintendo Switch用ゲームソフトだ。

「アニメやゲームなどのコンテンツビジネスは数多く手がけてきましたが、新しくIPを立ち上げて、0からYouTube番組をスタートさせるのは初めて。息の長いプロジェクトにしていきたいです」(バンダイナムコ CEアジア事業部・佐竹伸也氏)

 しかし、自社でゼロからYouTube番組を育てるのはとても難しい。

「YouTube番組って、ウケるポイントが独特なんです。あえて日常感のある身近な出来事を発信したり、ユーチューバーの素を見せて親近感をもたせたり。テレビを観て育ってきた世代には、つかみにくい世界だと思います」(バンダイナムコ メディア室・冨田功一郎氏)

バンダイナムコ メディア室・冨田功一郎氏(右)と、バンダイナムコ CEアジア事業部・佐竹伸也氏 Photo by K.H.

“YouTubeを観ていない人が番組を作ると失敗する”という定説があるほど、番組制作にはコツが必要だった。そのため、YouTubeのマーケティングに精通するBitStarと組むことを決めた。

「人気ユーチューバーやゲーム実況など、移ろいやすい小学生男子の目線に合わせたアイデアを出してもらえるのが良いですね。特に数値的なKPIは置いていないのですが、目先10年はニンジャボックスというIPを大きく育てていく気概でやっています。まずは子どもたちに楽しんでもらうことが第一です」(冨田氏)

企業がYouTube番組を制作したい理由

 これまで広告事業を中心に成長してきたBitStarが、今回コンテンツスタジオを立ち上げるに至ったのには理由がある。

「YouTube番組が次々と量産され、中身がありふれたものになっていくのを目の当たりにしました。視聴者の目はどんどん肥えていくのに、企画のコンセプトから配信までをすべてユーチューバーが行い、質を担保するのは至難の業です」(BitStarの渡邉拓社長)

 海外では5年前から、ユーチューバーをサポートするマルチチャンネルネットワーク(以下、MCN)がデジタルスタジオを立ち上げて、コンテンツの制作や配信を同時に行っていくのが主流になっていた。こうしたトレンドもあり、インフルエンサーの活躍できる場をコンテンツ面からも支援することを決めた。

これまでBitStarで制作した番組のラインナップ(提供:BitStar)
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「2年前に、新聞社やテレビ局などのマスメディアと共同でYouTube番組を作り始めました。バラエティや映画、美容・フィットネスなど、多岐にわたるジャンルで実績を積んでいくうちに、芸能タレントの番組や社員ユーチューバーの育成など、制作の幅が広がっていきました」(渡邉氏)

 そのうち、企業から直接、 “YouTube番組を制作したい”という声がかかるようになった。テレビからYouTubeにスポンサードの土俵を変え、インフルエンサー活用の効果を実感する企業が増え始めていたのだ。しかし、企業が自社でYouTube番組を設立しても、番組作りのノウハウやユーチューバーのマネジメントが難しく、失敗するケースが多い。

 そうしたニーズに応えるために今回、コンテンツスタジオを設立するに至ったのである。

「若年層をターゲットにしている企業から、長期的なブランディングのために依頼される需要が増えています。先行投資をしてファンを積み上げていければ、番組以外の派生ビジネスで拡大していける部分に可能性を感じているのだと思います」(渡邉氏)

SNSのトレンドは、YouTubeが一人勝ち

 今後も、YouTubeの人気は加速していくのだろうか。

「SNSのトレンドは当分、YouTube一強だと思っています。ほかのSNSはある程度フォーマットが決まっているのに対して、YouTubeは “人”にフォーカスした独自性の強いものが多い。テレビに近くて、簡単に真似できないんです」(渡邉氏)

 また、さらなる市場拡大の予感もある。

「YouTubeがスタートして15年がたち、最近では20代30代の視聴者も増えています。その分コンテンツもリッチ化している傾向にあるので、大人向けコンテンツも増えていくでしょう」(渡邉氏)

 BitStarが制作する動画コンテンツは、総月間再生数が半年で2.5倍になり、順調にファンを増やしている。

「企業のパートナーとして、中長期で一緒に番組を作っていくことにこだわっています。まずは月間再生数1億回を目標に、業界No.1のYouTubeクリエイティブ集団を目指します」(渡邉氏)

 当たり前が通用しないYouTubeという特殊な世界で、子ども相手に本気のコンテンツ作りに挑む大人たち。トレンドに乗り遅れない瞬発力が必要なのは、間違いない。

(YouTubeで配信しているWEBアニメ『ニンジャボックス』第1話)