請求書の経理処理業務を効率化する「sweeep」  全ての画像提供 : オートメーションラボ
請求書の経理処理業務を効率化する「sweeep」 全ての画像提供 : オートメーションラボ
  • 独自開発のOCR機能軸に、請求書の処理業務を効率化
  • 10年以上のコンサル経験で見えた「請求書」にまつわる課題
  • 8割の業務削減を実現、経理のリモートワークニーズにも対応

テクノロジーの活用によるバックオフィス業務の効率化が加速しているが、「請求書の処理」はまだまだ改善の余地が大きい領域だ。

多くの経理担当者は紙やPDFファイル、専用のツールなどさまざまなルートで送られてきた請求書を1つずつ確認し、仕訳登録や振り込みデータの作成を手入力で行う。受け取った請求書を紙のみで保管している場合には、後か参照したいと思っても探すだけで一苦労だ。

2011年設立のオートメーションラボでは、こうした請求書の受取から保管に至るまでの経理処理を効率化する「sweeep(スウィープ)」を提供している。同サービスでは独自開発したAI-OCR機能(文字認識技術)などを用いることで、請求書にまつわる定型業務を自動化。担当者の負担を削減する。

独自開発のOCR機能軸に、請求書の処理業務を効率化

sweeepでは独自開発したAI-OCR機能で請求書に記載された情報を読み取り、自動で仕訳作業を行う
sweeepでは独自開発したAI-OCR機能で請求書に記載された情報を読み取り、自動で仕訳作業を行う

sweeepはサービス上に登録した請求書の内容を解析し、自動で会計仕訳や振込データを作成してくれるプロダクトだ。

請求書の登録方法は取引先に専用画面からデータをアップロードしてもらう方法のほか、メールで送られてきたものを専用アドレスへ転送する形式や、郵送で受け取った紙の請求書をスキャナなどを使ってPDF化する形式にも対応。全ての請求書をsweeep上に集約しておくことでそれ以降の経理処理がスムーズになる。

登録した請求書の内容は搭載したOCRエンジンが判別し、数秒で会計仕訳を作る。あわせて請求書に記載された振込先の銀行口座情報を抽出することで、振込データまで素早く完成させてくれるのもポイントだ。

オートメーションラボ代表取締役の村山毅氏によると、従来はさまざまなルートから回収された請求書が経理担当者の元に集められ、その内容を1つ1つ目視で確認しながら仕訳作業を実施していた。支払い期日が“翌月末払い”のケースが多いため、受け取った請求書は整理した上で一度棚などに保管しておき、月末に再度引っ張り出してきて内容を照らし合わせながら振り込み作業をすることも珍しくない。

sweeepでは一連の「回収・仕訳・振込・保管」業務の大部分が自動化されるわけだ。

複数の回収ルートに対応。オンライン回収機能を使えば、スムーズに請求書データを受け取れる
複数の回収ルートに対応。オンライン回収機能を使えば、スムーズに請求書データを受け取れる
受け取った請求書はsweeepで一元管理。紙で管理する場合と比べて過去の請求書も見つけやすい
受け取った請求書はsweeepで一元管理。紙で管理する場合と比べて過去の請求書も見つけやすい

10年以上のコンサル経験で見えた「請求書」にまつわる課題

sweeepのアイデアは村山氏の過去の経験が大きく影響している。村山氏は会計コンサルティングファームの出身。同社では会計システムの導入やBPR(業務プロセス改善)にまつわるコンサルティング業務に携わった。

2011年にオートメーションラボを立ち上げた後も経理を含めたバックオフィス領域のBPRやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業務に取り組む中で、多くの顧客が「請求書の処理」に課題を抱えていることに気づいたという。

「基本的に紙でやりとりされることが多く、(他の業務でデジタル化が進んでも)請求書だけはデータに繋がらず、デジタル化から取り残されてきました。請求書の処理は月末月初の忙しい時期に、人海戦術で大変な思いをしながらこなしている現場がほとんど。決して生産性の高い仕事とは言えず、同じような情報をひたすら打ち込み続ける作業の割合が多いです。15年ほどこの領域のコンサルティングをやる中で、どうすれば現場の担当者が少しでも楽しく仕事ができるかを模索してきた結果、請求書の処理はなるべく機械に任せ、担当者がもっと別の業務に時間を使えるようにしたいと考えました」(村山氏)

2016年にRPAの導入コンサル事業を始めたことも1つのきっかけになった。そこで請求書の処理業務が現場の負担になっていることを改めて痛感するとともに、その業務を自動化するためには“紙で送られてきたアナログなデータ”を正確に読み取るOCRが必要だと考えるようになった。

sweeepの開発に取り組んでいた2017年から2018年は日本でもAIを活用したOCRプロダクトが複数登場し、注目を集め始めていた時期だ。OCR自体は決して珍しくなかったが、それでも請求書に特化したOCRエンジンはまだなかった。

加えて、単にOCRを用意するだけでは根本的な問題解決には繋がらない。請求書の読み取りに特化したOCRを開発した上で、その後工程も含めてサポートできる仕組みが必要だと村山氏は考えた。

「OCRはいわば『目』に当たる部分。もちろん重要な機能であることは間違い無いですが、読み取ったデータを判断して実際に仕訳などの業務を行うのは人間です。OCRだけでは、結局その後の業務に人が介在しないと進まなくなってしまう。関連する業務をトータルでサポートできるプロダクトが必要であり、自分はユーザー側の業務を熟知していたのでこれまでの経験が活かせると思いました」(村山氏)

オートメーションラボ代表取締役の村山毅氏
オートメーションラボ代表取締役の村山毅氏

8割の業務削減を実現、経理のリモートワークニーズにも対応

約1年ほどの期間をかけて準備を進め、2018年12月にsweeepをリリース。現在は大手企業を中心に100社以上に導入されている。

顧客の業界などはバラバラだが、「請求書の処理業務をする上で紙をなくしたい」というニーズは共通だ。

たとえばある現場では3人の担当者が月初の請求書の整理・仕訳作業に20〜30時間、振り込み作業に別途10〜20時間ほどを要していたそう。そこにsweeepを取り入れることで実際に8割ほどの業務削減に繋がった。このような現場は多く、同サービスの顧客の典型的なパターンだ。

同様のシステムも存在はするが、請求書に特化したOCRエンジンを持っていることと、文字を読み取った後の経理業務に対応していることがsweeepの強みになっている。

村山氏によると汎用型のOCRエンジンは非定型のものに弱く精度が落ちてしまったり、ユーザー側に別途作業が発生してしまったりするものも多いそう。sweeepではあくまで請求書に絞って認識技術を磨いてきたことで高い精度を保てるだけでなく、自動仕訳を代表するように読み取ったデータの変換処理の仕組みも整えてきたことがユーザーからの評価に繋がっているという。

シンプルな業務削減ニーズに加え、ここ半年ほどでリモートワーク環境に対応するためにsweeepを使いたいという声も増えた。上述した通り同サービスにはオンライン上で請求書データを回収する機能が以前から実装されていたが、それは請求書の発行元が電子データで請求書を作成することが前提。紙で郵送された請求書については出社して対応する必要があった。

そこでオートメーションラボでは7月にクラウド郵便管理サービスの「atena」と連携。ユーザーが両サービスを使うことで、“紙の請求書のための出社”をなくし、完全にオンラインで請求書を回収できる仕組みを作った。

atena以外でもクラウド会計サービスのfreeeなどとAPI連携を進めてきたが、今後も他社サービスとの連携を強化していく計画。他にも10月に施行される改正電子帳簿保存法に対応する新機能などを取り入れながら機能拡充を進めるほか、SMB向けの新プランも打ち出しながら顧客拡大を目指す(現在はミニマムで月額10万円から)。

そのための資金として、ベンチャーキャピタルのKVPからの出資と銀行からの融資により総額で6500万円の資金調達も実施した。

「10月に電子帳簿保存法がアップデートされることに加えて、2023年10月に予定されているインボイス制度など、請求書にまつわるいろいろな制度が変わってきているタイミングです。自分たちとしてはそれに対して先手を打ってプロダクト開発を進めていくことで、ユーザーの利便性の向上と課題解決に繋げていきたいと考えています。ゆくゆくは紙の請求書を無くしたい。そこに向けたアイデアはいくつもあるので、今回の資金調達を機に、事業のスピードを加速させていきます」(村山氏)