記者会見の様子。左からメルカリユーザーの五味春生さん、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授、メルカリ執行役員 メルカリジャパンCEOの田面木宏尚氏、メルカリユーザーの毛利多起子さん
  • 「終活」「生前整理」で60代以上の利用者が急増
  • 60代以上の利用者、「お金」目的は20代の半分に
  • アプリ利用のアクティブシニア、資産額や就労意欲も高い結果に
  • 今後はリアルイベントとウェブの機能を強化

60代以上のフリマアプリ利用者は、「お金」のためではなく「つながり」や「やりがい」のためアプリを利用している——フリマアプリを提供するメルカリがこんな調査結果を発表した。(ダイヤモンド・オンライン副編集長 岩本有平)

 メルカリは3月11日、「60代以上のフリマアプリ利用実態」と題した意識調査の結果を発表した。調査は全国のフリマアプリ利用者および非利用者1648人を対象にしたもの。全体の半数が60歳以上の男女、残りが20~29歳の男女となっており、それぞれの半数がフリマアプリの利用者となっている。調査はインターネットで実施しており、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授が監修した。

「終活」「生前整理」で60代以上の利用者が急増

 2013年にサービスを開始したフリマアプリの「メルカリ」。もともとメインターゲットとなっていたのは、自身や子ども向けのファッションアイテムを売買する20代の地方の主婦だった。だが規模の拡大とともに利用者の幅も広がった結果、近年では60代以上の利用者が増加していると同社は説明する。「生前整理」「終活」といったキーワードをつけて出品される商品は、2017年から2018年にかけて2.5倍に増加したという。

 また、メルカリが2019年1月に発表した利用動向によると、利用者1人あたりの平均月間売上額が1万7348円(2018年1月1日~12月31日平均)だったのに対して、60代以上の男性は3万1960円。これは60代以上の女性は2万9788円だった。シニアの利用者は、レコードや美術品、スポーツ用品など比較的高額な商品を出品しているからだ。

(メルカリのプレスリリースより)年代別1人あたりの平均月間売上額(メルカリのプレスリリースより)

 メルカリがデータ提供し、ニッセイ基礎研究所が監修する「みんなのかくれ資産調査委員会」の調査によると、かくれ資産、つまり日本の家庭に眠っている有効活用可能な不要品の1人あたり平均額は約28万円。そのうち60代以上の女性に限定した平均額は49.8万円と世代別で見て最も多くなっている。シニア層がメルカリを利用することで、サービスへの流通額拡大も期待できるということだろう。

性・世代別のかくれ資産平均値性・世代別のかくれ資産平均値(みんなのかくれ資産調査委員会のプレスリリースより)

 ただし、メルカリは年齢・世代別の利用者数を開示していない。2018年末に発表した流通総額ベースのカテゴリシェアの1位がレディース向けのファッションアイテム、2位がエンタメ関連商品、3位がメンズファッションアイテムという、シニアよりも若者向けの商品の流通が中心であることから、実態としてはまだ若者の利用が中心と考えた方が良さそうだ。

60代以上の利用者、「お金」目的は20代の半分に

 フリマアプリを始めた当初の利用目的に関する質問では、60代以上の回答で最も多かったのが「不要品の処分」で、全体の79.6%という結果だった。2位が「欲しいものをお得に購入」で51.7%、3位が「お金を得る」35.0%だった。

 これに対して、20代の回答では、「お金を得る」の回答が71.6%で1位となった。これは60代以上の割合の約2倍となる割合だ。次いで2位は「不要品の処分」67.7%、3位が「欲しいものをお得に購入」38.8%となった。また、フリマアプリ利用後の意識変化についての質問では、「社会とのつながりを感じるようになった」と回答した60代以上の利用者は20代の約3倍となった。

フリマアプリを始めた当初の利用目的(メルカリのプレスリリースより)

アプリ利用のアクティブシニア、資産額や就労意欲も高い結果に

 今回の調査には、60代以上のフリマアプリ利用者・非利用者の資産額や就労意欲の違いに関するアンケートも含まれている。

 平均資産額では、アプリ利用者が約2500万円、一方の非利用者は約2100万円。アプリ利用者のうち50.0%が「歳を重ねても働き続けたい」と回答する一方、非利用者の回答は38.8%にとどまった。またアプリ利用者は、非利用者と比較して就労意欲が高く、特に「人とのつながりを持つため」という項目ではアプリ利用者(46.6%)と非利用者(37.1%)の差が大きくなった。さらに今後、チャレンジしたいことがあるかどうかという質問についても、アプリ利用者の65.5%が「ある」と回答したのに対して、非利用者は47.6%にとどまる結果となった。

年を重ねても働く目的について(メルカリのプレスリリースより)

 ただしこれらのデータは「(アプリを利用したから資産額が多いといった)因果関係を求めているワケではない」(前野教授)「(インターネット調査であるため)インターネットを使いこなしている人の回答で、リテラシーは高くなっている」(メルカリ執行役員 メルカリジャパンCEOの田面木宏尚氏)との説明があった。

 同日開催された記者会見には、譜面台など音楽関連グッズを販売する五味春生さん、つまみ細工を販売する毛利多起子さんという60代以上のアクティブなメルカリ利用者も登壇した。「子どもの頃から得意だったこと(工作)を掘り起こして、完全燃焼して悔いないように生きたい。メルカリは見知らぬ人とつながる『へその緒』のような存在。人の温かさが入ってくる」(五味さん)といった調査結果を裏付けるようなコメントが出た。一方で質疑応答になると、「周囲の同年代には利用者はまだまだ少ない」(五味さん)というコメントもあり、シニア層への認知拡大という課題も垣間見えた。

今後はリアルイベントとウェブの機能を強化

 また田面木宏尚CEOは、今回の調査結果について「もう少し『お金を得るため』という回答が多くてもいいかと思ったが、より繋がりを求めるシニアの方が多いということに驚いた」とコメント。ただ商品を売買するだけでなく、例えば売れた商品に手紙を添えて送付するといった、コミュニケーションが評価されているという見方を示した。

 また今後の展開について、「メルカリサロン」と呼ぶ利用者向けイベントを地方でも展開することで、アプリ内にとどまらない利用者との交流を進めるほか、ウェブサイトの(現在メルカリはアプリへのアクセスが9割を占めており、ウェブサイトはあるものの、一部の機能が利用できない)機能強化、リアルでの施策を含めた非利用者の取り込みを進めるとした。