
動物愛護のために犬や猫の不妊去勢手術を行うとしてクラウドファンディングで募った寄付金の一部を、目的外の用途で使用したのではないかとの指摘を受けていた和歌山市。市議会議員による、「印刷製本費」、「自動車保険料」や「賃借料」などに使われていた可能性についての論及により、SNSでは「クラウドファンディング詐欺」、「これだから寄付ってのは信じられない」、「ムカつくし、悲しかった」などと波紋が広がった。
和歌山市側は、使途は「動物愛護思想の啓発」を目的としており適切で、集まった約2790万円の寄付金は使い切ったと説明してきたが、9月28日に「大きな誤りがあった」として、これまでの説明を撤回した。寄付金はクラウドファンディングで説明していたとおり、動物愛護目的に限定して使用されてきたという。使い切ったはずの寄付金は、実際には約1370万円が残っていたと発表された。
寄付金の目的外の使用はなかったとしているが、一方でその粗雑な予算管理の実態が浮き彫りとなった。
和歌山市の尾花正啓市長は9月28日の厚生委員会で、「寄付金については全額を使用しているのではなく、貴重な財源として、 本年度末において約1370万円残る見込みとなっております」と説明した。
和歌山市議会議員で、今回の問題を指摘していた芝本和己議員は、「ガバメントクラウドファンディングは、行政、自治体が入ってのクラウドファンディング。より明確に、オープンにして、皆様にその使途について、説明責任を負うべきなのに。我々が失ったものは大変大きい。これだけ失った信用を取り戻すのは本当に大変です」と唇を噛んだ。
芝本議員の発言を受けて、尾花市長は、寄付金の使途を明確にするために基金を創設する方針を示した。
混乱の原因は「誤った資料の作成」か
和歌山市は犬や猫の殺処分ゼロを目指し、2019年10月に動物愛護管理センターを設立。設備費、犬や猫に不妊去勢手術を行うための資金を集める手段として、2018年5月から12月にかけて、ふるさと納税で資金を募る「ガバメントクラウドファンディング」で、支援者を集めた。
「手術台や診察台、麻酔装置など様々な設備や薬品」を揃えるために実施したクラウドファンディングには、目標額の1800万円を大幅に超える2457万9745円が、1464人の支援者たちから集まった。市に直接届いた寄付金を合わせて、合計で2790万2545円を得た。
だが、9月24日に開催された市の厚生委員会で、芝本議員は寄付金の一部が「印刷製本費」、「自動車保険料」や「賃借料」などに使われており、「寄付した方々の気持ちを踏みにじっている」と指摘。和歌山市の佐伯正季・健康局長は、使途は「動物愛護思想の啓発」を目的としており適切で、寄付金は使い切ったと説明していた。だが、情報を精査して28日、その説明を撤回した。
佐伯・健康局長は9月28日の厚生委員会で、令和2年度末までに使用される約1420万円は、猫砂などの消耗品、手術用の備品、ワクチンや麻酔薬の購入など、動物愛護目的に限定して使用されていて、使い切ったと説明していた寄付金は約1370万円残っていると説明した。
「ガバメントクラウドファンディングで寄付いただいた2790万2545円について、 平成30年度に手術および譲渡に関する経費に使用した金額は1118万3569円でした。 残金については、決算上、手術および譲渡に関する経費以外にも充当しなければならないと考えてしまい、誤った資料を作成し、9月24日の答弁となってしまいました」(佐伯・健康局長)
寄付金の残金については「基金を設けていなかったことから、残っていないと思っていた。そのことが、そもそもの誤認です。 この原因は実際の寄付金の残額についての財政当局への申し入れができていなかったことにあると考えております。 寄付金(の残金)は、令和2年度末で約1370万円ある見込みであり、財政当局へも共有いたしました」(佐伯・健康局長)
広岡貴之・和歌山市動物愛護管理センター長はDIAMOND SIGNALの取材に対し、「今後は基金を立ち上げ、適切な用途のみに寄付金を使うという基金条例を用意します」と話した。今週中には市のホームページに、使用した寄付金の内訳、残高や基金の詳細について、情報を掲載する予定だという。
和歌山市の説明が事実で、寄付金が本来の用途で使われていたのであれば、問題となるのはその粗雑な予算管理の実態だ。今回のような騒動は、市の信用だけでなく、クラウドファンディング全体の信用を揺るがす事態につながりかねない。実際、SNSでは「文化系のクラウドファンディングで危惧してるのはこういう事例がおきそうなこと」といった類の投稿が目立った。
ガバメントクラウドファンディングを運営するトラストバンクにも、今回の騒動をどのように受け止めているのか、回答を求めている。回答が得られ次第、記事を更新する。