
インターネット広告であれば、クリックや商品の購買など広告主が予め設定した条件を達成した場合に広告料金が発生する「成果報酬型」のモデルは決して珍しくない。一方で広告メディアを代表するテレビCMでは、多くの予算が投じられブランドへの影響力が大きいにも関わらずこのような仕組みが整えられてこなかった。
そこにデータ分析技術を取り入れることで、テレビCMにおいても売上などの事業成果に繋がった場合にだけ費用が発生する成果報酬モデルを実現できないか――。そのような考えから9月29日にスタートしたのが、次世代型テレビCM出稿サービス「XICA ADVA(サイカアドバ)」だ。
開発元のサイカでは、オフライン・オンライン問わずさまざまな広告効果を統合的に分析できる「XICA magellan(マゼラン)」を2016年から提供してきた。今回の新サービスはこれまで国内大手企業を中心に120社以上をサポートする中で、クライアントから要望が多かったために満を辞して作ったものだという。

マゼランの特徴は広告の適正評価と予算の最適配分を実現できること。統計的な分析手法を軸に各広告施策が事業成果に与える成果を定量的に測定した上で、ROI(費用対効果)を踏まえて「どのメディアにいくら予算を配分すれば最も成果に繋がるか」を算出できる仕組みを構築している。
ただしサイカ代表取締役CEO平尾喜昭氏の言葉を借りれば「プロモーションのPDCA
のうち、マゼランで適正化できるのはあくまで評価・分析(Check)の部分のみ」であり、その後の実践の工程には全く手を出せていなかった。
「クライアント企業が特に課題感を感じていたのがテレビCMです。最も予算を投じていてブランディングにも大きな影響を与えるにも関わらず、成果との関係性が見えにくい。数年前からサイカがテレビCM特化のアドエージェンシーになって、分析を軸にテレビCMを手伝って欲しいと何度も言われてきました。まずは分析のプロとしてしっかり基盤を作るのが前提だと考え、これまではマゼランに注力してきましたが、ようやく土台が整ってきたので今回新サービスとなるアドバの提供に踏み切った形です」(平尾氏)
アドバのウリは大きく2つ。1つはこれまで蓄積してきた分析技術を基にテレビCMの全ての出稿プロセスを定量的に評価し、売上などの事業成果を最大化する出稿プランを作れること。もう1つが出稿前に合意した事業成果を獲得できた場合に初めて管理進行費が発生する成果報酬モデルを採用していることだ。

実際にテレビCMを出稿する場合、通常は上記のような流れで具体的な予算を設定していく。最初に総予算の中から、どのメディアにいくら配分するかを決定。テレビCMに投じる予算が決まった後はエリアごとの配分、各エリアでの局配分、実際に広告を流す時間帯やペースの配分といったように細分化しながら予算を決めていくわけだ。
平尾氏の話では、一連のプロセスにおいて成果を評価する方法に改善の余地があったという。メディア配分に関してはテレビはテレビだけ、デジタルはデジタルだけといったように媒体別で評価がなされていたために、必ずしも各媒体を統合した上で最適な評価ができているわけではない。
テレビCMならではのエリア配分や局配分といった工程では、視聴数の最大化がベースの指標として使われている。そのため「テレビCMをどれだけ放送するか(出稿量)」は約束できても、「テレビCMを放送することで、どれだけ商品やサービスが売れるか」はわからず、CM出稿が事業成果にどれだけインパクトを与えたのかを把握しきれなかった。
媒体を統合して評価することは、まさにサイカがマゼランを通じて解決策を提供してきた領域だ。アドバではこのマゼランの分析機能をテレビCM向けに拡張するともに、プランニングに必要となる仕組みを新たに開発。テレビCMについても売上などの成果に紐付けて分析し、ROIを最大化するための予算配分を策定できるようにした。


この基盤があるからこそ、これまでの出稿ボリュームに応じたマージンモデルではなく、事業成果を対象とした成果報酬モデルも実現できる。アドバでは出稿前に広告主とサイカとの間で事業成果をシミュレーション・確約しておき、それを達成できなかった場合には管理進行費の支払いは不要だ。
「今までの方法では結局テレビCMを実施したことでどれだけ売上が上がったのかがわからなかったことに加え、(成果に繋がったかに限らず)出稿した時点で費用が発生することにも課題感を持っている企業も多かった。テレビCM出稿のプロセスにデータサイエンスを実装していくこと、言い方を変えれば出稿・分析プロセスを徹底的にDXしていくことで顧客のニーズに合った手法を実現できると考えています」(平尾氏)
サイカでは2020年中を目処に、テレビCMのクリエイティブ制作をデータサイエンスにより支援する「ADVA CREATOR」の提供も予定している。今月12億円の資金調達を発表したばかりだが、今後はその資金を活用してさらに事業を加速させていく計画だ。