
- 時短ママから「働くパパ・ママ向け」にリニューアル
- 内部での育成は時間がかかりすぎてしまう
- 現場で活躍する「30〜40代の女性」にフォーカス
- 女性リーダーの新しいロールモデルを増やす
「女性の取締役がいない企業の上場(IPO)は支援しません」
米ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは2020年1月、米CNBC(ニュース専門放送局)のインタビューで取締役の多様性について、自身の考えを明かした。
対象は米国と欧州のみで日本を含めたアジアでの適用は見送られるが、ここ数年で環境や社会貢献、企業統治を重視する「ESG投資」の流れが世界的に加速。機関投資家は女性活躍情報の開示を企業に求め、それを投資判断の材料とするようになっている。
実際、内閣府男女共同参画局が実施した機関投資家へのアンケート結果によれば、9割近くの機関投資家が「ダイバーシティの確保がイノベーションに繋がることが期待できる」と回答。企業における女性活躍の情報を重要視している。
しかし、日本の上場企業における女性役員の登用はまだまだ課題も多い。第2次安倍内閣は「女性活躍」の推進を重要施策のひとつとし、「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」「上場企業役員に占める女性の割合を早期に5%、さらに2020年までに10%を目指す」といった目標を掲げていた。しかし、達成の見込みが立たず、「20年代の可能な限り早期」という方針になるなど、目標は先送りされることが決まった。
コンサルティング企業のプロネッドが東証1部に上場している2168社を対象に調査した結果、2020年7月時点で女性取締役の割合はわずか7%にとどまる。OECD(経済協力開発機構)によれば、2017年時点で上場企業の女性役員の割合がフランスが43%、英国が27%、米国が22%であることを踏まえると、世界から遅れをとっていると言わざるを得ない。

そうした中、企業の女性役員比率を向上させるサービスが登場した。スタートアップスタジオを運営するXTechの子会社「XTalent(クロスタレント)」は10月1日、IT業界の最前線で実績をあげた優秀な女性リーダーを社外取締役・アドバイザーとして紹介するサービス「withwork executive(ウィズワーク エグゼクティブ)」をリリースした。
時短ママから「働くパパ・ママ向け」にリニューアル
XTalentの創業は2019年7月。代表取締役の上原達也氏はSpeeeを経て、JapanTaxiに入社。事業開発を担当した後、XTalentを立ち上げた。
また、執行役員の松栄友希氏はリブセンスでエンジニア向け競争入札型転職サイト「転職ドラフト」の立ち上げを担当し、2019年9月にXTalentに入社した。上原氏、松栄氏はともに2人の子どもを育てるパパとママでもある。その2人が、第一弾の事業として立ち上げたのが、働くパパ・ママ向けのハイクラス転職サービス「withwork(ウィズワーク)」だ。
withworkは働くママ・パパ向けに、フレックスタイムやリモートワーク、時短など柔軟な働き方を採用している成長企業を紹介する人材紹介サービス。希望する働き方や給与体系、すでに在籍するパパ・ママの勤務状況など、“求人票には書かれていない”情報をXTalentが調査した上で、最適な求人とのマッチングを行う。
具体的な使用の流れは LINE友だち追加した後、アンケートに回答。その内容や求人の有無をもとに必要に応じて面談を実施し、マッチする求人が出たら連絡が来る。求職者の希望に応じてオンライン完結型でコーディネートされるのが大きな特徴だ。
もともとは優秀な“時短ママ”と成長企業つなぐ転職サービスとしてスタートしたが、リリース後に企業側のニーズを見て広告クリエイティブやランディングページ(LP)をハイクラス向け(最初は年収400万〜のイメージでスタートしていた)に調整。
また、2020年2月にパパ向けの集客をトライアルで開始したところ、想像以上に獲得のペースが良く、パパ向けの求人にも力を入れていくことになった。
「また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークの増加によって、時短勤務よりもフルタイムのニーズの方が目立つようになってきました。リリース後から微調整を重ねていった結果、優秀な“時短ママ”向けよりも働くママ・パパ向けのハイクラス転職の方がニーズがあると思い、2020年8月にサービスをリニューアルしました」(上原氏)
現在、withworkには毎月100人ほどが登録している。上原氏は「また登録者や業績に関しては、人材紹介という労働集約ビジネスのため、Webサービスのような指数関数的な伸びはできていません。登録数も量だけ伸ばしても質が低いと意味がないと思っており、あくまで自分たちがサービスを提供できる人たちをいかにピンポイントで集客できるかが大事です」と語り、その視点のもとPDCAを回し続けてきた。
内部での育成は時間がかかりすぎてしまう
創業から1年弱。第二弾の事業として仕掛けるのが、優秀な女性リーダーを社外取締役・アドバイザーとして紹介するサービス「withwork executive」だ。
「日本社会において、女性の就業率は49.8%まで上がり、また出産後も働く女性の数は年々増えています。その一方で、withworkの運営を通じて『活躍したい』想いを持ちながらも、活躍の機会を得られない女性が非常に多い現実を痛感しています。また、育休取得など子育てをしていきたいが、周囲の理解を得られていないという男性の声もよく耳にしています」
「この現状を変えていくために重要なのが、意思決定層の多様化です。私たちはwithworkを運営する中で優秀な女性リーダーたちに出会いました。IT業界では優秀な若手の女性リーダーが多く活躍していることに気づき、彼女たちを社外取締役・アドバイザー候補として紹介することで企業の成長に貢献できると思ったんです」(上原氏)

withwork executiveはビジネスの経験が豊富かつ、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の知見を併せ持つ女性エグゼクティブを企業に紹介し、ガバナンスの強化及びダイバーシティ&インクルージョンの促進を支援するサービス。アディッシュ取締役の杉之原明子氏やマクアケ共同創業者・取締役の坊垣佳奈氏などがすでに登録している。
「スタートアップもそうですが、主な利用企業のイメーズは中堅上場企業やIT化を推進したい地方企業、女性社員の活躍を推進したい中小企業です」(上原氏)
企業は多様な視点・経験からくるイノベーション創出・デジタルトランスフォーメーション促進や、女性従業員の人材育成、活躍推進への影響が期待できる。
「女性管理職の登用については、内部での育成が一番大事ですが、どうしても時間がかかりすぎてしまいます。また、企業の経営層も女性が働きやすく育ちやすい環境・文化をつくるために何かすべきであることは理解しているものの、何をすればいいかがわからない。であれば、経営層もしくは外部のアドバイザーにプロフェッショナルな女性を入れていった方が女性が活躍する環境・文化づくりは早く進むと思いました」(上原氏)
現場で活躍する「30〜40代の女性」にフォーカス
これまでは弁護士や会計士など“士業”の人や、50〜60代で大企業の取締役を歴任してきた人たちが社外取締役・アドバイザーに就任するケースはあったが、IT業界の最前線に立つ30〜40代が社外取締役・アドバイザーに就任するケースはあまり耳にしない。
「これまでは“人づて”でしか社外取締役・アドバイザーに参画するしかなく、どれくらい人脈を持っているかによって活躍の場が限定されていたんです。また、数々の企業で社外取締役を経験した人材に新たに社外取締役の就任を依頼しようとすると、年間で1000万円ほどの金額がかかってしまうため、企業はなかなか手が出せません」
「一方で30〜40代には社外取締役を経験したことはないけれど、実力持った人たちがたくさんいます。withwork executiveはその世代にフォーカスして企業に女性エグゼクティブを紹介する立ち位置にすることで、金額が抑えられます。そうすれば、企業も女性社外取締役の登用に踏み切りやすいのではないかと思いました」(松栄氏)
また、IT業界の現場で活躍しているからこそ、事業の運営を通じて培った知見を企業に還元できる。だからこそ、松栄氏は「企業のDXにも貢献できると思います」と語る。その点がwithwork executiveのユニークなポイントとなっている。
上原氏は、メルカリでブランディング戦略を手掛ける女性がアドバイザーのような立ち位置で静岡銀行で副業し、人事制度や人材教育、インターネットを活用した採用戦略などを教えているのが良い例と言い、「こうした事例を増やしていきたいです」と語る。
女性リーダーの新しいロールモデルを増やす
組織の上層部に女性が登用されることで、30〜40代よりも下の世代が目指す女性リーダーのロールモデルが増え、多様な価値観が受け入れられる土壌が育まれていく。
「企業の経営会議に女性がひとりいるだけで発言の内容が変わってくると聞きます。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を排除する意味でも、意思決定層の多様化は重要になります」(松栄氏)
日本国内において、政府が掲げた「女性管理職30%」の目標を達成している企業はわずか7.5%。目標の実現には程遠い状況にある。
「このような状況に対し、私たちがwithwork executiveを提供することで何らかの変化を促せればと思っています。女性リーダーの新しいロールモデルが増えることによって、少しでも社会にポジティブな影響を生み出していきたいです」(上原氏)