わたしはのメンバー
わたしはのメンバー。右から3人目が代表取締役CEOを務める竹之内大輔氏 すべての画像提供:わたしは

LINEで大喜利のお題を入力すると、すぐにAIが回答を答えてくれる──。Twitterなどで定期的にバズを引き起こす「大喜利AI」を知っているだろうか。

開発しているのは2016年創業のスタートアップ・わたしは。同社では創業者の2人が東京工業大学大学院の博士課程時代に研究していた“独自の言語モデル”を軸に作り上げた「ユーモアを扱う対話AI技術」を活用し、コミュニケーションを拡張する複数のプロダクトを手掛ける。

その代表作が大喜利AIだ。マーケティング予算はゼロながら、LINE登録者数は54万4000人を突破。大喜利AIのおもしろい回答のスクリーンショットを撮ってSNSで自発的にシェアするユーザーが多く、その投稿が拡散されて新しいユーザーを連れてくるサイクルが生まれている。今でもコンスタントに毎月断続的にバズが発生しているほか、最近ではYouTuberが大喜利AIを使って動画を作るような機会も増えてきた。

わたしはが開発する「大喜利AI」
わたしはが開発する「大喜利AI」。LINEのトーク上でお題を投げると、すぐにAIが回答してくれる

「自分たちの中ではAI技術を『既存のコンテンツや人間の体から特定の部品(パーツ)を取り出す装置』として位置付けています」

わたしはで代表取締役CEOを務める竹之内大輔氏はそう話す。大喜利AIに関して言えば、遊んでいるユーザーの笑いのツボや、お笑い芸人の芸風などをパーツとして取り外し、それを交換したりミックスしたりする仕組みが特徴だ。

以前あるテレビ番組の企画では、タレントの千原ジュニアやみちょぱとのコラボで2人の「弟子AI」を育成した。大喜利AIを使ってそれぞれの芸風(ユーモア)をかけ合わせることで、「ジュニアAIとみちょぱAIを足して2で割って、渋谷のギャルに受ける大喜利ができるAIを作る」なんてこともできるのだという。

これはユーモアに限った話ではない。たとえば音声ファイルから音声データを集めて学習させることで、“あるキャラクターが絶対に言わなそうなセリフ”をその声で話させることも可能。楽曲や文章、セリフ(発話)などに関しても同様だ。

「部品化されたパーツをユーザーが再構成することで新しいコンテンツを作る。自分たちがやりたいのは、このデジタル化された二次創作体験をデザインすることです」(竹之内氏)

わたしはが開発するAIの仕組み
わたしはが開発するAIの仕組み

大喜利AIで得られた知見や技術なども活用し、8月には2つのサービスを新たに公開した。

1つめの「ペチャクチャ」は大喜利AIの発展版で、キャラクターAI同士のトークを生成できるサービスだ。仕組みはシンプルで、ユーザーは対話に参加するキャラクターを画面から1人選ぶだけ。すると自動的に対話相手とベースとなる3往復分のトークが作られるので、その結果を見ながら面白い作品ができるまでAIに新しいアイデアを考えてもらえばいい。

2つめの「ドリアン」はカメラロールにあるような画像や動画をアップロードすると、AIが面白い部分を切り出した上で音声やテロップ、エフェクトなどを追加し、自動でおもしろ動画(ミーム動画)を作ってくれるサービスだ。

新サービスの妄想AIトーク「ペチャクチャ」
新サービスの妄想AIトーク「ペチャクチャ」
もう1つの新サービス「ドリアン」
もう1つの新サービス「ドリアン」

わたしはでは、今後これらのサービス上で、CGMならぬCGAd、つまり「ユーザー生成型広告(Consumer Generated Ad)」を展開することを目論んでいる。たとえばペチャクチャであればトークの中に特定の単語や商品名、セリフなどを埋め込めるように広告主が指定でき、AIがそれらの単語を含んだトーク案を提案。面白い作品ができた際にユーザー体験を変えることなく、ユーザーが自発的にSNS上でシェアするのが、わたしはとしての狙いだ。

ドリアンの場合も構造は同じで、広告主が用意した商品の名前やロゴといった素材がエフェクトとして、ユーザーのアップロードする素材にマッシュアップされる形でコンテンツが作られることになるという。

わたしはでスタートした「ユーザー生成型広告(Consumer Generated Ad)」の仕組み
わたしはでスタートした「ユーザー生成型広告(Consumer Generated Ad)」の仕組み

「ユーザーに広告のクリエイティブとバブリッシュの機能を渡してしまおうという発想から生まれた広告です。とはいえ、ユーザーの視点ではコンテンツ作りを楽しむためのパーツが1つ増えたようなイメージで、それを使って純粋に遊んでもらう。コンバージョンなどを増やすことも狙っておらず、作品がSNSで広がっていくことで、結果的にブランド想起に繋がるような広告を目指しています」

「これは大喜利AIを通じて自分たち自身が実際に経験したことから着想を得ています。大喜利AIの画面をユーザーが自発的にスクショしてツイートしたり、動画にしたりすることでサービスの認知が広がっていった。ある意味、ユーザーがSNSを介して勝手に宣伝してくれたんです。同じような仕組みを広告主に対しても提供できないかと考えたのがきっかけです」(竹之内氏)

わたしはでは10月2日にDEEPCORE、DG Daiwa Ventures、個人投資家1名を引受先とした第三者割当増資により総額で8400万円の資金調達も実施している。この資金を活用しながら大喜利AIに続く新サービスと、それを用いた広告事業の開発を加速させる計画だ。