
- 電話業務を労働集約型・属人化する“ブラックボックス問題”を解決
- 独自の音声解析エンジンが強み、電話業務の生産性向上を支える
- MiiTelにより起きた“電話のGmail化”がテレワーク推進にも貢献
- 今冬にはビデオを使った対面営業用プロダクトの正式公開を予定
音声×AIのプラットフォームで、コミュニケーション革命(レボリューション)をもたらす——この旗印のもと、音声解析機能付きのIP電話サービス「MiiTel(ミーテル)」を2018年10月から展開してきたRevComm(レブコム)。
2019年には、さまざまなスタートアップのピッチコンテストで入賞。2020年2月にはGoogle for Startups Acceleratorに採択されるなど、各所から有望視されるスタートアップだ。
電話営業やコールセンターなどの通話業務を人工知能で可視化するMiiTelは、サービス正式スタートから2年弱で1万ユーザーを獲得。新型コロナウイルスの影響による対面営業から電話営業への切り替えもあって、これまでに2000万件のコールを扱い、成長を続けている。
10月5日、RevCommはシリーズAラウンドで新たに7億円の調達を発表。同ラウンドをトータル15億円の調達額でクローズしたRevComm代表取締役の會田武史氏にプロダクトの現況と、今後の展望について聞いた。
電話業務を労働集約型・属人化する“ブラックボックス問題”を解決
三菱商事出身の會田氏がRevCommを創業したのは2017年7月のこと。セールス、マーケティング畑が長かった會田氏が、電話営業・コールセンターの悩みを解決することで、生産性の高い営業を実現できないかと考え出したのが、AI搭載型のクラウドIP電話サービス、MiiTelだ。

電話営業やコールセンターの担当者が、上司や訪問営業の担当者に顧客との通話内容を伝達するとき、これまでは、ほかの営業・関係者への共有のしづらさ、ニュアンスまで伝えきることの難しさがあり、自分自身でも通話の良し悪しや成果を振り返りにくいという難点があった。
報告を受ける上司や営業担当者にとっても、報告者のバイアスがかかったり、各担当の課題を事実ベースで把握できなかったりして、失注分析や次のアクションへのアドバイスが難しいという悩みがある。會田氏はこれを「顧客と担当者が『何を』『どのように』話しているかが分からない“ブラックボックス問題”だ」と語る。その結果、「なぜ成約したのか、なぜ失注したのかも分からない、労働集約型の属人的な営業になっていました。これが電話営業やコールセンターにおける本質的な課題です」と説明する。
「この課題に対して人工知能を活用して、担当者と顧客が『何を』『どのように』話しているか可視化し、成約や失注の理由を明らかにすることで生産性の高い営業にシフトしましょう、というのがMiiTelです」(會田氏)
独自の音声解析エンジンが強み、電話業務の生産性向上を支える
MiiTelは音声解析機能、自動録音・自動文字起こし機能、CRM/SFAツールとの連携機能により、電話営業・コールセンター通話の“ブラックボックス問題”の解消を図る。また担当者のセルフコーチングを実現し、どこからでも電話業務を可能にするリモートワークにも対応する。
音声解析では、顧客と担当者が「どのように」話しているかを、会話の抑揚や双方が話す時間の割合、相手の話中に話をかぶせる“被り”の回数ややり取りの回数、話す速度(話速)など、さまざまな角度からの分析結果を可視化する。

たとえば双方が単位時間当たり何文字分話しているかを測定する話速では、相手の話すペースに合わせて話をする「ペーシング」で相手との心理的な距離が縮むことを応用して、顧客のプラスマイナス10%以内の速度で話せているかどうかを知ることができる。
「こうして担当者がどのように話しているか、どこに課題があるのかを定量的に可視化することができます」(會田氏)
また「何を」話しているかについては、ひらがなでキーワードを設定しておくことで、AIが検出し、担当者と顧客のどちらがいつ、何回キーワードを発言したかを可視化。営業上のキラーワード、キャンペーンワードをしっかり発言しているかどうか、後で振り返りに活用することができる。また、金融機関や保険会社などでは「必ず儲かる」などのNGワードを発していないか、重要事項説明を行っているかといったコンプライアンス上のモニタリング用途でも使われているそうだ。
担当者は通話後、キーワードが出た中でも重要な箇所については抜粋してコメントを付け、URLを発行してCRMツールなどで共有することも可能だ。このため、後でフィールドセールス担当者や上司がリンクから会話を再生(または倍速再生)して内容を確認することができる。
自動文字起こし機能では、全文文字起こしだけでなく、文字起こし結果が自動的に要約され、システムにインプットされる。これにより、担当者が通話後にメモなどで記録を残す「後処理対応」の時間を大幅に圧縮。担当者はこれまでやり取りの概要を自分で書き起こす必要があったところを、文字起こし結果へのリンクと箇条書きの数行のメモで報告を終えることができる。

「電話営業での平均後処理時間(ACW)は、アウトバウンドで1回当たり平均15分ぐらい、インバウンドで平均10分ぐらいかかります。これをいかに削減するかが生産性向上につながるため、インプット工数が下がることは重要です。一方、インプットされる側のフィールドセールス担当や管理者にとっては、受け取れる情報量が増えます。これまでの概要では分からなかった、パーソナリティーや会話のニュアンスまで詳細に把握できるようになるため、成約率が上がるのです」(會田氏)
通話や会議の自動文字起こし機能そのものは、最近珍しいものではなくなってきているが、會田氏は「他社ではGoogleやAmazonなどの音声解析エンジンを利用するケースが多いですが、我々はエンジンを自社で開発しています。80人いる社員の約半分がエンジニアという体制で、大学などとの提携で研究にも力を入れている」と強調する。
「GoogleやAmazonなどが得意とするのは音声コマンドを使ったプライベートな会話の解析です。我々のように、ビジネス用途の自然会話をコーパス(教師データ)として解析エンジンを作るところはなかなかないので、それに特化したエンジンを持っていることは強みとなります」(會田氏)
ダッシュボードでは、日次通話回数や通話時間、曜日・時間別のつながりやすさなど、組織全体の発着信の統計情報が確認できるほか、担当者別の傾向もつかめる。個別通話の解析に加えて統計的な評価を知ることができるため、研修や指導に頼ることなく、担当者が自発的にトークの改善を図ることが可能になる。

コロナ禍においては、多くの企業がリモートでの営業やコールセンター運営、在宅勤務への切り替えを行っている。MiiTelはもともとPCとヘッドセット、ネット環境が整っていればどこからでも電話業務が可能になるシステムだが、「MiiTelを使って在宅業務の環境を整える企業は、コロナの影響もあって急増しています」と會田氏はいう。
「我々が提供する3つの価値、すなわちブラックボックス問題の解消、担当者のセルフコーチングの実現、リモートワーク環境の実現・最適化というのは、業界や規模を問わず、どこでも実現したいこと。金融機関からメーカーまで、一部上場企業から中小企業まで、広くあまねく導入いただいています」(會田氏)
MiiTelにより起きた“電話のGmail化”がテレワーク推進にも貢献
電話業務の生産性向上だけでなく、周辺業務の効率化や導入・管理・運用コストの削減でも、MiiTelは役立っていると會田氏は話している。
経営や情報システム部門の視点では、電話営業部隊やコールセンター立ち上げは、従来なら電話機手配から電話線の接続、PBXをインストールするサーバーの準備などで、時間も費用もかかることだった。會田氏は「MiiTelにより、電話のGmail化のようなことが起きた」と説明する。
「MiiTelを使えば、ユーザーを追加するだけで、電話環境が整います。電話機器は一切不要になり、そのコスト削減効果だけでもMeeTelを導入する意味が出てきます」(會田氏)
事業責任者やIT担当者の観点でも、電話担当者の割当作業をウェブサービスの画面上から完結できるため、オペレーションコスト、管理コストが抑えられると會田氏はいう。
「着信ルールの設定も簡単で、自動応答機能やリストを使ったアウトバウンドコール発信など、小さな規模の企業でも受電・架電業務の生産性向上を図れます。電話番号ごとのステータス、エージェント別の応対状況なども一覧できるなど、電話プラスアルファの機能の全てがここに実装されています」(會田氏)
実際の導入効果では、商談獲得率が上がることによる利益向上、架電工数や通話・録音費用、教育工数、ハードウェア費の削減によるコスト低下により、「中小企業でも500%ほどの投資対効果が出ている。大企業では電話業務にそもそも大きく投資していることから1000%を超える効果が出る」(會田氏)とのことだ。
利用料金は1IDあたり5980円の月額制で初期費用不要、1台から申し込める。録音や分析機能のない通常のIP電話で1台あたり月額6000〜7000円というのがこれまでの相場で、録音すれば追加で1〜1.5万円かかっていたところを、約2分の1〜3分の1の費用で導入できることから、7月現在で300社以上の企業が利用。冒頭にもあるように2年弱で1万超のユーザーに活用されるサービスに成長した。
「ここまで顧客の声を聞き、支援を受けながら、プロダクト開発に当たってきました。結果として現場で使われて、顧客の利益にコミットするようなものが作れている。これはSaaSのよいところです。所有から利用への流れの中で、売って終わりではなく、売ったところが始まりになり、顧客とコミュニケーションしていく中で何が課題なのか、どういう機能が望まれているのかに基づいて開発を進めてくることができました。顧客の声に沿った機能を比較的早い時間軸で提供できてきているのではないかと思います」(會田氏)
新型コロナの影響下では、企業のリモートワーク環境の早期実現を支援するために、2月末から2カ月間のMiiTel無償提供も行った。
「事業を始めたときからロングタームでは営業組織もいずれリモート化するだろうと考えており、我々自身もフルリモートで業務を行えるようにしてきました。2017年は日本でも“インサイドセールス元年”となり、働き方や売り方の見直しからリモートでのセールスは徐々に浸透するだろうと考えていましたが、コロナの影響で10年かけてやろうと思っていたことが3〜4カ月に短縮された。企業各社の急なリモートへのシフトに対応するために、ただ儲けることだけでなく、MiiTelが役に立てると考え、社会貢献活動のひとつとして無償提供を決めました。そのかいもあって申し込みも増え、4月以降で売上・ユーザー数が3倍に伸びています」(會田氏)
今冬にはビデオを使った対面営業用プロダクトの正式公開を予定
今回、RevCommが実施した資金調達はシリーズAラウンドのセカンドクローズに当たる。5月発表のファーストクローズでは8億円を調達。WiLが運営するWiL Fund IIを筆頭に、新株予約権での投資を実施していた、PERSOL INNOVATION FUND、エン・ジャパン、ブイキューブが株主に加わっていた。
今回のセカンドクローズではNTTドコモ・ベンチャーズ、KDDI Open Innovation Fund 3号(グローバル・ブレインが運営)、新生企業投資、Sony Innovation Fund by IGV、ALL STAR SAAS FUND、ディープコア、DNX Ventures、博報堂DYベンチャーズ、三菱UFJキャピタル、ミロク情報サービスが新たに株主に加わっている。
「CVCや事業会社についてはシナジーありきで参画いただきました。以前からアライアンスの声かけがあったり、こちらから提案したりしていて、アライアンスが進んだ会社です。VCについては、我々がグローバル展開を視野に入れていることから海外ベースのVCに参加いただいています。また、SaaS企業への投資が多く、そちらの知見を持つ投資家にも参画いただきました」(會田氏)
調達した資金は、これまで月額5万円程度しか投資していなかったという広告宣伝と人材採用、AIを含むディープテックのR&Dと、グローバルを含めた知財戦略の強化、そして海外展開のために充てるという。海外展開については、近々シンガポールに拠点を設け、ASEAN諸国への展開を図る。また今冬には新プロダクトとして、画面共有ツールやZoom連携など、ビデオを使った対面での営業用アプリケーションの正式公開も予定する。