ポジウィル代表取締役の金井芽衣氏
  • 75日のプログラムを通して、キャリアの課題を解決
  • “相談する”だけでは人は変われない
  • 50社の面接に落ちていた人が「内定」を獲得
  • 今後は“仕事”以外の領域にも事業を拡大

終身雇用や年功序列の崩壊、副業の解禁──キャリアの多様化が進む中、「自分はどのようなキャリアを歩むべきか分からない」と悩みを抱える人は多い。

2019年に日本経済新聞社とディスコが共同で実施した調査によれば、1~3年目の若手社員の約5割が転職を希望するなど、将来のキャリアに漠然とした不安を抱いている。また、コロナ禍でさらにキャリアに不安を感じる人の数は増加。ビズリーチの調査によれば、ビジネスパーソンの約6割がコロナ禍でキャリア観が変化している。

キャリア形成に悩む人の“駆け込み寺”として、需要が高まっているのがオンラインキャリアトレーニングサービス「POSIWILL CAREER(旧:ゲキサポ!キャリア)」だ。コロナ禍以降、POSIWILL CAREERの利用者は従来の3倍に増加。また、月間売り上げはサービス開始した2019年9月の37倍を記録。今期中には月次で売り上げ1億円まで伸ばす見込みだという。

リニューアルとリブランディングを実施した後のPOSIWILL CAREER すべての提供画像:ポジウィル

同サービスを運営するポジウィルは10月5日、独立系ベンチャーキャピタル(VC)のSTRIVEを引受先として約1.5億円の資金調達を実施したことを明かした。それに併せて、サービス名称をゲキサポ!キャリアからPOSIWILL CAREERへ変更し、リニューアルとリブランディングも実施した。

今回調達した資金は事業拡大と採用強化に充てる予定とのこと。今後の展開について、ポジウィル代表取締役の金井芽衣氏は「日本のライフコーチングのパイオニアを目指し、事業領域をキャリア以外にも広げていきます」と語った。

75日のプログラムを通して、キャリアの課題を解決

POSIWILL CAREERは、短期集中型のキャリアトレーニングサービス。“キャリア版ライザップ”と言ったら、分かりやすいだろう。

プログラムは主要プランの「キャリア実現プラン」で75日間。その間に10回のオンライン面談やチャットサポートを行い、自分の良さが分からない、自分のキャリア形成の仕方が分からないなどのキャリア課題を解決し、利用者が目指すキャリア目標のゴールに向けて伴走するというものだ。

「昔は良い大学に入って、良い会社に入社し、敷かれたレールに乗っていれば良かったのですが、今は終身雇用制度も崩壊し、その常識が通用しなくなっています。親は未だに良い大学に入って、良い会社に入りなさいと言う一方で、周りの友だちは独立していたり、スタートアップに行ったりしている。そのギャップに苦しみ、自分はどんな未来を目指し、キャリアを形成していけばいいのか分からない人が、主に利用しています」(金井氏)

POSIWILL CAREERはまず、自己分析からスタート。最初の1カ月はやりたいことが分からない、自分の良さが分からない、自分のキャリア形成の仕方が分からない人に対して、プロのキャリアアドバイザーが自分の強みは何か、どう生きてきたのかを一緒に考える。

2カ月目以降は、利用者の考えをもとに現職に残るのか、転職するのかを決める。金井氏は「現職に残る場合は何を頑張るのかを考え、転職する場合は利用者の資質にあった企業などを明確にしていきます」と語る。

料金プランは3つあり、キャリア設計プランが20万円、キャリア実現プランが45万円、キャリア実現プラスが60万円となっている。

“相談する”だけでは人は変われない

ポジウィルは2017年8月の創業。金井氏は保育系の短期大学を卒業後、法政大学キャリアデザイン学部に編入し、キャリアカウンセリングを習び、国家資格であるキャリアコンサルタントを取得。その後、リクルートキャリアに新卒入社し人材紹介部門の法人営業として勤務した経験を持つ人物だ。

「過去に培った知識を生かした事業を展開しよう」と考えた結果、まず行き着いたのが匿名オンラインキャリア相談サービス「そうだんドットミー」だった。

「最初はキャリアカウンセリングのサービスを考えていたのですが、日本人はカウンセリングが嫌いなのか、全然反応が良くなかったんです。その後、Twitterにキャリアのコーチングサービスと呟いたのですが、これも反応が良くなく、キャリアの相談サービスと呟いてみたら、一番反応が良かったので、“相談”を打ち出したサービスにしました」(金井氏)

2週間で100人が無料のキャリア相談に申し込み、そのうちの1割が「お金を払ってでも使いたいです」と言ったことから、金井氏はニーズがあると見込み、サービスの立ち上げを決めた。そうだんドットミーは相談者の悩みの内容をもとに、外資系トップセールスやキャリアエージェント出身者などのアドバイザーに匿名でキャリアの相談ができるサービス。価格は30分4980円、60分9800円となっていた。

2018年9月にベータ版、2019年7月に正式版がリリースされ、ピーク時には最大で6000人程度が利用する規模にまで成長したが、今年の9月にサービスを終了した。

「そうだんドットミーで寄せられる相談は、具体的な転職の悩みというよりかは、何がしたいか分からない、どう生きたら分からないという悩みが多かったんです。その悩みに対して、『毎日頑張ってますね』『偉いですね』という上辺だけの会話で終わっていて、根本解決はできておらず、相談して満足で終わってしまっていました」(金井氏)

50社の面接に落ちていた人が「内定」を獲得

相談するだけでは人は変われない──そんな課題をもとに、ポジウィルが次の事業として立ち上げたのがPOSIWILL CAREERだった。

「過去にファイナンスをしていたタイミングで、VCの人たちから『キャリアの相談は伸びない』と言われたんです。それでサービスを潰すか、続けるべきか真剣に悩みました。潰すにしても、一度利用者に会って話を聞いてから考えようと思い、そうだんドットミーを5回使ってくれている利用者に会ってみたら、キャリアの軸がブレブレだったんです」

「約5万円も払ってくれて、これだけのサービスを提供できていないことに反省しつつも、その人に『1カ月間、5万円で電話し放題、チャットし放題で私が張り付くのでキャリアトレーニングをやってみませんか?』と言って、実際にやってみたら、想像以上に人が変わったんです。その人は50社受けて、50社落ちていたのですが、結果的に1社受けて、1社受かりました。相談で終わるのではなく、きちんと伴走していれば人は変わるんだな、と強く感じ、キャリアトレーニングサービスを展開することにしました」(金井氏)

今後は“仕事”以外の領域にも事業を拡大

冒頭にもあるように、2019年9月からサービスを開始し、この1年で売り上げは37倍に増加。今期中には月次で1億円の売り上げを目指す。現在、会社のリソースはすべてPOSIWILL CAREERに投下するようになっている。

「正直、ここまでサービスが伸びると思っていませんでした。『キャリアの相談、トレーニングにお金を払う人なんていない』と言われ続けていたので、伸びないかもしれないと思いつつ、これまで走ってきました。ただ、1年が経ってそれなりに需要が見込めたので、今回サービスをリブランディングしました」(金井氏)

現在、“仕事"を軸にキャリアトレーニングを実施しているPOSIWILL CAREERだが、金井氏は「仕事だけがキャリアではありません。人生そのものがキャリアなので、今後はお金や結婚など、キャリアで生じる様々な悩みを相談できるようにしていきたいと思っています。また、現在は人力で相談に乗っていますが、今後は悩みをもとにデータベース化も進めていく予定です」と今後の抱負を語った。