- 5Gとフォルダブル
- 開けば大画面、閉じれば縦長の「Galaxy Z Fold2 5G」
- ファッションアイテムとしてのスマホ「Galaxy Z Flip 5G」
スマートフォンの概念を覆した、初代iPhoneの登場から10年余り。今ではタッチパネルで操作するこの小型機器を大半の人が持ち歩く社会となった。スマホは急速にコモディティ化し、世界中の人々に広く普及した。途上国では1万円以下で手に入る端末も多く登場している。
一方、ハイエンドなスマートフォンでは、機能の進化は行き詰まりつつある。iPhoneが見せたような、フォームファクター(ハードウェアの物理仕様)の再定義にまでは至っていないのが現状だ。
そんな状況下で登場した「フォルダブル(折りたためるディスプレイ)」は、スマホというフォームファクターの延長でありつつ、スマホの概念を刷新する可能性を秘めた存在だ。2019年後半以来、複数のデバイスが登場している。

この記事では最新製品「Galaxy Z Fold2 5G」と「Galaxy Z Flip 5G」を手に取りながら、フォルダブルの将来性について考えてみよう。
5Gとフォルダブル
そもそも、なぜ今、フォルダブルなのか。フォルダブルディスプレイがこのタイミングで実用化された背景には、時を同じくして登場した5Gという新たな通信技術の存在がある。
5Gがスマホにもたらすものは、光回線並みの超高速通信だ。5Gがその規格通りの性能を発揮するようになれば、たとえば2時間の映画コンテンツを、3秒でダウンロードできるようになると言われている。
ただし、5Gは言ってしまえば無線通信技術に過ぎない。基地局とスマホの間の通信が高速化されたところで、今までと同じスマホの使い方をしているのでは意味はない。5Gにフィットした、新たなコンテンツの登場が期待される。

5Gの普及とキラーコンテンツの登場には「鶏が先か、卵が先か」のジレンマの構図が含まれている。5Gが普及すれば、自然と新しいスマホの使い方に気付くだろう。そのうち5Gに最適化されたキラーコンテンツが登場し、5Gの爆発的普及につながるかもしれない。
しかし現時点の5Gには普及の鍵となるようなコンテンツがまだない上、エリアも狭いため使用感は4G LTEとほぼ変わらない。5Gスマホを手にとってもらうためには“魅力”を付ける必要があった。

フォルダブルは、その解決策の1つだ。ディスプレイを折りたためれば、携帯性と使い心地の良さを兼ね備えた、新しいスマホのかたちが提案できる。
折りたためるディスプレイのアイデア自体は、数年前から存在したものだ。今のスマホに使われている有機ELディスプレイの発光層は折り曲げに耐えうる構造をしており、後はいかに安定して折りたためる構造を実現するかが課題だった。特殊なヒンジ構造が加わるため、従来の板状スマートフォンよりは高額になるが、これまでにない利用体験を提案できる。5Gの先進性をアピールするのには最適な存在だった。
開けば大画面、閉じれば縦長の「Galaxy Z Fold2 5G」
前置きが長くなったが、ここからは実際のデバイスを観察していこう。Galaxy Z Fold2 5GとGalaxy Z Flip 5Gは、サムスンの折りたたみスマホの第2世代に相当するモデルだ。

Galaxy Z Fold2 5Gは、“横開き”の折りたたみディスプレイを搭載する。手帳のように開いて大画面で使えるスマートフォンだ。さらに外側にもディスプレイを装備し、畳んだ状態でも縦長のスマホのように使える。

前世代モデルの「Galaxy Fold」は、サムスンとして初のフォルダブルスマホだった。この機種は新しいスマホ体験を提案した記念すべき1台だが、いくつかの不満点を指摘されるなど、評判は必ずしも良いものだけではなかった。新機構の折りたたみヒンジの耐久性には疑問符が付いた。発売前にはメディア向けに配布した試作機で壊れやすさを指摘され、サムスンが機構設計を見直すために発売を延期した経緯もある。外側のディスプレイの小ささや、ディスプレイ保護材に樹脂素材を用いたことによる見た目のチープさも不満のタネだった。
Galaxy Z Fold2 5Gではそうした前世代の悪評の多くを解消し、高級なスマートフォンにふさわしい質感と、機能性の高さを手に入れた。折りたたみディスプレイには超薄型のカバーガラスを装着し、見栄えと手触りを向上。外側のディスプレイもフレームぎりぎりまで拡大した。ヒンジには細かなホコリを掃き出せる新機構を導入している。

小さなポケットからスッと抜き出して、開いて大きな画面でコンテンツを楽しめる。新書を開いて読み出すように、その操作は違和感なく行える。

3つのアプリを同時に開くマルチウインドウにも対応し、ポップアップ表示で任意のアプリを表示することも可能だ。ただ、マルチウインドウは確かに便利だが、その操作体系はまだ未開拓だ。アプリを複数起動して、並べる操作には慣れが必要となる。

最新のハイエンドチップセット「Snapdragon 865」を搭載し、画像処理のような操作もストレスレスだ。サムスンはマイクロソフトと提携してOffice製品をこのスマホに最適化しているため、ビジネスユースの要請にも応えられる。カメラは3眼となり、超広角やズームの画角切り替えも可能となった。
大きな弱点は着実に解消しているが、一般的なスマホと比べてネックとなるのがその重さだ。ディスプレイユニットやインカメラを多数搭載しているため、致し方ない面はあるが、重さは約282gと、一般的な6インチのスマホの1.5倍はある。開いて両手で使うときはまだしも、畳んだ状態で片手操作するときは、手首への負担が気になる。この辺りは技術の進化により、軽量化が進むことを期待したいところだ。
もう1つ、機能に比して価格が高いことは否定しがたい。Galaxy Z Fo ld2 5Gのauでの販売価格は未定だが、米国では1999ドル(約21万円)で販売されている。日本での価格設定も大きくは変わらないだろう。高級機らしい質感の高さで、所有者の満足感を高めることにはおそらく成功しているが、一般に普及する段階からはまだほど遠い。折りたたみ機構は衝撃に弱く、防水性能もない。価格を考慮して実用性を判断すると「技術ショーケース以上、実用家電未満」といったところだろう。将来性は間違いないが、いまだ好事家向けの存在に留まっている。
ファッションアイテムとしてのスマホ「Galaxy Z Flip 5G」
同じ折りたたみ画面を採用しつつも、Galaxy Z Flip 5GはGalaxy Z Fold2 5Gとはまったく違うスタイルを提案している。こちらは本質的には従来型のスマートフォンと変わらない。変わったのはただ、折りたためることだけだ。

コンパクトミラーのごとく折りたたんで持ち運び、必要な時に展開する。女性の小さなポケットにもスッポリ収まる携帯性と、折りたたんで開くというギミック感的な面白さを融合させている。ボディの高級感も相まって、ファッションアイテムとしてのスマートフォンを体現する存在となっている。

このスマホは2020年2月、4G LTE対応モデルとして発表されたGalaxy Z Flipがベースだ。5Gに対応し、ボディの仕上げが変わった点を除けば、4G版そのままだ。新設計のヒンジ機構や、超薄型のカバーガラスももちろん装備している。

折りたたんだ状態ではスマホとしては使えないが、天面に小窓を備えている。通知表示用の画面かと思えば実はタッチパネルで、カメラのプレビューを表示して自分撮りができる。こうした小さなギミックも、スマホへの愛着を育てるための仕掛けとして機能するだろう。

折りたたんだものを開くという所作は、日常生活の中で多く行うものだ。それをスマホの画面で行うのは違和感がないし、自然と慣れる。振り返ればスマホ以前、折りたたみケータイで何度となく行っていた操作だから、親しみやすいのも当然といえば当然だろう。
3Gの全盛期、折りたたみケータイは多機能化し、小型、薄型を追い求めていった。それがiPhoneの登場以降、スマホに取って代わられた。その背景には、4G LTEという新しい通信規格の浸透がある。
今、スマートフォンはコモディティ化し、差別化が難しくなっている。スマホでは5Gのローンチとともに、薄型化の追求が一度薄れ、大画面化のトレンドに移行しつつある。折りたたみディスプレイはその大画面化のニーズに応えつつ、携帯性も維持する折衷案の1つと言える。フォルダブルディスプレイの製造技術が順調に発展すれば、折りたたみスマホは近い将来、より身近な存在になるだろう。
しかし、フォルダブルであってもスマホにはスマホ。従来と同じ使い方をしているだけでは、スマホに取って代わるほどの影響力を持つには至らないだろう。重要なのは5Gという新技術が普及した近未来で、どのような“キラーコンテンツ”が誕生し、ヒトと通信との関係に変化をもたらすのかだ。
スマホというフォームファクターがどのような変化を迎えるのか、その変化においてフォルダブル技術がどのような役割を果たすことになるのか、その将来像は未だ明確ではない。