
- 「調整さんを続けたい」の想いで大学中退、そして起業
- ニーズの異なりに気づき、スタートした“ビジネス版調整さん”
- 売り上げ「85%ダウン」の危機を乗り越えて
会議や打ち合わせ、飲み会などの予定を決める際に必要な“日程調整“。この日程調整に誰よりも大きな可能性を感じ、良い意味で人生を狂わされてしまった男がいる。ミクステンド代表取締役の北野智大氏だ。
同社は⽇程調整ツール「調整さん」のほか、予約受付サービス「調整さんカレンダー」、そして⽇程調整⾃動化ツール「TimeRex(タイムレックス)」を運営している。
「インターン時代に出会ったサービスのために、まさか自分で会社を立ち上げるなんて思ってもいませんでしたよ」
北野氏は過去をこう振り返る。2018年2⽉にミクステンドを立ち上げた北野氏だが、そこに至るまでのキャリアが面白い。インターン先で惚れ込んだサービスを運営し続けるために大学中退、フリーランスとして開発ディレクターを担当、“事業譲受”をきっかけに起業──そのサービスこそが調整さんだ。
調整さんは、イベントの幹事が参加者にURLを送るだけで出欠確認や日程調整ができるサービス。2006年にリクルートの新規事業としてリリースされ、細かな改修を積み上げながら運営されてきた。2018年3月には、調整さんと調整さんカレンダーを、北野氏が代表を務めるミクステンドに事業譲渡。
その後も改修を重ね続け、2019年11月には月間の利用者数は330万人を突破している。ミクステンドは、調整さんカレンダーをヒントにTimeRexを2020年1月にリリース。コロナ禍でのニーズに合わせ、GoogleカレンダーやMicrosoft 365の予定表だけでなく、Zoomとも連携。2020年9月には、Zoom連携を活用したミーティングの件数は5000回、さらにリリースから8カ月でユーザー数も1万人を越えるなど右肩上がりで成長を続けている。

まさに北野氏のキャリアは“調整さん”を中心に進んできている。なぜ北野氏はそこまで調整さんに惚れ込んだのか、また日程調整の可能性はどこにあるのか。話を聞いた。
「調整さんを続けたい」の想いで大学中退、そして起業
北野氏がリクルートでインターンを始めたのは2014年。当時、「みんなが便利だと思うサービスを作りたい」と考えていたことから、北野氏は大学進学とともにWeb制作やコーディングに取り組む。その経験をもとに「今度はチーム開発を学びたい」と思い、たどり着いたのがリクルートでのエンジニアインターンだった。
「インターンを始めて、最初に配属されたのが調整さんを担当する新規事業部門。ちょうどリクルートは調整さんのグロースに着手したばかりで、僕自身もいくつかの施策を担当することになりました」(北野氏)
当時、調整さんの月間利用者数は70万人。グロース施策では「使いやすさ」を徹底的に追求し、最終的なゴールは定めつつ、小さく速く改修をくり返すスタイルだった。多いときは「100パターンほど施策を用意し、A/Bテストで検証することもありました」と北野氏は振り返る。
実際、入力フォームの最適化やイベント作成時のボタンの色や大きさ、イベント説明時のフォントサイズ、出欠マークの初期値の調整などを改善してきた。
「調整さんをグロースさせていくにあたって、大事にしていた指標が『幹事転換率』です。基本的には幹事が日程調整するために使うサービスですが、大事なのは参加者。彼らが『日程調整で便利なサービスだ』と思えば、幹事になったときに使ってもらえます。そうやって、参加者を幹事に転換させることでサービスを広げてきたのです。現在は追っていない数字ですが、当時はとても大事な指標でした」(北野氏)
北野氏は大学を休学し、リクルートのインターンに参加していた。約2年が経ち、再び大学へ戻る期限が迫っていたが、北野氏は「引き続き調整さんの開発を続けたい」と考えて大学を中退。リクルートへの入社も考えたが、入社後に希望する部署へ配属されるかどうかが確実にわからなかったため、フリーランスのエンジニアとして開発ディレクターを担当することになった。インターン時代を含め、約4年かけて調整さんに関わり続けてきた北野氏。だが、ここで調整さんの事業譲渡がリクルート社内で持ち上がる。
「一時は譲渡先企業で開発を続ける案もありました。ただ、個人的にあまり納得できなくて。『であれば、自分が譲渡先になればいいのではないか』と考えてミクステンドを創業し、調整さんを事業譲受しました。しかし、経営の知識があったわけではなく、登記方法もネットで調べるレベルでした(笑)」(北野氏)

ニーズの異なりに気づき、スタートした“ビジネス版調整さん”
事業譲受後は、調整さんと調整さんカレンダーの改善に社内のリソースを集中。引き続き“使いやすさ”を追求し、細かな改善を重ねていった。北野氏いわく「グロース構造はしっかりできている」ため、広告宣伝費はかけないまま、2019年11月には月間利用者数330万人、年間で130%成長させることができた。
一方の調整さんカレンダーは、法人向けの予約受付サービスだ。日程調整だけでなく予約の受け付けができ、おもに個人の飲食店などが利用していた。調整さんと一緒に改善を進めていたが、その過程で「日程調整」「予約管理」ではそれぞれニーズが異なることに気づく。
日程調整は使いやすさにフォーカスすればいいが、予約受付は「誰が予約したのか」を明確にする必要があり、使いやすさだけでなくデザインも重視することになる。サービスとして日程調整と予約受付を一緒にしないほうがいいと判断。結果的に調整さんカレンダーは予約受付に特化することになった。そして日程調整の機能を切り出す形で、“ビジネス版調整さん”としてリリースしたのがTimeRexだった。
「TimeRexのこだわりは、やはり調整さんと同じく『使いやすさ』です。一般的な法人向けサービスは社内だけの利用でとどまります。そのため社内の誰かが使い方をわかっていればいいんです。しかし、日程調整ツールは社外の人たちも前提知識なく使えるようにしておく必要があります」
「前提知識がないと使えない状態では『だったら日程だけメールしてくれよ』となってしまいます。そんな状況は断固として避けたいのでTimeRexは誰でも、何も考えずに使えるサービスを常に目指しています」(北野氏)

TimeRexはGoogleカレンダーやMicrosoft、Zoomとも連携。特にZoomとの連携は、コロナ禍でのニーズを汲み取ったものでもある。
「TimeRexをリリースしたのは2020年1月。当時は新型コロナウイルスの影響はそこまで強くありませんでした。しかし、少しずつリモート化が進み、TimeRexもオンライン会議の日程調整で使われるようになりました」
「すると、ユーザーのみなさんはTimeRexで日程調整した後、ZoomのURLを個別に送付する手間が発生しているとわかったんです。そこで、日程調整と同時にZoomのURL発行、送付をできるようにしました。おかげで、9月にはZoom連携を活用したミーティングの回数は5000回以上を記録しています」(北野氏)
売り上げ「85%ダウン」の危機を乗り越えて
利用者は右肩上がりで伸ばし続けている調整さんとTimeRexだが、両方とも基本的には無料で使える(TimeRexには月額750円のベーシックプラン、月額1250円のプレミアムプランがある)。マネタイズはどう考えているのだろうか。

「両方とも、まずは『日程調整をより簡単にできる体験』を多くの方々に広げなければなりません。1回でも気軽に使ってもらうために、基本的には無料としています。
調整さんに関しては、日程調整ページにあるネット広告でマネタイズしています。TimeRexの有料版は、カヤックや才流(サイル)などが導入しており、ちょっとした日付間違いが信用問題につながるコンサルティング業で重宝いただいています」(北野氏)
そして、イベント関連に紐づくサービスで避けられないのが新型コロナウイルスによる影響だ。北野氏によると、緊急事態宣言の発令後、事業の柱である調整さんの売上は最大85%ダウンした。調整さん、TimeRexともに日程調整系サービスで事業を拡大させていくうえで、今後どのような展開を考えているのか。
「日程調整は、人と人が会って何かをする際の手前にあるもの。調整さんもTimeRexも日程調整サービスですが、多くのサービスと連携することで、幅広い範囲の業務効率化ができると思っています。今後は、日程調整を入り口に、さまざまな効率化を手掛けていきたいですね。とは言え、調整さんが最も多く使われるのは忘年会シーズン。その行方に早くも怯えているのですが……(笑)。そこはもう割り切って日々の改修を行いつつ、あらゆる事態にも備えていきたいと思います」(北野)
