
- ニッチでもオンライン上で10万人が熱狂
- 広告、寄付機能、チーム向けSaaSがマネタイズの3本柱
- 地銀とタッグでスポーツを軸とした地方活性化へ
スポーツの観戦スタイルといえば、従来はテレビとスタジアム(現地)がその主流だった。近年は「DAZN」などスポーツ領域の映像配信サービスなども少しずつ広がってきてはいるが、それとはまた異なる「テキストによるリアルタイムの試合速報」を軸としたアプローチから、新たなスポーツ観戦の形を提案しようとしているのが2014年創業のookamiだ。
同社が手掛ける「Player!」の1つの特徴は扱うスポーツの幅広さにある。Jリーグやプロ野球などのメジャーコンテンツも扱いはするが、ラクロスの学生リーグ戦、ハンドボールの高校選抜大会など、マスメディアが扱うことの少なかったアマチュアスポーツやマイナースポーツの試合速報こそPlayer!が本領を発揮する領域と言えるだろう。
カバーする競技は40種目を超え、2019年には1年間で実に2万試合の情報を届けた。Player!はリアルタイムの試合速報(スコアや統計情報、選手の交代情報など)をメインにしたオンラインコミュニティのため、気になる情報をチェックできるのはもちろん、同じチームを応援するファン同士、同じ試合を楽しみにしていたユーザー同士で“熱狂する瞬間”を共有できる。
扱う試合情報の数が増えると共にユーザー数も徐々に増加し、2020年1月には400万MAU(月間アクティブユーザー)を突破。今後さらに規模を拡大させる計画だ。
そのための資金として、ookamiでは10月12日に山口キャピタル、三菱UFJキャピタル、アカツキの3社を引受先とする数億円規模の第三者割当増資を実施した。山口キャピタルとは業務提携も締結し、スポーツを軸とした地方経済の活性化に向けた取り組みも強化する。
ニッチでもオンライン上で10万人が熱狂

「テレビが扱ってこなかったマイナースポーツ領域にもしっかりとアプローチできているのが大きな特徴です。日本中の試合情報を可視化することで誰でもその情報にアクセスできる仕組みを作ることを目標に、網羅性を重視。テキストデータによる試合速報を通じた情報提供をベースとして、オンライン上でファンコミュニティを形成してきました」
ookami代表取締役の尾形太陽氏はPlayer!のウリについてそのように説明する。
同サービスはユーザーから見ればかなりシンプルだ。テキストベースの試合速報をメインに各スポーツのニュースなども合わせて配信。気になるチームや大会をフォローしておくと、試合の開始をプッシュ通知で知らせてくれる。試合中は他のユーザーとテキストチャットやスタンプを通じて交流することも可能だ。
Player!が強みとするアマチュアスポーツやマイナースポーツの領域は、多くの場合Twitterや大会の公式サイトなど試合情報を得られる情報源がかなり限られる。結果として気になる人は一定数いるものの情報が埋もれてしまっている状態で、Player!ではそれを掘り起こしてスマホやPCからアクセスできる仕組みを作った。
実際に高校生のハンドボールの全国大会決勝の様子をリアルタイムで速報したところ、延べ10万人ほどにリーチ。直近でもフェンシングの大会に対して4日間で10万人を超えるユーザーが集まった。
Player!の鍵を握るのが、各地のチームとのネットワークだ。サービス上で扱う試合情報のうち、約3分の1〜半分は連携するスポーツチームが自ら管理画面を使って情報を提供している。いわばPlayer!はCGM(ユーザー投稿型のメディア)の要素も含んでいるわけだ。

チーム側としては選手の家族やOBOGを始め、関係者やファンに自分たちの試合情報を配信したいというニーズがある。Player!の管理画面ではSNSとの連携機能やサイトの自動更新機能も含まれているため、追加の手間をかけることなく、より多くのファンとコミュニケーションを取ることが可能。無料で使えてほとんどのチームにとってデメリットがないため、話をすれば7〜8割のチームには使ってもらえている状況だという。
「自分たちの勝ち筋は日本中のスポーツチームをネットワークしていくことにあると考えています。Player!がチームにとってないと困るような存在になれれば、自然と試合情報が集まるようになり、コミュニティも出来上がっていく。アマチュアカテゴリまで含めると日本だけで何十万とスポーツチームがある中で、どこまで多くのチームとパートナーシップを組めるかが今後のポイントです」(尾形氏)
広告、寄付機能、チーム向けSaaSがマネタイズの3本柱
Player!では前回(2018年6月)の資金調達以降、少しずつマネタイズに向けた取り組みも進めてきた。同サービスの収益モデルは今後予定しているものも含めて大きく3つだ。
1つ目がすでにいくつかの事例が生まれているブランド向けの広告モデル。ブランドが特定の試合や大会をサポート(スポンサード)するような形でPlayer!上のコミュニティに参加し、その中でプロモーションを行ったり、ユーザーとコミュニケーションができるようなタイアップ型に近い広告を展開している。
ナイキやアシックスといったスポーツメーカーを筆頭に、主にスポーツ競技者やスポーツ視聴者にリーチしたい企業を中心に活用が進む。

2つ目は「Player!サポート(寄付機能)」の手数料だ。この機能はクラウドファンディングや投げ銭のモデルにも近しく、オンライン完結型で外部からの支援を募れる。
尾形氏の話では、もともと想定していたユースケースの1つは大学や高校スポーツにおけるOBOG会費の集金だ。特に大学スポーツにおいてはこの会費がチームの運営費・強化費の一部に当てられていて、各チームに担当者がついているのだそう。ただその集金方法が未だにアナログな方法が主流で非効率なため、オンライン上でスムーズに集金できる仕組みには一定のニーズがあるという。

この寄付機能がコロナ禍では別の課題解決にも使われるようになっている。それがプロスポーツチームを中心とした投げ銭だ。コロナの影響でさまざまなスポーツが無観客ないし動員数を制限した状態での試合開催を求めらる中で、スポーツチーム側はチケット収益とは別の収益源を探っている。そのニーズにPlayer!サポートが合致した。
実際に鹿島アントラーズや浦和レッズなど複数のJリーグクラブがPlayer!サポートを活用した投げ銭にチャレンジ。チーム側と連携しながら試験的な導入を進め、現在はプロリーグで十数チームが導入しているという。

コロナの影響を受け、年内はPlayer!サポートの手数料を無料にすることを決めたが(外部決済サービスの手数料のみ発生)、ゆくゆくは同機能の決済手数料のマネタイズポイントの1つにしていく計画。また3つ目の収益源として、スポーツチーム向けにより高度な機能を有料で提供する「チーム向けSaaS」準備も今後進めていく予定だ。
地銀とタッグでスポーツを軸とした地方活性化へ
Player!では今でこそ各地のチームと連携してニッチな試合情報もカバーできるようになったが、当初からこの領域に絞って事業を展開してきたわけではない。
「最初はお客さんが来そうな試合をなんでも配信していた」(尾形氏)というが、たまたま高校生のバスケットボールの全国大会の情報を配信したところ、サッカーの日本代表戦よりも多くのユーザーを集客できた経験が1つの転機になった。
「サッカーの代表戦はテレビを筆頭にすでにいろいろなメディアで情報が配信されていて、ユーザーも情報収集のペインが少ない。一方でマイナースポーツはそもそも情報収集できる手段が限られていて、その課題が大きいのだと気付きました。ニッチであったとしても、選手の家族、母校の試合が気になるOBOG、他校の試合が気になる現役生が必ずいるのが学生スポーツやローカルスポーツの特徴です。その人たちとチームの接点を作るのも、Player!の大きな役割だと考えています」(尾形氏)

今後さらにチームとの連携を深め、より多くの情報をカバーしていく上で欠かせないのが「地方展開」だと尾形氏は話す。今回山口キャピタルと業務提携を締結しているのも、それが1つの目的だという。
「自分たちとしては地方への進出を加速させていきたい、一方で地方銀行を始め地方の有力企業はどうすれば地域を活性化できるかを常に試行錯誤されています。今回はそこが上手く合致した形です。県内のスポーツ情報を可視化することで、関連するファンコミュニティがオンライン上に作られる。そのコミュニティを軸に山口県コミュニティ全体を活性化させていくことを目指していきます」(尾形氏)
ookamiとしては、どの都道府県にも必ずと言っていいほど存在する「スポーツというキラーコンテンツ」を活用することで、地方を活性化できることを今回の業務提携を通じて実証していきたいという考え。ゆくゆくは別の地方とのタッグも見据えている。
地方チームの開拓なども進めた上で「2〜3年後にはPlayer!を日本一のスポーツコミュニティにすること」が中長期の目標だ。インターネットの力を活用して「マイナースポーツ」という言葉をなくすところまで持っていきたいという。
「マスメディアではどうしても取り上げられるコンテンツが限られるので、(メディアの力で)メジャースポーツは育っていく反面、マイナースポーツとの格差がどんどん広がっていく側面がありました。ただインターネットの普及で、あらゆる試合情報を可視化するために必要な調達コストは極端に下がっています。世間的にはマイナーとされる競技であってもこれが自分のマイスポーツなんだと誇れるような社会、『マススポーツ』ではなく『マイスポーツ』の時代をPlayer!を通じて作っていくことを目指します」(尾形氏)