
- 日本のサッカー選手は意識が「ぬるい」
- 要所を押さえて、自分の色を出す
- 批判に対して、謙虚である必要はない
- 世界と比較するのではなく“日本らしさ“を考えるべき
2020年8月23日に現役ラストマッチを終え、14年半のプロサッカー選手生活に終止符を打った、元日本代表の内田篤人さん。現役を引退してから、まだ約1ヶ月弱しか経っていないが、すでに日本サッカー協会の「ロールモデルコーチ」に就任するなど、セカンドキャリアを歩み始めている。
そんな内田さんがMCを務める自身初の冠番組『Atsuto Uchida's FOOTBALL TIME』の配信が、スポーツ・チャンネル「DAZN(ダゾーン)」で10月から始まった。同番組は普段Jリーグを楽しんでいるファンに向けて海外サッカー視聴の楽しさも伝えることで、サッカーの視聴文化拡大、そしてファン層を広げることも視野に入れたもの。選手目線カメラを使ってプレーを解説するなど、内田さんの持ち込み企画も組み込まれており、「自身の経験を伝えていきたい」という強い思いが感じられる内容になっている。
いま、最もセカンドキャリアに注目が集まる内田さんに、この番組にかける意気込み、そしてキャリアについて話を聞いた。
日本のサッカー選手は意識が「ぬるい」
――ロールモデルコーチとして、若手と接してみて思うことはありますか。
言葉の瞬発力が自分には足りていないなと思いました。若手のプレーを見て、気が付いたことに対して瞬間的に言葉が出てこないなんですよね。もちろん、サッカーは正解がないスポーツで、勝てば正解なので自分の価値観を押し付けるかのように「こうやれ」ということは言いません。ただ「俺だったらこうするよ」と言うまでです。
今の若手は本当にうまい。自分たちが若手だった頃とは比較にならないくらい上手です。19歳でこれだけプレーできれば、あとは意識と環境次第でもっと伸びると思います。
――例えば、Jリーグとドイツ・ブンデスリーガなら、環境として若い選手にどちらを勧めたいですか。
どちらもいいですよ。部活があって、ユースがあって、大学があって、と幅広く続けられるのが日本のいいところです。ドイツは上にいけばいくほど狭き門ですが、練習で良いプレーをしていればすぐにブンデスリーガ1部でもスタメンです。
僕は以前、日本の環境を「ぬるい」と言ってしまったのですが、環境が違うと言い直したいですね。確かにヨーロッパに比べたらぬるいけれども、それはそれで良い部分があります。
ぬるい、と言ったのは特に意識の部分です。ドイツでは目の前の選手より良いプレーをすれば、自分がスタメンを奪うことができるという意識で若い選手が練習に臨んでいます。年齢は関係ない。日本では、同じポジションを争う選手がチームの中心なら、例えば若手の間は別のチームに移籍して、経験積んでからまた戻って、となりがちですよね。
でも、日本のような環境だから伸びる選手もいますから、一概にぬるいから悪いとは言えません。ただ、忘れてはいけないのは、ヨーロッパがサッカーの中心にあるということです。
――現場に戻りたい、という思いはありますか。
今はあまり責任がある立場にないので楽しいですけど、コーチや監督が仕事になったら大変だとは思います。相当な覚悟がいるでしょうね。

要所を押さえて、自分の色を出す
――さまざまな監督と接してきたと思いますが、内田さんが心がけてきたことはありますか。
要所では監督の要求に応えて、監督のやりたいことをある程度理解しつつ、最後は自分の判断で、自分の色を出そうと考えてきました。僕自身、体が特別大きいわけではないし、一人、二人抜いていけるプレーヤーではないです。
ピンチの場面を早めに察知したり、攻撃では相手が嫌がることを考えたりして、気が利くプレーをするというのは心がけてきました。行かなくていいなら行かない、動かなくていいなら動かない。がむしゃらにやるよりは、要所を押さえるということですね。
――海外でもそこは変わらないですか?
変わらないですね。最初は言葉もしゃべれませんし、態度であらわすしかない。最初は気持ちが見えないと言われましたけど、ちゃんと試合に出て、チームが勝てば、言葉が通じなくても認めてもらえる。
とはいえ、ドイツはガンガン行って、ガンガン気持ちを出すプレーが好かれるので、一応、最初のうちはチーム内でも多少の演技はしましたよ。でも、最後はやっぱりピッチで結果を出すことが大事です。
批判に対して、謙虚である必要はない
――この番組でのMC挑戦、それから解説という仕事も増えていきそうですね。
もっと勉強しないといけないなと思いますね。僕は現役の時、ほとんどサッカー見てこなかったし、サッカーゲームもやりません。
仕事でサッカーをやっているのに、なんでプライベートでもサッカーに時間を割かないといけないないんだろう、って思うタイプでした。
解説で大事にしているのは、自分がプレーしていた時の目線で語ることです。ピッチで何を考えながらプレーをしているのかを伝えていきたいです。
――解説やメディアの言葉はどう受け止めていましたか。時に辛辣な批判もあったと思いますが……。
現役時代も批判されたことはありましたが、実際にプレーしていない人から言われても何にも気にしなかったですね。「じゃあ、俺よりうまいサイドバックを連れてきてほしい。本当に日本にいるなら連れてきて、見せてくれ」と思っておしまいです。
僕は批判に対して、むやみに謙虚である必要ないという考えです。批判に弱ってしまうタイプの選手もいますが、変に聞きすぎる必要はないと思ってきました。
批判が当たっていたら、それはそれで次につなげればいいですし、言われなくなったら選手としては終わりだな、くらいの受け止めでしたね。
自分が解説にまわったとき、例えば知っている若手に多少厳しいことは言うかもしれませんが、そのくらいの批判でダメになるようではどこにいってもダメでしょう。
世界と比較するのではなく“日本らしさ“を考えるべき
――Jリーグのサポーターに求めたいことはありますか?
もうこのままでいいですね。もっとJリーグを見てほしいです。家族みんなで安全なスタジアムで観戦できて、技術的にも優れているリーグだと思います。
日本サッカー全体で言えば、かつて日本代表の監督を務めたイビチャ・オシムさんが言っていたように「日本らしさ」とは何か、という問題を考えるというのは必要なことだと考えています。
W杯でドイツが優勝したらドイツを真似するの? スペインが優勝したからパス回しを大事にする、でいいのか? ということですね。190センチ以上の大型FW、DFもなかなか望めないし、メッシみたいな選手もいないんですから。

いま、日本サッカーはランクを上げてきて、かなり良いところまで来ていると思います。ここまでサッカーが盛り上がってきたのもすごいことですし、Jリーグもかなりレベルは上がっています。でも、ここからさらに世界のトップ5を目指す、世界の中心に追いつくためには時間がかかります。
選手ありきではなく、次のステップに上がるために、日本のスタイルって何かを考えていかないといけない時代になったとも言えますね。
僕もそうですし、多くの日本人プレーヤーも海外の選手とヨーイドンで走って、競って、勝つタイプじゃないですからね。大型で足も速いという選手に真正面からぶつかっても勝てません。だからこそ僕は考えて、早めに良いポジションを取ることで対応してきました。
若い選手たちが持っている高い技術と俊敏性、チームとして機能すること……。この辺に日本のスタイルを考えるヒントはあるのではないかな、と。
――この番組を通じて、どんなことを発信したいですか?
サッカーをやっている人には「なるほどね」と思わせるようなことは言いたいですし、サッカーに興味をない人でも、第1回目のゲストに来てくれた影山(優佳)さん目当てでもいいので幅広い人に見てほしいですね。
いつかこの番組を見ていた子供達が海外に移籍した、なんて時代がくれば楽しいですね。