
- 親指サイズの全く新しいウェアラブルカメラ開発
- ハッキングでいたずら?やんちゃな学生時代
- 並外れた開発スピードの裏にあるものは
- 競合も真似できない、高いソフトウェア技術
中国・深センのハードウェアベンダー「Insta360」。驚異のスピードで、高性能な360度カメラを次々と開発し、リコーやGoProなどのライバル社を超えて、360度カメラの売上高で世界シェアトップに躍り出た。香港やロサンゼルスにも拠点を構え、勢いのあるスタートアップが8月28日、360度カメラではない全く新しい製品を開発した。新製品発表のため来日した27歳の若きCEO劉靖康 (以下、JK)氏に、開発の背景を聞いた。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
親指サイズの全く新しいウェアラブルカメラ開発
――今回発表した新製品について教えてください。

「Insta360 GO」は、360度カメラでもVRカメラでもない、全く新しい新感覚AIカメラです。ネックレス式にして首からぶら下げたり、クリップ式で帽子や服に着けたり、まるで服の一部のように身に着けることができます。
親指に隠れるくらいの超小型サイズで、わずか18.3グラム。一口サイズのお菓子よりも軽いです。ワンタッチで撮影を開始できますし、手ぶれ補正技術で揺れの多い移動中でもきれいな映像が撮れます。
以前もウェアラブルカメラを開発しようと試みましたが、手ぶれの補正技術が低くなかなか実現しませんでした。優れた手ぶれ補正技術ができ、小型化してもぶれのない映像が撮れるようになったため、製品化することができました。
今のカメラ業界は、アクションカメラ、デジタルカメラ、スマホ、あらゆるジャンルで競争が激化しているからこそ、消費者の方だけを向いて、シンプルに「消費者が本当に欲しているものは何か」ひたすら考えました。スマホよりも持ち運びやすく、ワンタッチで気軽に撮影できるカメラが必要だと思い、「Insta360 GO」を作りました。アクションカメラはかさばるし、重くて、とても毎日は持ち歩けないですからね。

――小型化が最大のポイントですか?
サイズが小さいだけでなく、動画の最新機能がすべて備わっていることです。
解像度は高いまま、スピード感のあるシーンやアクションにも対応できます。また、数秒に1コマずつ撮影したものをつなげるコマ送り(タイムラプス)撮影も、ボタン1つでできます。
もう一つ、大きな特徴が「AI編集機能」ですね。
(AIが自動編集した動画がこちら)
――AI編集機能というのは?
映像内の人物の喜怒哀楽を認識できるんです。人物の表情を解析して、良いシーンを見つけることができます。
例えば、旅行に行ったときの使い方も簡単です。旅行の始まりに、スイッチをオンにします。あとは一日中カメラをつけたままにしておくだけです。その日の終わりに、テーマを選べば、あとはAIが自動で編集します。一日で一番テーマに合うシーンを勝手にAIが編集してくれて、BGMまで選んでくれます。
この機能は今後、「Insta360 EVO」や「ONE X」など、他の製品でも使用できるようにアップデートします。
――これまでの製品と比べて、よりユーザーが広がりそうな革新的な製品ですね。
そもそも「Insta360 GO」は、360度カメラではないですしね。値段も圧倒的に安いですし、ファッションとしても楽しめるように、ケースの柄も充実させています。旅行やスポーツを記録することを楽しむ若年層に定着したらうれしいです。
ハッキングでいたずら?やんちゃな学生時代
――JKさんご自身のことも教えていただきたいのですが、そもそも起業したきっかけを教えてください。
「自分が好きなことをやりたい」「お金持ちになりたい」「社会貢献がしたい」という3つの夢があり、これをすべてかなえるには、必然的に起業の道しかありませんでした。好きなことを思う存分やりたい性格なんです(笑)。
――今の自分のルーツは何だと思いますか。
起業するというビジョンが明確になったのは、大学に入ってからです。真剣に将来を考えたときに、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツの生き方に憧れを抱きました。個人だと到達できない社会貢献や夢を、組織を作ることで実現しているからです。
――どんな子どもでしたか。
いたずら好きな性格で、よく先生を困らせていましたね(笑)。
当時通っていた大学の女子学生の顔のデータをたくさん集めて、大学の平均レベルの顔を出して大学内で話題になったことがありました。それから、先生のPCに入り込んで試験問題をハッキングしたこともあります。
決してカンニングがしたかったわけではなく、自分のプログラミング能力がどのくらい通用するのか試してみたかっただけなので、ハックしたのは他の学年の試験問題だったのですが、見つかって5000字の反省文を書かされる羽目になりました…。深く反省しています。
――なぜ、360度カメラに目を付けたのですか?
元々は動画ライブアプリを運営していて、「コンサートの臨場感や感動を、もっとまわりとシェアするにはどうしたらいいのだろう」と考え始めたのがきっかけです。“記憶をそのまま記録にして伝えたい”と思い試行錯誤した結果、360度カメラにたどり着きました。
並外れた開発スピードの裏にあるものは
――事業が成長した理由は何だと思いますか?
主に二つあります。一つは「目標がはっきりしている」ことです。“便利に効率よく人の生活を記録する”というゴールを、忘れないように事業をつくっています。迷わずまっすぐ進んでいるから、横道にそれません。
もう一つは「成長スピードが速いこと」です。進める上で出てくるリスクを事前に予測しておくんです。そうすれば、壁が見えたときにスピードを落としていったん落ち着くのではなく、リスクの高くない道を選んで進むことができます。
例えば、低い山から高い山に移動したいとき、低い山を降りてから高い山を登るのでは効率が悪いですよね。低い山から高い山へ直接橋をかけた方が、安全だし早いです。
――スピード感は、新しい製品を発表する頻度からもわかります。次々と新製品を作る理由は。

カメラ業界は、市場やビジネスの変化が非常に激しいです。ハードウェア・ソフトウェアの両面で、より使いやすくニーズに合ったものが次々と出てきています。常に新しい技術を形にしなければ、収益を最大化できないのです。そのため、リスク管理はきちんとした上で、スピードを落とさないように努めています。
――製品を開発する上で意識していることはありますか。
常に今から2年後のトレンドを追うことです。2年先の技術を先読みして、市場の声をチェックします。
競合も真似できない、高いソフトウェア技術
――現在、360度カメラでは売上高で世界トップ(数字非公開)とのことですが、 リコーのTHETAやGoProなど競合他社をどのように見ていますか。
創業当初は市場のニーズがわからず、他社のカメラを研究しましたが、今の市場をつかめてからは、あまり気にしなくなりましたね。現状の製品では解決できていない、消費者の新しいニーズだけを意識しています。
また、創業時はソフトウェア会社だったので、競合他社とは根本的な発想の仕方が違うように感じます。他社はハードウェアの技術に優れているところが多いので。例えば、同じ手ぶれ補正技術でも、他社はハードウェアで手ぶれ補正をしようとするのに対して、うちはソフトウェアで補正技術を開発します。
――ソフトウェアとハードウェアだと、ソフトウェアの方に注力しているのでしょうか。
一般のハードウェア会社よりソフトウェア開発技術が高いのが特徴です。ソフトウェアはスピード感があり、アイデアを形にしやすいというのもあります。ハードウェアはコストもかかるし、サプライチェーンの問題もあり、スタートアップだと注力するのが難しいです。

ただ、ソフトウェアは頭脳であり、ハードウェアは手足だと考えています。どちらも発達しないと長くは走れないので、これから時間とお金をかけて、ソフトウェアだけでなくハードウェアの開発も行っていきたいと思っています。
――今、中国の深センなどを中心に面白いハードウェアが増えているように感じます。気になっている動きや、注目している企業はありますか?
2014年に設立された、カリフォルニア州にあるSkydio社です。
AI技術を使って周囲の3Dマップを作成し、障害物を自動で回避するシステムを開発している企業です。静物だけでなく、人や動物の動きも予測し、リアルタイムに回避しながら自律飛行を行うそうです。
障害物を回避する技術は、少し前までは(データやソフトウェアをネットワークを通じて利用する)クラウドがトレンドでしたが、今は専らAIブームです。この流れに乗って、これから面白いハードウェアが次々に開発されていくでしょう。
――これからも360度カメラで勝負をしていくのでしょうか。
カメラ業界にこだわりがあるわけではありません。ソフト・ハード関係なく、カメラも関係なく、「生活を動画で簡単にシェアできること」がゴールだと考えています。そのためにどうしたらいいかを常に考えています。

――今後の展開を教えてください。
年内に、東京に支社を設ける予定です。米国、中国に次いで、カメラの市場が大きいのは日本です。また、世界有数のカメラメーカーがあり、カメラ好きの消費者も多いので、学べることはたくさんあると思っています。また、カスタマーサポート面も強化していきます。
革新的な親指サイズの高機能カメラを生み出した「Insta360」。360度カメラで天下を取った起業家は、ウエアラブルカメラでも、大衆を味方につけられるのか。