アーバンエックステクノロジーズが開発する道路点検AI
アーバンエックステクノロジーズが開発する道路点検AI
  • スマホを載せて走行するだけで道路の損傷を検出
  • 東大時代の研究をベースに創業、数百万の道路損傷データを蓄積
  • 汎用デバイスから取得したデータを活用し都市をスマートに

必要なのはスマホかドラレコを設置した車で道路を走行するだけ——。従来は車上から担当者が目視で行っていた“道路損傷の確認業務”を、安価なデバイスとAIなどの技術を用いて自動化するプロダクトを開発しているのがアーバンエックステクノロジーズ(UrbanX)だ。

UrbanXは代表取締役の前田紘弥氏が東京大学工学系研究科に在籍時の研究内容を社会実装するべく、同大学から知財やソフトウェアのライセンスを受ける形で2020年4月に創業した東大発スタートアップ。現在は最初のプロダクトとして「道路点検AI」を自治体などに対して提供している。

ゆくゆくは道路点検AIで活用している技術を活用してスマートシティ領域で複数のプロダクトを展開していく計画で、そのための資金として東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)とANRIを引受先とする第三者割当増資により総額8000万円を調達した。

スマホを載せて走行するだけで道路の損傷を検出

アーバンエックステクノロジーズのプロダクトではスマホやドラレコを設置して走行するだけで道路の損傷が検出される
アーバンエックステクノロジーズのプロダクトではスマホやドラレコを設置して走行するだけで道路の損傷が検出される

これまで道路の損傷を確認する方法は大きく2つ存在していた。1つが実際に道路を走行しながら作業員が目視で確認していくやり方。そしてもう1つが路面性状調査と呼ばれる、高精度なカメラやレーザーを積んだ専用の車を用いて調査するやり方だ。

路面性状調査は質が高い一方でコストが1番のネックになる。前田氏の話では1キロメートルあたり数万円かかるため、予算の多い自治体であっても5年に1度実施するくらいの感覚なのだという。

そのため多くの自治体では目視確認が主流になっているが、長時間かつ非効率な作業で人手がかかり、満足に実施できていないところも少なくないそう。目視のため、どうしても見落としや見誤りが発生することもある。

この課題の解決策として「スマホやドラレコレベルの簡単なセンサーを使って、目視点検よりも精度が高く、低コストで点検が実現できるプロダクトを実現する」というのがUrbanXのアプローチだ。

使い方はシンプルで、事前にアプリをインストールしたスマホか通信機能がついていて演算ができるドラレコを車両に取り付けて道路を走るだけ。撮影した道路のデータをディープラーニングを用いて解析し、損傷を含む画像のみが自動でサーバーへ送信される。

道路の様子はリアルタイムでウェブ上のダッシュボードに反映。 期間や損傷の種類(ひび割れなど)、対応状況(経過観察・補修予定・補修済み)などをいつでも確認することが可能だ。他のデータと合わせることで簡易的に路線を評価したり、維持修繕にかかる費用を予測したりする際にも使える。

東大時代の研究をベースに創業、数百万の道路損傷データを蓄積

アーバンエックステクノロジーズのメンバー。1番左が代表取締役の前田紘弥氏
アーバンエックステクノロジーズのメンバー。1番左が代表取締役の前田紘弥氏

冒頭で触れた通り、UrbanXは前田氏の東大時代の研究をベースにしたスタートアップだ。主要メンバーは土木関連のバックグラウンドを持つ者とソフトウェアエンジニアで構成。東京大学生産技術研究所特任研究員である前田氏や人間・社会系部門准教授の関本義秀氏(前田氏は関本氏の研究室の出身)らが中心となって立ち上げた。

「(従来の方法では)道路を点検する費用が高すぎる結果として、一部しか点検できていないことが問題でした。もし費用をグッと下げることができれば、網羅的な点検ができるようになる。安価なデバイスを使ってデータを取得し、そのデータから道路の状況を可視化できれば課題解決に繋がると考えました。スマホやドラレコだけで実現できれば、日本全国の道路を毎日点検することもできるような気がしたんです」(前田氏)

5年ほど前から「汎用的なデバイスに搭載されるセンサーから取得したデータとディープラーニングを用いて道路の損傷を検知する研究」に取り組み、複数の自治体とも協力しながら実証事業を重ねてきた。

もともとは複数の自治体が参加するコンソーシアムとして、参加企業にシステムを提供する形でスタート。千葉市など11の自治体が参加しているほか、個別のカスタマイズを加えた自社プロダクトという形で東京国道事務所での試験利用も始まっている状況だという。

汎用デバイスから取得したデータを活用し都市をスマートに

前田氏によると、数年間の研究を通じてすでに「何百万という単位で道路の損傷画像データを保有していること」が1つの強み。今後は複数の自治体に使ってもらうことでデータを蓄積し、コアとなる技術を磨いていく。

直近では2020年度の未踏アドバンスト事業にも採択され、コアとなる道路損傷の検出アルゴリズムのアップデートに取り組んでいる。まだプロダクトには実装されていないが、危険な損傷を検出するだけでなく、路線ごとの危険度やひび割れ率を定量的に診断できる仕組みの実現を目指しているのだという。

「運用してみてわかったのが、損傷を見つけた次の段階で『結局どの道路に対してどのような対応をするべきか』という話に必ずなることです。損傷の危険度や優先度などを数値で評価できるようになると、それを基に修繕計画を立てられるようになるので、担当者のニーズも大きい。そういった技術を磨きながら、現場の業務効率化やコスト削減をサポートしつつ模倣が困難な仕組みを作っていきます」(前田氏)

今回の資金調達もそのための人材採用が主な目的。まずは道路点検の領域に注力するが、ゆくゆくはそこで培った技術やソリューションを、他の領域にも転用する形で複数のプロダクトを展開していく計画だ。

「会社としてやりたいのは、都市空間のデジタルツインの構築によって、スマートな都市経営を実現すること。ドラレコやスマホなどの汎用的なデバイスに搭載されるセンサーから取得されたデータとディープラーニングなどの技術を活用して都市空間を再現していきたいと考えています。道路損傷検出サービスはその中核を成す1サービスであり、同じような他の領域にも事業を広げていく方針です」(前田氏)