Gracia代表取締役CEOの斎藤拓泰氏(左)とグロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの⾼宮慎⼀氏(右)Gracia代表取締役CEOの斎藤拓泰氏(左)とグロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの⾼宮慎⼀氏(右) 提供:Gracia
  • スタートアップのインターン経験者が共同創業者
  • 父の日のギフト選びから生まれた「TANP」
  • シンプルにユーザーのニーズを捉えて、答えを提供する
  • 日本にも「ギフト文化」を作りたい

「起業する前、『人はオンラインでギフトなんか選ばない』と言われました。でもそれは本当なんでしょうか。店舗に行くよりも圧倒的に手間がかからないし、いろんな商品を選べると考えたんです」――こう語るのは、ギフトに特化したECサイト「TANP」を運営するGracia代表取締役CEOの斎藤拓泰氏だ。現在23歳の斎藤氏が率いるGraciaは、創業からまもなく2年。同サイトは、最大で1日1200件以上のギフトを発送するECサイトに成長している。

 TANPはギフトに特化したECサイトだ。一般的なECサイトでも、ラッピングやメッセージなどに対応することは少なくない。だがTANPではシーン別の検索機能をはじめ、最短、即日での配送対応や商品への名前の彫刻などに対応。ラッピングやメッセージカードも豊富に用意している。化粧品の「THE BODY SHOP‎」、ルームウェアの「gelato pique」、食料品の「DEAN&DELUCA」などの有名ブランドをはじめとして、200ブランド・4000点の商品を取り扱う。売り上げについては非公開だが、平均して1日200件程度の商品を発送しており、母の日や父の日といった繁忙期には、1日1200件の発送を行っている。商品単価についても非公開だが、5000円から1万円程度の商品の購入が中心だという。

 同社はこれまで、ベンチャーキャピタルのANRI、マネックスベンチャーズ、ドリームインキュベータ、SMBCベンチャーキャピタルから合計1億4000万円の資金を調達しているが、8月28日にはグロービス・キャピタル・パートナーズ、スパイラルベンチャーズのほか、エンジェル投資家の福島良典氏(Gunosy創業者)、有安伸宏氏(コーチ・ユナイテッド創業者)、大湯俊介氏(ママリ創業者)、遠藤崇史氏(スマービー創業者)を引受先とした総額5億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにしている。また、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎⼀氏が同社の社外取締役に就任した。

スタートアップのインターン経験者が共同創業者

 Graciaの設立は2017年6月。斎藤氏と代表取締役COOの中内怜氏、取締役/CTOの林拓海氏のいずれも東大生が学生のうちに立ち上げたスタートアップだ。斎藤氏と中内氏はもともと東京大学経済学部での同級生。大学1年生の夏に他の友人とも組んで家庭教師斡旋事業を立ち上げるもうまくいかず、4ヵ月でサービスを終了。その後ビジネス経験を積もうと考えつつ、Twitterで情報発信をしていた時に「インターンをしないか」と連絡があったのが、同じく東大発スタートアップのCandleだった。

 2016年初からCandleでインターンとしてキュレーションメディアに関わった斎藤氏と中内氏。Candleは2016年10月にクルーズが買収し、その後キュレーションメディアの品質が問われた、いわゆる“WELQ騒動”の余波を受けて2人が関わっていたメディアも閉鎖に至り、それぞれ時期を別にしてCandleを離れることになった。その後、2人は共同創業を決意。同じく東大出身の林氏も合流してGraciaを立ち上げた。

「中内とはもともと大学時代のクラスメート。インターンも『一緒に起業しよう』という感じではなく『一緒にビジネスのための修行をしよう』くらいの感覚でした。辞めるときも別々です。(インターンを離れて)から、金さん(Candle創業者の金靖征氏)に『Candleで新規事業をやらないか』と2人がそれぞれ声をかけて頂きました。ですが『やる限りは、起業する限りは突き抜けたい』という思いからそれを断り、2人で起業するに至りました」(斎藤氏)

ギフトに特化した商品の並ぶ「TANP」ギフトに特化した商品の並ぶ「TANP」(サイトのスクリーンショット)

父の日のギフト選びから生まれた「TANP」

 最近では「BASE」や「STORES.jp」といった個人や中小企業が利用できるECサイト制作サービスも人気だが、ギフトに特化し、複数の卸業者と取引して成長を続けるEC事業者は多くない。TANPを企画したきっかけは、斎藤氏の実体験だ。

「父親の誕生日プレゼントを買おうとしたとき、最適なECサイトがなかったんです。インターンで経験したメディア事業や、ゲーム事業もこの時期では厳しいと考えていました。だったらECが面白そうと考えていたんです。ただ、今からアパレルをやってZOZOに勝つのは難しいですよね。それに食品は卸の関係もあって厳しそうでした。ではギフトはどうかと考えると、意外と空いているな、まだビッグプレーヤーがいないなと考えたんです」(斎藤氏)

シンプルにユーザーのニーズを捉えて、答えを提供する

 前述のとおりGraciaは売り上げの実数を公開していない。だが、年次での成長率は約4倍と好調だ。これについて斎藤氏は「つまらない答えになりますが、シンプルにユーザーのニーズを捉えて、答えとなるコンテンツを提供できていることが一番大きいと考えています」と説明する。ユーザー向けにはメッセージカードを添える、バラエティ豊富な梱包や商品の名入れといった機能を整えていった。それと同時に、自社でロジスティクスを構築し(毎日の発送は同社のオフィスと倉庫がある東京・五反田のビル内で行っている)、在庫の管理システムも自社開発。在庫管理、商品管理、CRM、発送、売り上げの解析など、業者向けの解析ツールも開発している。こういった取り組みがあり、創業2年未満ながら、有名ブランドを含めた商材の仕入れを実現したという。

「正直なところ、創業期はロジスティクスが大事だとは思ってもいませんでした。ですが、仮説に基づいて、淡々と施策を実施していった結果で数字を伸ばしています。『これをやったから爆伸びした』という施策はありません。1つだけ意識していたのは、『ネットを使ってリアルを変える』ということ。(ECという)ネットの機能だけでは競合と差別化しづらいところはあります。ですがロジスティクスまで自前で作れば、簡単にマネできませんよね」

「また商品を実際に仕入れるので、ドロップシッピングだと取り扱えない商材も扱えます。業者も『だれでも買えば卸してくれる』というわけではありません。TANPも1年がかりで交渉したようなブランドも少なくありません。なぜならブランド毀損を気にするからです。だからこそ、そういった商品を扱えるように意識してサービスを作っています」(斎藤氏)

 Graciaは今回の資金調達をもとに、さらなる事業の拡大を狙う。「まだまだ検証の部分が多かったので、オンラインを中心にマーケティングを本格化していきます。その次の段階でマスマーケティングにも挑戦していきたい」(斎藤氏)

 採用も拡大する。創業者2人の古巣であるCandleをならい、これまでインターンやインターンからの正社員採用を進めてきたため、20代が中心の組織になっているが、今後は百貨店のバイヤー経験者やロジスティクスの経験者、自社サイトやツール開発のためのエンジニアまでの人材を確保していくという。

「『やれば伸びる』というところは見えているので、資金を集めて、そこを解決していきます。何より大事なのは人です」(斎藤氏)

日本にも「ギフト文化」を作りたい

 外部から資金を調達している以上、将来的には上場を見据えているが、それは「短期的なゴールでしかない」と語る斎藤氏。将来の目標について次のように語った。

「今後は、あらためて『ギフト文化』を作っていきたいと思っています。オンラインでギフトを贈り合う、新しい習慣を作りたい。ギフトって、歴史上変わり続けているものです。バレンタインデーやホワイトデーもかつてはありませんでした。僕たちはより人間を幸せにするための道具を提供していきますし、その道具が変わっていくところです。人の幸せを作っていけるものなら、なんでもギフトになっていいと思っています。そんな、人の幸せや文化をつくる企業になりたいと考えています」(斎藤氏)

 市場を見れば、オンラインギフトサービス「giftee」を提供するギフティの上場承認が下りたばかり。ギフトECは次のトレンドとなるのか。

(ダイヤモンド編集部副編集長 岩本有平)