東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が展開するインキュベーションプログラム「東大IPC 1stRound」 画像提供 : 東大IPC
東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が展開するインキュベーションプログラム「東大IPC 1stRound」 画像提供 : 東大IPC
  • 東大系VCのインキュベーションプログラムに新たに7社が採択
  • JIYU Laboratories : 人工知能を活用した学術論文の自動要約サービス
  • セレイドセラピューティクス : 造血幹細胞を活用した再生医療製品の開発
  • SoftRoid : 建設業界の生産性向上を支援するソフトロボット
  • ARAV : 建機の遠隔操作・自動運転システム
  • HarvestX : いちごの完全自動栽培を実現する受粉・収穫ロボット
  • ヤモリ : 不動産経営管理を効率化するクラウドサービス
  • ORLIB : ドローンに活用できる新世代二次電池の開発

東大系VCのインキュベーションプログラムに新たに7社が採択

起業を目指す卒業生・教員・学生などの東京大学関係者や、ユニークな事業のタネを持つ東京大学関連のシードベンチャーを対象にしたインキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」。

運営元の東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は10月20日に3回目を迎える同プログラムの新たな支援先7社を発表した。

東大IPC 1st Roundでは各社に対して最大1000万円の活動資金が提供されることに加え、東大IPCが6ケ月間に渡って事業の垂直立ち上げに伴走する。JR東日本スタートアップやトヨタ自動車を始めとする国内大手企業がパートナーとして参加しており、各社と協業や実証実験のチャンスがある点なども特徴だ。

また東大IPCでは今年7月に職業紹介事業者許可を取得し、1st Round支援先とその卒業生、および投資先スタートアップに向けた人材支援プラットフォーム「Deep Tech Dive(ディープテックダイブ)」を展開。対象スタートアップが手数料なしで起業志望者やCxOなどの幹部志望者、研究者・エンジニアなどの副業志望者といった人材にダイレクトにアプローチできるシステムの提供も開始している。

前身のプログラムも含めると過去2年間の間に累計29チームが採択され、そのうち17社がすでにベンチャーキャピタルなどからの資金調達に進んでいるという。

JIYU Laboratories : 人工知能を活用した学術論文の自動要約サービス

人工知能を活用して学術論文を自動で要約するサービス「Paper Digest」  画像提供 :  JIYU Laboratories
人工知能を活用して学術論文を自動で要約するサービス「Paper Digest」 画像提供 : JIYU Laboratories

JIYU Laboratoriesでは人工知能を活用して学術論文を自動で要約するサービス「Paper Digest」を手掛ける。

一流の学術論文は英語で書かれているケースがほとんどのため、研究者は毎月数十時間を費やして英語で書かれたさまざまな論文に目を通す。ただ何時間もかけて読んだ結果「自分にとって関係ない内容であることが判明する」ということも多く、特に非英語圏研究者にとって大きなペインになっている。

Paper Digestの大きな特徴は、本文の重要な箇所を抽出して論文の要約を自動で生成すること。それによって研究者は自ら論文をしっかり読み込まずとも、自分にとって有益な内容であるかどうかを簡単に判断できるようになるという。

JIYU Laboratoriesの2人の創業者は共に大学の研究者。CEOの高野泰朋氏はかつて博士論文を完成させる過程で1週間に1000本の論文をチェックしたことがあり、Paper Digestを立ち上げた背景には自身が痛感した課題を解決する目的もあるそうだ。

セレイドセラピューティクス : 造血幹細胞を活用した再生医療製品の開発

セレイドセラピューティクスでは造血幹細胞を用いた、白血病や悪性リンパ腫などの血液がんの新しい治療法の開発に取り組んでいる。

従来血液がんの治療法としては骨髄移植が主流となっていたが、骨髄移植にはドナーとのマッチングが必要で時間がかかる、骨髄ドナーへの負担が大きい、拒絶反応が強く出るといった課題があり、それに代わる新しい方法が模索されてきた。

造血幹細胞を使った移植による治療法はその1つだ。調達が容易でドナーに負担をかけずに済み、移植後の拒絶反応が少ないといった点が特徴。ただし出産時のへその緒からとれるものなので、量が極めて少ないという点がネックになっていた。

セレイドセラピューティクスはこのヒト造血幹細胞を高品質かつ大量培養する方法の確立に成功。この技術を用いて、新たな再生医療製品の開発を目指している。

SoftRoid : 建設業界の生産性向上を支援するソフトロボット

SoftRoidは建築現場を巡回してデータを集める“ソフトロボット”を開発するスタートアップだ。

建設業界は2015年に340万人いた技能労働者が2025年までに110万人離職すると予想されているほど、高齢化による人材不足が深刻な業界の1つ。現場では労働生産性の向上が急務となっているが、センサーの活用などが進む製造現場などと比べても、未だに人手による写真撮影や目視での進捗管理が中心で、データの活用が進んでいない。

この課題に対してSoftRoidでは建築現場で想定される段差や階段、不整地を走破できるソフトロボットを開発。ロボットが毎日現場を自動巡回して「データ収集→可視化→分析→改善」という一連のサイクルを実現することで、現場の生産性向上を後押しする。

同社の代表取締役CEOを務める野﨑大幹氏はソフトロボットの研究開発に長年取り組み、ロボット分野のトップカンファレンスで採択・発表経験がある。

ARAV : 建機の遠隔操作・自動運転システム

ARAVのシステムを使うと、既存の建機を離れた場所から遠隔操作できるようになる  画像提供 : ARAV
ARAVのシステムを使うと、既存の建機を離れた場所から遠隔操作できるようになる 画像提供 : ARAV

ARAVが開発するのは既存の建設機械にデバイスを後付けするだけで、遠隔操作や自動運転ができるプロダクトだ。

上述した通り、建設業界は高齢化とそれに伴う人材不足が顕著な領域。3K(キツイ、汚い、危険)な現場であることも影響して若い人がすぐにやめてしまうという課題も抱えている。特に建機が活躍するシーンは過酷であるため、その現状をテクノロジーを活用して変えていくことで、働きやすい環境を整えようというのがARAVのアプローチだ。

同社の手掛けるWebコントローラーを既存の建機に後付けで搭載すれば、ノートパソコンやスマートフォンを用いて遠隔から操作することが可能。6月から油圧ショベルに対応したプロダクトを主力製品として展開中で、すでに複数社の顧客がいる状態だという。

ARAV代表取締役の白久レイエス樹氏は学生時代からロボット開発に携わっていて、ロボコンの全国大会優勝経験もある人物。ARAV創業前にはSUBARUでEyeSightのエンジニアを務めていたほか、商用トラックの遠隔化・自動化に取り組む米国のスタートアップで働いていた経験も持つ。

HarvestX : いちごの完全自動栽培を実現する受粉・収穫ロボット

HarvestXが研究開発を進めている、いちごの受粉・収穫を自動化するロボット  画像提供 : HarvestX
HarvestXが研究開発を進めている、いちごの受粉・収穫を自動化するロボット 画像提供 : HarvestX

HarvestXは人類の食糧問題の解決策としてロボットによる農作物の完全自動栽培を目指すチームだ。

特に同社が注力しているのが果菜類の植物工場用ロボットの開発だ。HarvestXによるとレタスやバジルといった葉物野菜の植物工場は多い一方で、果菜類の植物工場はほとんど存在ない。その理由として果菜類はそのほとんどがミツバチによる虫媒受粉に依存している状況であり、ミツバチの飼育が困難であることや、工場内における受粉手段が欠如していることがネックになっていたからだという。

そこでHarvestXではミツバチに代わる手段として、ロボットを活用した受粉・収穫技術の開発に取り組む。現在はいちごを対象に研究開発を進めている段階。花や果実の位置をカメラで正しく認識するとともに、深層学習を用いて果実の成熟判定を実施し、受粉から収穫までを含めて栽培の完全自動化を目指している。

同社CEOの市川友貴氏は大学在学時から大手電機メーカーやスタートアップで組み込み機器の開発に携わっていた人物で、2020年に未踏スーパークリエータとして認定されている。

ヤモリ : 不動産経営管理を効率化するクラウドサービス

ヤモリは不動産オーナーの賃貸経営業務を効率化するクラウドサービスを展開している。

同社が解決するのは不動産オーナーの抱える「管理会社とのやり取りがアナログで非効率」「大量の書類管理」「物件の収支データが不透明」といった課題だ。

従来はExcelなどを使って毎月こまめに管理するくらいしか解決方法がなく、ほとんどのオーナーが管理会社に丸投げの状態だった。ヤモリではオーナー向けの「大家のヤモリ」と管理会社向けの「管理会社のヤモリ」という2つのプロダクトを通じて、投資物件の収支、重要書類の管理、双方の間でのやりとりなどをすべてクラウド上に集約する。

ヤモリ代表取締役の藤澤正太郎氏は三菱商事の出身で、同社では海外インフラ投資や住宅関連事業の立ち上げなどを経験。現在はヤモリの代表に加えて不動産テックユニコーンKnotelの日本法人代表も務める。

ORLIB : ドローンに活用できる新世代二次電池の開発

ORLIBでは多電子反応を利用し、従来の2倍のエネルギーを貯蔵できる新型電池の事業化を目指している。

同社が最初に取り組むのが、インフラ検査ドローン向けの電池だ。機器やシステムの準備は整っているものの「電池の持ちが悪くて社会実装できない」というインフラ検査ドローンの課題解決を進める。

ORLIBが実用化しようとしている新型電池の特徴は大きなエネルギーを手軽に、安価に貯蔵し、必要に応じて取り出せること。ゆくゆくは他の用途にも広げていく計画だ。

同社は電気化学の分野で実績のある西原寛元東大教授が会長を、NECや村田製作所などで電池研究開発に約20年携わってきた佐藤正春氏が代表を務める。