よりそうの経営陣。中央が代表取締役社長の芦沢雅治氏よりそうの経営陣。中央が代表取締役社長の芦沢雅治氏
  • レビューサイト運営で気付いた「葬儀」の課題
  • 「価格が明瞭な葬儀サービスが必要」
  • 問い合わせは4年で8倍以上に

不明瞭な料金体系やさまざまな慣習が残る葬儀業界に挑戦するスタートアップ・よりそう。もともと葬儀社の比較サービスから始まった同社は、明瞭価格をうたう葬儀サービスを軸に、ライフエンディング領域の事業を拡大している。そのよりそうが総額20億円の資金調達を実施したことを明らかにした。同社のこれまでの軌跡と、今後の展開について、よりそう代表取締役社長の芦沢雅治氏に聞いた。(ダイヤモンド編集部 副編集長 岩本有平)

レビューサイト運営で気付いた「葬儀」の課題

 葬儀サービス「よりそうのお葬式」、僧侶の手配サービス「お坊さん便」などを手がけるスタートアップ・よりそう。同社は9月2日、SBIインベストメント、ジャパン・コインベスト、新生企業投資、ナントCVC2号 ファンド、山口キャピタル、AGキャピタルの計6社より総額20億円の資金を調達したことを明らかにした。よりそうはこれまでグローバル・ブレイン、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、Spiral Ventures Japan、みずほキャピタルからも資金を調達しており、累計調達額は約32.6億円に上る。

 よりそう(当時の社名はみんれび)の設立は2009年3月。学生時代からウェブサイトを制作していた芦沢氏は、2009年にみんれびを設立。当初はさまざまなジャンルのレビューサイトを作り、アフィリエイトを軸に事業を行っていた。その中でもユーザーを集めていたのが葬儀のレビューサイト「葬儀レビ」。そこで芦沢氏は葬儀に関する情報のニーズについて知ることになった。

「いろいろなサイトを立ち上げる中で、当時は葬儀領域の競合が少なく反響もよかったんです。ただ、自分の身のまわりの人がいつ亡くなるかは分からないことがほとんど。急な相談のニーズも多いため、365日、24時間のコールセンターが必要だと感じたんです。当時は私も電話に出ていました」(芦沢氏)

 芦沢氏も語るように、葬儀の多くは短い時間で大きな選択を迫られることがほとんど。また、経験する機会もそうそうないものだ。そんな中でいつでも相談できるコールセンターを作ったことが、ユーザーを集めたのだという。

「正直なところ、その頃は事業的には常に苦しい状況でした。レビューサイトやコンサル事業、他社サイトの集客支援などをやりながら、それをコールセンター業務につぎ込んでいる状況。ですが、レビューして、比較するだけではダメだったんだと思っています。コールセンターまで作ったことが、サイトの価値につながりました」(芦沢氏)

「価格が明瞭な葬儀サービスが必要」

 レビューサイトは事業として育ちつつあったという当時のよりそう。葬儀に関する相談を受ける中で、現状の葬儀ビジネスにまだまだ不明瞭な点があるということだと気付いた芦沢氏。2013年には明瞭な価格体系を打ち出した葬儀サービスの「よりそうのお葬式(開始当初の名称は「シンプルなお葬式」)」や、法事や法要に定額のお布施で僧侶を手配する「お坊さん便」といった葬儀関連サービスを自ら展開するに至った。

芦沢雅治氏芦沢雅治氏 Photo by Yuhei Iwamoto

「たとえばお布施の金額を相談されても、これまでだと『お気持ちです』としか言えませんでした。それを定額化して示したことの反応がよかったんです。葬儀の業界を研究してきましたが、すればするほど、『分かりづらい』と感じました。たとえ複数社を並べて比較検討したところで、何が違うのかが見えにくい。お客さまのニーズ考えると、価格が明瞭で、パッケージとしてしっかりした葬儀が必要だと考えました」

「老後は怖い。それはみんな怖いじゃないですか。年金をはじめとしたお金、親や自分自身の介護だってそうです。もちろん終活もそうです。だからまず、ここからやっていこうと決めました。最初の頃には『インターネットで葬儀社は探さない』とも言われました。今までは家族や知り合い経由、もしくは病院の提携先などのつながり、もしくは電話帳で探していた領域。それをパソコンやスマホで検索しないわけはないと思っていました」(芦沢氏)

 2009年にはユニクエストの「小さなお葬式」、イオン子会社であるイオンライフの「イオンのお葬式」といった明瞭な価格設定をうたう葬儀サービスがスタート。業界団体との摩擦もあったが、その認知を広げつつあった。また、病院提携の葬儀社に葬儀を依頼する割合も減ってきている(芦沢氏によると現在では10%にも満たない状況だという)。さらに、都市圏を中心に核家族化が進んで葬儀自体の規模も小さくなってきた。こういった状況も葬儀サービスのニーズに拍車をかけた。

問い合わせは4年で8倍以上に

 同社の売上高は非開示だが、葬儀サービスを軸に、数十億円規模に成長しているという。また、葬儀サービスへの累積問い合わせ件数は2014年度末から2018年度末で比較して約8倍、お坊さん便では約13倍になった。また、2018年3月には社名変更に加えて、墓地、法事、相続といった葬儀周辺領域のサービスをワンストップで提供するブランドとして「よりそう」を打ち出している。よりそうでは生前に加入することで、葬儀や供養の特典が受けられる「よりそうメンバー制度」を展開しているが、その会員は数万人になっているという。

「喪主としてお葬式を上げて、お坊さんを手配します。そうすると今度は四十九日、一周忌法要と続きます。周忌法要だけでなく、位牌や仏壇、お墓も必要になりますし、相続についてもなくなってから10ヵ月以内に決めないといけません。そういったことを一元化していきます」(芦沢氏)

 よりそうでは、今回調達した資金をもとに採用やサービスの拡大を進める。来年度末までに社員数は現在の2倍にあたる200人にまで拡大する。葬儀の市場規模は2兆円。高齢化が進むため、2040年頃までさらに拡大するとの見方もある。

 今後はテレビCMをはじめとしたマスプロモーションについても検討中だ。また、提携する葬儀社とも連携し、顧客満足度向上のための仕組みも作っていくという。ユニクエスト(2018年12月)、イオンライフ(2019年4月)同様、2019年1月には景表法の有利誤認にあたるとして措置命令も受けたが、表示を訂正し、再発防止のための体制作りも進めた。

「米国でも、ある葬儀社が価格を公開したら州知事に褒められたというニュースがありました。もちろんそのままの形式で持っていけるかは別ですが、グローバルに課題がある領域です。ですがまずは国内で、そして葬儀の前後までをサポートする事業をやっていきたいと思っています」(芦沢氏)