
- 日本の画一的な教育システムを変える
- オンラインテーマパークで1人1人の個性を伸ばせる環境を
- 「習い事はSOZOWさえあれば十分」を実現へ
新型コロナウイルスによる感染拡大はさまざまな領域のオンライン化を加速させた。「教育」もその例外ではない。学校の授業のオンライン化だけでなく、学習塾などがオンライン授業に取り組む例も増えた。
オンライン教育サービスを手掛けるIT企業もリモート学習ニーズに応える形で事業を拡大させている。たとえばリクルートマーケティングパートナーズが展開する「スタディサプリ」の有料会員数は、6月末時点(2021年3月期第1四半期)で前年同期比89%増となる140万人を突破した。
2019年6月創業のGo Visionsも大きく分類するとオンライン教育関連のスタートアップの1社になるが、同社が取り組むのは学校や学習塾が扱ってきた国語算数理科社会といった「認知能力」に関わるものではなく、創造性や好奇心などの「非認知能力」をオンライン上で育む仕組み作りだ。
Go Visionsが2021年1月に正式ローンチを予定している「SOZOW(ソーゾウ)」のコンセプトは「好奇心が未来をつくるオンラインテーマパーク」。小中学生を対象とした、さまざまなアクティビティにオンライン上で参加できる月額制のサービスだ。
ユーザーはゲームプログラミングやYouTuber、起業家などのアクティビティから好きなものを“習い事感覚”で選ぶ。各アクティビティはZoomを活用したインタラクティブなライブ配信が中心。一方的に授業を受ける形式ではなく、対話やクイズを積極的に取り入れ、制作や発表の機会も用意されている。
Go Visionsではサービス開始に向けて開発体制を強化すべく、10月30日にSTRIVE、HIRAC FUND(マネーフォワードベンチャーパートナーズ)、epiST Venturesおよび複数の個人投資家を引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資により総額で1.1億円を調達した。
まずはサービス開始に先がけ、11月7日より先着8000家族限定で実施する無料体験の登録受付を本日から始める。
日本の画一的な教育システムを変える

Go Visions代表取締役の小助川将氏は新卒で戦略コンサルティングファームへ入社。その後はリクルートで事業開発や人事組織コンサルティング、グリーでプロダクト責任者として複数のプロダクト運営などに携わった。
そんな小助川氏が教育領域で会社を立ち上げのは前職・LITALICOでの経験が大きい。同社では執行役員や子ども向けのプログラミング教室・ロボット教室事業「LITALICOワンダー」の事業部長を歴任。特にLITALICOワンダーの現場では、ものづくりに没頭する子どもたちをたくさん目にしてきた。
たとえば学校が合わず不登校になっている小学生の子が「Pythonにものすごく興味がある」と言って目を輝かせながら、熱心に教室に足を運ぶ。そんな光景を何度も見た。
小助川氏自身の長男もロボット開発に“どハマり”した結果、小学3年生時にロボコンの世界大会で入賞を果たし、その後孫正義育英財団の第3期支援人材に選ばれるまでになった。
「子どもの好奇心によるエネルギーの凄さを強く感じるとともに、これからの時代に親に求められるのは『子どもの好奇心サポーターになること』だと思いました。長男は決して天才児というわけではないですが、好奇心に従って興味があることに一歩踏み出したことで彼の世界がとてつもなく広がった。もっと子どもたちの興味や好奇心を育めるような仕組みを作れないかと考え、事業を立ち上げることを決めました」(小助川氏)
小助川氏によると日本の小学校の教室の様子は約150年前からほとんど変わっていないそう。同年齢の子どもたちが同じことを、同じペースで、同じやり方で教わっていくという“画一的な教育システム”は、今の時代には必ずしもマッチせず、子どもの可能性を閉ざしてしまう場合さえある。
起業の道を選んだ根底には「日本の画一的な教育システムを変えたい」という思いがあったという。
オンラインテーマパークで1人1人の個性を伸ばせる環境を
そんな背景から考案したSOZOWは、まさに子どもたちが自らの好奇心に基づき、さまざまなアクティビティに参加できる場所だ。
料金は月額のチケット制(4回分で月額1万円。毎月システム利用料1000円が別途発生)となっていて、興味があるものを自由に選べる仕組み。チケットは兄弟・姉妹でシェアすることもできる。
冒頭で触れた通りアクティビティはライブ配信形式で、画一的な正解を教えるのではなく、1人1人が自らの考えを発表したり、実際に手を動かしてものづくりを体験したりする機会を多く組み込む。今夏に実施したクローズドベータ版では延べ200人がアクティビティに参加し、小学生の子どもでも60分以上集中的に取り組めるなど、手応えを掴めたという。
好奇心を広げる仕掛けとして「自分で簡単なゲームを作ってみる」「動画を撮影してみる」といったように、自宅でチャレンジできるホームミッションを合わせて提供。共通の好きなことや趣味を持つ子ども同士がオンライン上で繋がれるSlackコミュニティ「SOZOWキャンパス」も用意する予定だ。
2021年1月の正式リリースのタイミングでは、ゲームプログラミングやITリテラシー、ビジネス・起業、お金を含む8つのアクティビティからスタートする計画。その後もウェブ3Dデザインやサイエンス、宇宙などラインナップは随時拡大していくという。
実は創業当初、小助川氏はこうした取り組みをオフラインの場から広げていくことを考えていた。過去に2度ほど多様なアクティビティを体験できるオフラインイベントを開催。2月に池袋で実施したイベントには5000人の参加枠に対して、約1万1000人から応募があった。
ただその直後、日本でも新型コロナウイルスの影響が深刻になり、オンラインにシフトすることを選んだ。想定外の事態ではあったが、結果的にはポジティブな面も多かったという。
「1ライブ配信あたり最大で500名まで参加できる仕組みにする計画です。それができるとリアルな場で開催するよりも効率的ですし、教室を増やすコストも抑えられます。また地方の場合などは、自分の身の回りで直接学べるものの選択肢がどうしても限られてしまいがちです。オンラインにすることで場所の制約を一気になくすこともできます」(小助川氏)
子どもの興味や関心のログをデータとして蓄積しやすいのもオンライン化の利点の1つだ。SOZOWの正式版では子どもの興味や性格などを分析して「個性」を可視化する仕組みを導入すると共に、その個性を伸ばすのに最適な情報を自社・他社問わずキュレーションして届ける取り組みを行う計画もある。中長期的には動画のアーカイブデータから子どもの表情を分析できるようなテクノロジーも取り入れていきたいとのことだった。
「習い事はSOZOWさえあれば十分」を実現へ

ビジネス的な観点では、まずは習い事市場のオンライン化とリプレイスを狙っていくのが目標だ。
子どもを「プログラミング教室」「YouTuber講座」など複数の習い事に通わせようと思うと、通常は習い事の数だけ入会金や月謝が発生し負担も増える。子どもが複数人いる家庭であれば、なおさらその負担は大きい。
SOZOWの場合は1つのサービス上でさまざまなアクティビティを体験できる上に、月に4つのアクティビティに参加しても月額1万1000円(チケット料金+システム利用料。入会金は別途1万円)で済む。保有するチケットを家族間でシェアしてもいい。
早ければ2021年春を目処に、審査に通過した大人が自分の好きなことや得意なことに関するアクティビティを自由に配信できるプラットフォームへと進化させる方針。小助川氏の中では「ココナラの小中学生版のようなイメージ」に近いそうで、多様なアクティビティが飛び交うようにすることで「習い事はSOZOWさえあれば十分という世界観を作っていきたい」と話す。
「参入障壁自体は高くない領域なので、どこよりも早くこの分野でナンバー1のプレイヤーという認知を獲得していきたいと考えています。今回調達した資金はそのためのマーケティングやコンテンツ開発に投資をするのが目的。ゆくゆくはオープンプラットフォーム化や、蓄積されたログを活用した取り組みを進めながら『子どもの個性や好奇心がよくわかり、さらにそれをしっかりと育めるサービス』にしていきたいです」(小助川氏)