
「世界中のさまざまな製品情報を収集し、有効活用しやすい形に整理した『巨大な辞書』のようなデータベースを作っています。AIなどの先端技術を活用することで、製品マスタに知性を与えていくようなイメージです」
そう話すのは2020年7月にLazuliを創業した萩原静厳氏だ。現在同社ではAIを使って自動で製品情報の収集・整理を行う“スマートな製品マスタ”の開発に取り組んでいる。
製品情報を集め、独自アルゴリズムを用いて製品の名寄せを実施。製品ごとの特徴を抽出してタグを付与するところまでを自動化した上で、企業が柔軟に使える「クラウド型の製品マスタSaaS」として提供する。
従来は専任の担当者を雇って手作業で進めていた製品マスタの整備を「APIを叩くだけで欲しい情報が取得できる」ように変えるのが目標だ。
Lazuliはプロダクト開発を加速させるべく、11月6日にCoral Capital及び個人投資家を引受先としたJ-KISS型新株予約権方式による5000万円の資金調達を実施した。

萩原氏は新卒で入社したリクルートで主にデータサイエンティストとしてキャリアを積んできた。同社を退職後は飲食店向けの予約/顧客台帳サービスを展開するトレタでデータサイエンス研究所の所長に就任。並行してリクルート時代に創業した自身の会社でデータ分析のコンサルティングも手がけてきた。
複数社のコンサルティングに携わる中で感じたのが、製品情報の基盤となる「製品マスタ」に関して多くの企業が強烈な課題を抱えていたこと。次第にこの領域はコンサルではなくサービス(プロダクト)を通じてアプローチした方がいいと考えるようになり、現COOの池内優嗣氏とともにLazuliを立ち上げた。
「多くの企業が業務のDXや最適化、分析を進める中で、膨大な量のトランザクションデータを活用していますが、その根幹となるのがマスターデータです。その中でも特に製品マスタの扱いが大変で、IDが統合されていないなどデータが散らばってしまっていたり、もしくはデータを管理するのに膨大なコストと手間がかかっていたりと、各社が何かしら“負”を抱えているような状態でした」(萩原氏)

複数の企業がそのような状況に陥っているのを目にする中で「誰もが使いやすい形で、欲しいデータを欲しいと思った時に取得できるデータベースを自分たちで作ってしまおう」と萩原氏は考えた。
冒頭で触れた通り、Lazuliが開発する「Ninja DB」では製品データの収集から加工までの工程を独自のアルゴリズムを用いて自動で実施する。
たとえば「○○トマト」という製品があった場合、その商品名や画像から特徴を抽出し、「トマト」「生鮮食品」「野菜」といったタグやカテゴリの情報を機械的に付与するといった具合だ(現時点ではテキストのみが対象だが、今後は画像から特徴を推定する仕組みを実装していく計画)。

こうしたデータの整形・管理作業は基本的にこれまでその大部分が手作業で行われてきた。特に大企業では数十人規模の専任スタッフを雇っているような状況で負担が大きいだけでなく、手作業でできる範囲が限界で製品マスタを十分に活用しきれていない場合も少なくないという。
Ninja DBの特徴はデータ管理業務を効率化することはもちろん、メタタグの情報を軸に製品間の繋がりを可視化してマーケティング業務に活用したり、レコメンドエンジンに応用したりできる点にある。要は手作業で大変だった作業の負荷を減らすだけでなく、製品マスタ自体をもっと有効活用できる可能性があるということだ。
「タグ自体は手動で打ち込むこともできますが、あくまで人ができる範囲が限界で、そのデータから製品間の関連性を網羅的にグラフに落とし込んだりするところまでは難しい。自分たちではよくFacebookにたとえて『プロダクトブック』のようなものを作ろうと話しています。Facebookは人と人の関連性のデータを保有し、日々『この人は知り合いかも』とレコメンドをしたり、データを軸に最適な広告を出しやすい仕組みを作りました。この製品版・プロダクト版とも言えるようなデータベースを作っていきたいと考えています」(池内氏)

Lazuliでは現在スーパーやメーカー、ホームセンターなど複数社とプロダクトのPoCを進めている状況。そのほかコンビニエンスストア事業者や小売流通EC事業者など扱う製品情報が多いエンタープライズ企業が初期のターゲットになる。料金体系については今のところ製品情報(API)が呼び出された回数に応じた課金モデルなどを検討しているそうだ。
同社のプロダクトにおいては、製品ごとの特徴を推定して適切なタグを付与するためのアルゴリズムの出来が大きなポイントになる。今回Lazuliには東京大学大学院教授の松尾豊氏がアドバイザーに就任しており、AI技術の研究開発に関しては松尾氏ともタッグを組みながら進めていくという。