
- LimeとBirdの日本展開は事実上“活動停止”
- Wind Mobilityはコロナ禍を理由に撤退済み
- 「非3密」の移動手段として“黒船”たちは勢いを取り戻せるか
新しい短距離移動の手段として注目を集める電動キックボードのシェアリングサービス。アプリで近くにある機体を探し、借りる。目的地に到着したら、返却する。そんな利便性から、海外では人気サービスとして利用が進んでいる。
日本でも電動キックボード事業を手がける複数社がサービスインを目指し、実証実験を重ねている。
10月下旬からは国内初となる公道での実証実験が全国的に始まった。公道での実証実験を行うのは、Luup、mobby ride、EXx(エックス。旧社名はマイメリット)の3社。いずれも日本のスタートアップで、2019年5月に結成された、マイクロモビリティ推進協議会の参加企業だ。
マイクロモビリティ推進協議会には、海外大手のLimeとBirdも参加しているが、コロナ禍の影響もあり、日本市場での今後の事業展開については不透明だ。そこでDIAMOND SIGNALでは、この先の日本での事業展開について、2社に話を聞いた。
LimeとBirdの日本展開は事実上“活動停止”
Limeは2019年11月にマイクロモビリティ推進協議会への参加、そして日本法人の設立を発表。デジタルガレージやKDDIからの出資を受け、日本でのサービスインを目指すと宣言した。だが同社は2019年9月に福岡県・福岡市で実証実験を実施して以降、今後の展開については沈黙を保ったままだ。
Limeからは今年、アジア太平洋地域の政府戦略および政策責任者のミチェル・プライス氏、そして広報担当者のクランシー・ドビン氏が退任している。昨年まではアジア太平洋地域進出ディレクターだったジョージ・モリソン氏は現在、西ヨーロッパとラテンアメリカも兼任している。
米ニュースメディアAxiosによると、Limeは今年、約14%(約100人)の従業員を解雇し、12の市場から撤退している。だが、同社は日本からの撤退についてはまだ考えていないようだ。
Limeで米国とアジア太平洋地域での政府との折衝を担当しているアダム・コヴァセヴィッチ氏は「日本での電動キックボードの展開に向けて努力を続けます」と説明するも、今後の具体的な計画に関しては言及しなかった。
「我々は今後もパートナーであるデジタルガレージとともに、日本における電動キックボードの規制について観察していきます。電動キックボードが誰にでも簡単に使えるように、今後の実証実験では、免許証や自動車保険の必要性などについては、調整できるようになることを期待しています。2021年には日本での事業運営を開始できるよう、努力します」(コヴァセヴィッチ氏)
BirdもLimeと同様に、2019年8〜9月に福岡県・福岡市で、同社にとって日本初となる実証実験を住友商事と共同で実施した。だが、それ以降は目立った発表をしておらず、日本法人の設立に関しても明らかにしていない。
Bird本社の広報は今後の日本での事業展開について、「我々はより多くの都市でサービス展開するために努力していますが、今のところ(日本での)追加の実証実験は予定していません」と説明する。日本法人の設立についても、「マイクロモビリティがより社会に受け入れられるようになれば、日本で存在感を示していきたい」と述べるにとどまった。
Wind Mobilityはコロナ禍を理由に撤退済み
LimeとBirdは日本での事業展開に及び腰だが撤退までは明言していない。だが、ドイツ・ベルリンに本社を置く電動キックボードスタートアップ・Wind Mobilityの日本法人、Wind Mobility Japanは5月31日、株主総会の決議により解散した。
同社はもともとは電動キックボードの販売を予定していて、4月3日に事前予約の受付を開始したが、「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、車体用意の見通しがつかなかった」ことを理由に販売を中止している。電動キックボードのシェアリングサービスの実証実験についても、2020年4月末にサービスの運用を終了した。
Wind Mobility Japanで3月末まで代表取締役を務めた及川克己氏に撤退の理由について聞くと、「既に退職しているため、前職の内容について一切関知していない」と回答するにとどまった。だが撤退にはコロナ禍が大きく影響したようだ。同氏はSNSで「新型コロナウイルスの感染拡大が原因で、日本でのサービス運用を終了することになりました(原文英語:編集部訳)」と説明している。
「非3密」の移動手段として“黒船”たちは勢いを取り戻せるか
利用者がロックダウンや緊急事態宣言で外出できなければ、電動キックボードに乗ることはできない。そのため、海外の主要都市でサービスを展開する電動キックボード事業者はコロナ禍で大ダメージを受けた。
Lime・CEOのウェイン・ティン氏は10月に米テックメディアThe Vergeの取材で、コロナ禍ではサービス利用が最大で約95%減少したことを明かした。だが利用者は戻ってきていて、10月27日には累計ライド数が2億回に達したと説明する。2021年中には黒字化を目指すという。
一時は危機的状況に追い込まれるも、電動キックボードは「非3密」の移動手段として注目を集めている。7月にはイギリスでシェアリングサービスの提供が解禁された。日本でも「非3密」が合言葉となり、10月下旬に電動キックボードの公道での実証実験が実現している。
だが鳴り物入りで日本参入を発表した“黒船“事業者は、公道での実証実験にも参加せず、今後の事業展開も不明なままだ。「非3密」で国内事業者の動きが活発化する中で、彼らが勢いを取り戻すのはいつになるのか。