
- 加速するインフルエンサーの事務所卒業問題
- プロダクトでインフルエンサーマーケティングの課題解決へ
- 目指すのは「広告の民主化」
YouTubeやInstagramを筆頭にSNSを駆使することで個人が大きな影響力を持つ時代において、個々の熱量や才能を後押しするサービスには大きなチャンスがある。
YouTuberなど複数のクリエイターやタレントを抱え、彼ら彼女らを支援することで事業を拡大してきたMCN(マルチチャンネルネットワーク。日本ではUUUMやVAZなどが有名)はその代表例と言えるだろう。
2018年11月創業のNateeもまた、この領域で事業を展開してきた1社だ。
同社はTikTokに特化したインフルエンサー(TikToker)を抱えるMCNとして事業をスタート。直近ではTikTokを軸としつつもInstagramやYouTubeにもチャネルを拡大し、幅を広げてきた。現在提携するインフルエンサーの数は150名を超え、全SNSにおけるフォロワー総数は2800万人に上る。
そのNateeは11月9日にXTech Ventures、アカツキ、キュービックベンチャーズ、マネックスベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により1.2億円の資金調達を実施した。同社では2019年にアカツキやEast Venturesなどから複数回に渡って総額で約7500万円を調達済み。今回はそれに続くものとなる。
Natee代表取締役の小島領剣氏の話では「事務所業から脱却し、プロダクトで勝負していけるような事業形態へと進化させていく」ことを見据え、組織体制の強化を進めていくという。
加速するインフルエンサーの事務所卒業問題
近年YouTuberのマネジメントを手掛ける事業者(事務所)における「タレントの卒業問題」が話題になることが増えた。
多くの事業者はインフルエンサーとマネジメント契約を締結し、タイアップ案件を獲得してくるほか、撮影スタジオの手配や雑務を含めた一連のサポートをする代わりに収益の一部を手数料として得る形でビジネスを形成している。
そこでネックになるのが事務所の存在意義だ。YouTubeを含めたSNSが主戦場となる場合、一定の影響力を持つようになったインフルエンサーであれば、タイアップ案件の獲得なども含めて「やろうと思えば自分でも出来てしまう」状態に行き着く。
収益が増えるほど事務所に支払う金額自体も増える構造にあるため、結果として著名なインフルエンサーが独立をしたり、より条件のいい別の事務所に移籍する道を選んだりするケースも出始めている。
Natee自体も創業から約2年が経過し事業が成長するとともに、まだ数自体はそこまで多くないものの、この問題に直面するようになってきた。
そうした中で「後発のMCNとして先行する企業と同じようなやり方で事業の成長を目指すのではなく、もっと自分たちの強みやNateeらしさを活かせる方向にシフトする必要があると考えるようになりました」と小島氏は心境の変化について説明する。
「さらなる若い世代の台頭や、芸能人などの参戦などによって今後もインフルエンサーのパイ全体が広がり、ビジネスとしても確実に大きくなっていくはずです。一方で事務所はよりエモーショナルな側面が増し、インフルエンサー自身の“好き”とか”繋がり”がより重要視されるようになると予測していて、それともに小さな事務所に分散するような構図になると考えています。たとえば中国には(MCN事業を展開する)事務所が約2万社もあるように、海外の様子を見ていて日本でも同じような形になるのではないかなと」(小島氏)
プロダクトでインフルエンサーマーケティングの課題解決へ
結果的にたどり着いたのが「プロダクト」の開発・強化を通じて、インフルエンサーマーケティングにおける課題を解決していくこと。それを通じて、ブランドと熱量や才能を持つ個人を適切な形で繋ぎ、双方をエンパワーメントしていくことだ。
「効果が不明瞭でわかりづらいというのがインフルエンサーマーケティングの大きな課題となっています。SNSを活用した広告ではフォロワー数によって単価が決まることも多いですが、本来はフォロワーの数よりも、どれくらいの人を実際に購買へと動かしたかの方がよっぽど重要です。Nateeではデータやテックを活用し、今までブラックボックスになっていたインフルエンサーマーケティングの効果を可視化し、最適化できるようなサービスを作っていきます」(小島氏)
具体的にはインフルエンサーのオーディエンスデータ、広告案件の実績、ファンの実購買データなどを学習しオープンにしていくことで、広告主が目的や商材を基に自社に合うインフルエンサーを見つけて案件を依頼できるようなプロダクトを考えているという。
目指すのは「広告の民主化」
Nateeは創業以来「人類をタレントに!」をミッションに掲げ、個人が自分の個性や情熱を活かして稼げるような環境を作ることを目指してきた。
小島氏がTikTokにフォーカスしたMCNという道で事業をスタートしたのも、そのような考えを持っていた上で、中国版のTikTok(Douyin)に出会い衝撃を受けたことが大きい。
TikTokの高品質なレコメンドエンジンや開発元であるByteDanceの技術力の高さなどを見て「検索による能動的なインターネットの時代から、レコメンドによる受動的なインターネットの時代への移り変わり」を感じるとともに、同サービスがYouTubeやInstagramに並ぶプラットフォームになると考えたそうだ。
小島氏は前職のビズリーチでエンジニアとして「スタンバイ」や「HRMOS(ハーモス)」といったHR系サービスの開発に携わっていたこともあり、Nateeでは初期からタレントのアサインツールや動画アクセス解析ツールなどを自社で開発。企画やキャスティングに強みを持つMCNが多い中で、テックやデータを活用してクリエイティブ制作や広告・アカウント運用、効果測定までをワンストップでできるのが大きな強みになっていた。
今後も「TikTokを活用したインフルエンサーマーケティングに強い会社」としてのポジションを維持しつつも、今まで以上にテクノロジーに投資をして「プロダクトで勝負をしていく」方針だ。
「YouTubeがテレビを民主化し、BASEなどのプラットフォームが小売を民主化してきたように、自分たちが目指すのは広告の民主化に繋がるようなサービスです。自らのパッションや偏愛を基に誰でも広告媒体になれる、そんなサービスを実現していきます」(小島氏)