日程調整を簡単にするカレンダーサービス「Spir」 すべての画像提供 : Spir
日程調整を簡単にするカレンダーサービス「Spir」 すべての画像提供 : Spir
  • 数クリックで日程調整が完了、ZoomのURLも自動発行
  • Googleカレンダーとの連携で日程候補の抽出をスムーズに
  • 将来的には行動ログを軸としたパーソナルCRMの構築へ

1件あたりにかかる時間はさほど多くなくても、数件重なってくると途端に結構な時間を奪われ、精神的にも疲労する——会議や打ち合わせなど、仕事にはつきものの“社外との日程調整”は、なにかとやっかいな存在だ。

「ぜひ一度お話させてください。来週以降でご都合のいい日程をいくつか教えていただけますか?」

メッセージを受け取った後、カレンダーサービスを確認しながら候補日程をいくつかピックアップし、返信する。仮の予定をカレンダーに登録しておき、確定したら予定を反映。オンラインMTGの場合にはURLを発行して個別で共有すれば、ようやくひと段落だ。

11月11日にベータ版のローンチを迎えたカレンダーサービスの「Spir(スピア)」は、この日程調整におけるストレスと非効率さを解消することを目指している。

数クリックで日程調整が完了、ZoomのURLも自動発行

Spirの使い方はとてもシンプルだ。

主催者側が日程調整画面からいくつか候補日を抽出すると専用のURLが発行されるので、それを相手に送る。URLを受け取ったユーザーはカレンダー画面に表示された候補日の中から自分の好きな日程を選び、名前やメールアドレスを入力すれば準備は完了。オンラインMTGの場合にはZoomやGoogle MeetのURLも自動で発行してくれる。

主催者側の一連の流れ
主催者側の一連の流れ
確定者側(URLを受け取ったユーザー)のフロー
確定者側(URLを受け取ったユーザー)の一連の流れ

主催者側はカレンダー画面から手動で候補日をピックアップしてもいいし(日程調整機能)、Googleカレンダーと連携した上で指定した条件に基づき候補日程を自動で抽出してもいい(公開URL機能)。前者の場合にもGoogleカレンダーと同期をしておけばSpir上から自分や同僚のスケジュールをチェックできるので、Spirを開いておくだけでスムーズに候補日を選定できる。

また複数人で予定を調整する際に使えるアンケート形式の日程投票機能も用意されていて、この機能を使えば「表示しているカレンダー全員の空いている時間を自動的に抽出する」ことも可能だ。

複数人で日程調整をする際に便利な「日程投票」機能も搭載
複数人で日程調整をする際に便利な「日程投票」機能も搭載

Googleカレンダーとの連携で日程候補の抽出をスムーズに

Spirは2020年5月からベータ版の事前登録を開始するとともに、数百人規模でクローズドベータ版を運用してきた。

僕自身もたまたま知り合いの起業家が使っていたことをきっかけに一足早くSpirを試してみたのだけど、シンプルながら「Googleカレンダーと連携した上で、自分で候補日程を調整できる」点が思っていた以上に使いやすかった。

というのも、自分でも以前から日程調整には課題を感じていて国内外のサービスをいくつか試してきたが、そのほとんどがGoogleカレンダーの空き日程から自動で候補日を抽出するタイプであったために、結局使うのを辞めてしまっていたからだ。

自動抽出型は候補日を選ぶ手間が少ないのが大きなメリットである反面、「カレンダー上は空いているものの予定は入れないでおきたい」「この予定は並行して調整している別件よりも後に入れたい」など細かい調整が効きづらい。

実際クローズドベータ版でも“自分で戦略的に候補日を選べる”ことが好評で、運営元のSpirで代表取締役を務める大山晋輔氏によると他の調整ツールから乗り換えてきたユーザーもいるそうだ。

加えて今回のベータ版からは自動でスケジュールの空き時間をURLで共有できる「公開URL」機能も実装。ユーザーの用途に合わせて候補日の抽出方法を選べる仕様にアップデートした。

上述した機能は基本的に無料で利用でき、今後はより高機能なプレミアム版も提供していく計画。Outlookカレンダーとの連携や日本以外のタイムゾーンへの対応なども予定しているという。

Spirでは自分で候補日時を抽出することができる
今回から実装された公開URLを使えば、空いている日程から自動で候補を抽出することも可能
日程確定時にはオンラインMTG用のURLを自動発行する仕組みも搭載

将来的には行動ログを軸としたパーソナルCRMの構築へ

「メディアという観点で、カレンダーはものすごく面白い存在だと思ったんです。多くの人が自分自身の普段の行動をカレンダーに記録して、一度使い始めると基本的に毎日目にする。そこに日程調整ツールを組み合わせることで社外へのinvitation(招待)送付を当たり前にし、『いつ誰とどのような用件で会ったか』というオフラインの行動ログを溜めていくことができれば、個人の創造性をより高めていけるような仕組みを作れるかもしれないと考えました」

大山氏はカレンダーサービスから事業をスタートさせた背景についてそう話す。

まずは多くの人が課題を抱えている日程調整の手間を減らすツールを提供し、社外との日程調整ツールにおけるスタンダードを目指すのが最初のステップ。ゆくゆくはそれを通じて蓄積された行動ログをベースとした「パーソナルCRM」を構築し、たとえばユーザー間のビジネスマッチングを促進したりといった新しい仕掛けを取り入れていくことも見据えている。

大山氏は東京大学卒業後、戦略コンサルティングファームを経て2014年に前職のユーザベースに入社。同社では「SPEEDA」の事業開発やプロダクト開発に携わったほか、2017年にはNewsPicks USAのCOOに就任し、米国事業の立ち上げ責任者も務めた。

日程調整に目をつけたのは、アメリカでNewsPicksの事業に携わっていた頃の大山氏自身の経験も大きく影響している。

当時大山氏はNewsPicksの拡大のためには最高のエディターと組むことが必要不可欠であり、(後に買収することになる)Quartzのチームに何とかアプローチしたいと考えていた。

そんなある日、参加する予定のカンファレンスでQuartzの代表の1人がモデレーターを務めることを知る。

大山氏は当日の会場で30分のコーヒーミーティングを直談判し、承諾を得ることに成功。後日2人でモーニングコーヒーを飲みながら会話をしたことを機に、両者の繋がりが生まれた。

「短い時間であったとしても、会いたいと思った時にすぐに日程調整をしてパッと会えることで、その後の結果が大きく変わりうるのだと強く実感しました。その時に日程調整が面倒だと『またどこかのタイミングで』ともなりかねません。日程調整のハードルを下げることで、人と会うことの気軽さや行動自体を変えていく。その一助にもなるようなプロダクトを目指していきます」(大山氏)

1件あたりが数分〜十数分でも、数件日程調整が続くとそれだけで大きな時間を費やすことになる
1件あたりが数分〜十数分でも、数件日程調整が続くとそれだけで大きな時間を費やすことになる

この領域には国内外ですでに複数のプレイヤーが存在し、Spirは後発で参入する形になる。「カレンダーサービスを作っていると話すと、Googleカレンダーと何が違うの?と言われることも多い」そうだが、日程調整にフォーカスし機能を磨き込むことで、戦える余地はあるというのが大山氏の見解だ。

「痒いところに手が届くような機能や実際に試した時の感覚の違いなど、細かい体験面で勝負をしていくことになるため、プロダクトの磨き込みにかなりの時間をかけてきました。今回ようやく一定のクオリティを担保できる状態になったので、まずは日程調整のペインをしっかりと解決できるようなプロダクトを提供していきたいです」(大山氏)