
- 開発に10年をかけたApple独自開発のMac専用チップ「M1」
- Appleシリコンを搭載する3種類のMac製品
- iOS/iPadOSとの連携を意識した新macOS「BigSur」も始動
米AppleがパーソナルコンピューターのMac向けに自社で設計・開発を手がける、新しいSoC(システム化されたICチップ)として「Apple M1(以下、M1)」チップを日本時間11月11日の早朝に開催されたオンラインイベントで発表した。
Apple M1チップは新しいMacBook AirとMacBook Pro、そして据え置き型のMac miniに搭載され、11月中旬から順次出荷が開始される予定だ。
開発に10年をかけたApple独自開発のMac専用チップ「M1」
Apple独自のMac用SoCは“Appleシリコン”として、今年の6月に同社がオンラインで開催した世界開発者会議「WWDC20」で、その概要が明らかにされた。その時に年内の発売を予告していたAppleシリコン搭載のMacが今回、商品として新たに発表された格好になる。
イベントに登壇したハードウェアテクノロジー担当シニアバイスプレジデントのジョニー・スルージ氏は「iPhoneやiPad、Apple Watchのために開発し、約10年にわたってAppleが培ってきた自社開発SoCのテクノロジーをついにMacにも活かせる時がきた」と語った。

M1には高性能なCPUとGPUのコア、および機械学習処理に関わる演算処理に特化したNeural Engine、入出力とセキュリティのチップなどが統合されている。
Appleは自社で設計・開発するSoCにハイレベルな処理性能と、優れた電力効率を合わせ持たせることに注力してきた。SoCに加えて、ハードウェアとソフトウェアを単独で開発できるシステムカンパニーである強みを活かすことで、先進的な機能やサービスを迅速に形に変えてユーザーに届けることができる。今後、開発環境の効率化が進めば、M1を搭載するMacをさらに手頃な価格でユーザーに提供することも可能になるだろう。
Appleシリコンを搭載する3種類のMac製品
今回、Appleが発表したM1を搭載する新製品は薄型・軽量のエントリー向けノートPC「MacBook Air」と、より高性能なノートPCの「MacBook Pro」、そしてディスプレイを持たない据え置き型の「Mac mini」だ。MacBook AirにはGPUのコア構成が若干違うバリエーションもあるが、新製品が搭載するM1は基本的に同じチップだ。

M1は今年の秋に発売されたiPad Air、iPhone 12シリーズが搭載する「A14 Bionic」と同じ5nmプロセスルールによって製造され、ビルディング・ブロック(ロジックや機能をまとめてブロック化すること)による設計手法が共通化されている。高性能CPUコアのアーキテクチャも同じだが、コア数を増やしてMacの用途に最適化を図った。GPUはコア数を2倍に増やしていることから、特にグラフィックス処理に関してはM1の本領が発揮されるはずだ。
オンラインイベントの最中、Appleが新しいMacBook Airの処理性能をアピールする例として、「同じクラスのWindowsノートPCの3倍も処理速度が速い」という言葉を使って、他社製品との比較を前面に打ち出していたことも印象的だった。

ノートPCのエントリー製品に位置付けられるMacBook AirはすべてのモデルがM1搭載機に入れ替わる。1世代前のモデルからは13.3インチのRetinaディスプレイとシザー構造のMagic Keyboardを継承する。デザインも大きな変更点はないが、冷却用ファンを持たない設計としたことで静音性能が高くなっている。
ノートPCの上位機種であるMacBook Proは13.3インチのモデルにM1が搭載される。1世代前のモデルと比べてCPUは最大2.8倍、8コア構成のGPUは最大5倍もの高速化を達成した。プロフェッショナルの映像製作のニーズに応える高い性能を備えたプロ向けノートPCだ。

新しいMacBook Proには集音性能の高いスタジオグレードのマイクと、M1チップに組み込まれている画像処理プロセッサにより画質が向上したFaceTime HDカメラがある。これにより、ビデオ会議環境のグレードアップが図れそうだ。
クリエイティブからオフィスワークまで全方位にユーザーの期待をカバーするMacBook Proの印象を強く打ち出せば、ビジネスパーソンの高機能テレワークツールとして、WindowsノートPCのシェアをさらに奪っていくかもしれない。
また、新しいMacBookシリーズはともにM1を搭載したことで、内蔵バッテリーによる連続駆動時間が向上。MacBook Airはインターネットブラウジングが最大15時間、ビデオ再生が最大18時間。MacBook Proはインターネットブラウジングが最大17時間、ビデオ再生が最大20時間と、それぞれのシリーズ史上最も長い駆動時間を実現している。

据え置き型のMac miniもデザインを変えず、M1搭載による処理パフォーマンスの向上を実現した。Mac miniはIntel製のSoCを搭載する上位機を引き続きラインナップに残して併売する。MacBook Proも同様に13インチモデルの一部と、16インチモデルがIntel製SoCの搭載を継続する。
M1を搭載する新製品の中で、Mac miniのエントリーモデルは価格が1万円ほど安い7万2800円(税別)からとなっているが、他のMacBookシリーズについては1世代前のモデルから販売価格を据え置いたことから、いずれも販売価格が引き続き10万円を超えている。価格はそれぞれ、MacBook Airが10万4800円(税別)、MacBook Proが13万4800円(税別)だ。
とはいえ、M1を搭載したことでMacBookシリーズ処理性能と電力効率が向上しているので、俯瞰すればコストパフォーマンスが良くなったと受け止めることもできる。

iOS/iPadOSとの連携を意識した新macOS「BigSur」も始動
Appleは今後、約2年をかけて自社製のAppleシリコンへの移行を進めていくと宣言している。Macのラインナップにはディスプレイ一体型のデスクトップPCであるiMacシリーズや最高峰のMac Proもある。これらの機種も来年はM1への切り替えが進むことになる。
Appleシリコンの開発と製造がさらに軌道に乗れば、次世代のMシリーズのSoCを搭載するMacBookにはより薄く・小さく、さらに安価なラインナップも加わるのだろうか。Macユーザーである筆者も大きな期待を寄せるところだ。

新たに発表されたM1搭載のMacは、すべての機種が最新のMac向けオペレーティングシステムである「macOS BigSur」を搭載して出荷される。
従来のIntel製SoCのMac向けに開発されてきたアプリケーションソフトの動作互換は確保されるほか、iPhone/iPad向けに開発されるアプリやゲームもデベロッパの努力によるところにはなるが、M1システムでネイティブに動かせる環境は揃う。
macOSとiOS、iPadOSの間でシームレスにアプリケーションやサービスを活用できるエコシステムをつくることは、AppleがM1チップの開発に注力する理由のひとつでもある。

Appleが開催したオンラインイベントの中で、CEOのティム・クック氏は「2020年は色々な意味で“今までにない1年”だった」と語りながら、困難な時間を過ごす世界中の人々のタフネスに刺激を受けて、胸を張って発表できる数々の新製品を形にした開発チームに労いの言葉を送った。
今年はiPadが発売から10周年、Apple Watchは5周年を迎え、怒濤の製品ラッシュが続いた。来年以降もしばらくはCOVID-19による影響が各所に及ぶものと思われるが、このような状況の中でAppleの製品がどのような形でユーザーに受け入れられ使われるのか、引き続き注目していきたい。