
- ミクシィで自分のファンと交流した大学時代
- タレント活動をあっさり辞めて、サイバーエージェントに就職
- 自分自身もプレイヤーであることが、ファン視点をつくる
- 売上がなければ、心血を注いだプロダクトも消えてしまう
- 鈴木健氏の一言で、スマートニュースに転職
- デジタルマーケティングでも「ファン視点」で活躍
元スマートニュースのマーケター、山崎佑介氏。学生時代はテレビ番組に出演して音楽活動を行い、大学卒業後はサイバーエージェントに入社。データアナリストとして働いた後、スマートニュースでユーザー増加に向けたマーケティングを担当し、話題のテレビCMを数多く制作。2020年4月にファンを軸にマーケティング支援を行うI am your fanを設立しました。
これまでに影響を受けた仕事や人との出会い、そこから生まれた思考法に迫りながら、デジタルとマス広告の両方を手掛けるマーケターとしての視点から、成果を出すマーケティングに必要なことを聞きました。(編集注:本記事は2020年10月7日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
ミクシィで自分のファンと交流した大学時代
徳力 山崎さんは1989年生まれなので、スマートフォンやソーシャルメディアを学生の頃から使っていた世代ですよね。インターネットを純粋にコミュニケーションツールとして使用してきているので、私のような会社に入ってから本格的にインターネットに触れた1970年代前半生まれや、大学生の頃に触れた「76世代(ミクシィ 笠原健治氏やメルカリ 山田進太郞氏など1976年前後に生まれたIT企業経営者)」とも、異なる感覚を持っていると考えています。
その中でも山崎さんは、サイバーエージェントでデータアナリストを経験した上で、スマートニュースでテレビCMも手がけるなど、デジタルだけでなくマス広告も使えるという稀有な人材です。
今回は、そういった視点から、たっぷりお話を伺えればと思っています。そもそも、山崎さんがインターネットに最初に触れたのは、いつ、どのような体験でしたか。
山崎 小学校の中学年ぐらいでしょうか。父がデスクトップパソコンを購入したのが、最初でした。僕も自由に使ってよかったので、いろいろ検索してみたり、ソリティアなどの付属ゲームで遊んだりしていましたね。中学生の頃には当時は多くの人が使っていましたが、動画共有ソフトで動画をダウンロードして見ていましたね。

徳力 動画から入った世代なんですね、本当にインターネットにネイティブですね。
山崎 スマートフォンが出てきたのは、高校生に入ってからですね。僕はiPhoneを持っていました。
徳力 コミュニケーションツールとして、はまったWebサービスはありますか。
山崎 ミクシィですね。大学2年生の頃から「ハモネプ」(フジテレビ系列バラエティ番組のコーナー)に出演して歌を歌っていたので、ミクシィでファンと交流していたんです。
あえて、自分から交流しようと思ったわけではなかったのですが、まあバレたというか。ファンだと思って承認すると、心ないコメントをする人もいて。だから、ネット上でひどいことを言われることにも慣れているんですよ。
徳力 山崎さんが、インターネットに対してフラットな視点を持てているのは、タレント活動をしていた経験があるからかもしれません。

山崎 そうですね。ライブをやるときは、そのコミュニティを活用して宣伝したり、より積極的にコミュニケーションしたり、無意識にやっていましたね。
タレント活動をあっさり辞めて、サイバーエージェントに就職
徳力 そこから新卒でサイバーエージェントに入社されるわけですよね。学生時代からテレビに出ていたのに、就職されたのは、なぜですか。
山崎 僕自身が人気になっているというよりも、宇多田ヒカルさんなどのすばらしい楽曲をコピーし、それが「ハモネプ」というフォーマットに乗ることで人気が出ていると考えていました。音楽は好きですが、自分をアーティストだと思ったことは、一度もなかったですね。
徳力 出演していた人が裏方に回るというのは、珍しいですよね。性格的にも、その方が向いていたのかもしれません。
山崎 そうですね。とはいえ、スマートニュースでもプロモーションのためにテレビ出演していたので、出ることに抵抗はないんです。
徳力 サイバーエージェントに入社されたのは、なぜですか。
山崎 いろいろな会社のインターンに行ったなかで、一番しっくり来たんです。大学では経営戦略のゼミに入っていたので、周りはコンサルティング会社に行く人が多かったのですが、サイバーエージェントの人が一番生き生きして見えました。「自分で決めて、自分で責任を負いながらやる」という文化も、僕の性格に合っている気がしました。
徳力 では、インターネット系の会社に絞っていたわけでも、サイバーエージェントで特段何かやりたいことがあったわけでもなく。
山崎 はい。今、振り返ると、小さなチームでスピーディーに事業に挑戦できるところに魅力を感じていたのだと思います。そういう会社であれば、短い修業期間で、若くして責任あるポジションにつけますよね。
自分自身もプレイヤーであることが、ファン視点をつくる
徳力 サイバーエージェントでは、主に何を担当されていたのですか。
山崎 最初はアメーバ事業部に配属されて、データアナリストをしていました。2013年当時は、「怪盗ロワイヤル(DeNA)」や牧場系ゲームが流行っていた頃、バトルカードゲームのグラフィックのクオリティがガンガン上がっているときで、社内でもブラウザゲームをたくさんリリースしていましたね。
その一方で、経営側としては、きちんとデータを蓄積して、売上アップや離脱防止しなければというフェーズになっていて、経営直下でデータを分析していました。
徳力 出身学部は、文系でしたよね。
山崎 はい。ただ、ゼミで統計を学んでいましたので。それに、実際はアナリストというよりも、プロデューサーの横についてデータ基盤や戦略を一緒に考えるような仕事でした。例えば、こういう状況だと離脱しやすいから、設計をこう変えようと提案したり。
それまでは、スマートフォンのアプリで数十億円の売上ができるというイメージは全然わかなかったのですが、入社して手触りのような感覚で、それが分かるようになりました。

徳力 おもしろいのは、いまの「手触り」という言葉ですね。数字だけ見てしまうと、ユーザーの心を忘れがち。でも、山崎さんから手触りという言葉が出てくるというのは、データだけにこだわっていないからだと思います。
山崎 そうですね。難しいですが、例えば、ゲームでダウンロード初日にステージ3まで到達すると、「ARPU(Average Revenue Per User/1ユーザーあたりの平均売上)」が上がるというデータがあるとします。
では、全員が簡単にステージ3に到達できるように設計すれば、ARPUが上がるかといえば、そうではないんです。その間に、何を体験するかが、継続理由につながるわけなので、ステージ3に到達するまでの時間を短くしたり、簡単にしたりするのは、適切なソリューションではないんです。
徳力 多くの人が、だまされやすいパターンですよね。なぜ、ユーザーの体験を見ないことが起きてしまうのでしょうか。
山崎 自分でプレイしていないんじゃないでしょうか。先ほどの例で言えば、重要なのは、ステージ3までにライフが減ったり、友だちに助けてもらったり、強い敵を倒したりといった経験をするから継続するということ。数字の分析だけでは、因数分解の解像度が低すぎるんです。
売上がなければ、心血を注いだプロダクトも消えてしまう
徳力 なるほど。その頃から、自分もやってみることで、お客さん側の視点に立つということをされていたのですね。
山崎 はい、めちゃくちゃしています。
徳力 でも、普通なら「そんなことやっている暇があったら、分析しろ」ってなりがちじゃないですか。
山崎 そうかもしれません。ただ、僕の家は常にレコードが流れているような環境でしたし、僕自身もエンターテインメントが好きだったので、何かにのめり込んで情報をインプットして、そこからアウトプットするのが得意なのかもしれません。
徳力 なるほど。ゲームのデータ分析をしながら、自分自身も楽しむというバランスが良かったんですね。ソーシャルゲームのデータ分析をしている人の中で、マーケティングができる人はおそらく少ないと思うのですが、山崎さんの場合はそれができているのは、なぜですかね。

山崎 結局、プロダクトは、売上がないと潰れてしまうんです。会社としては、利益を出さないといけないわけで、いつまでにどのぐらいのユーザーがいて、売上がなければ、撤退するというラインが決まっています。
それは仕方がないことですが、キャラクターを描くデザイナーやゲームをつくってきたエンジニアは心血を注いでつくっているので、それがなくなってしまうときは、まるでチームが葬式のような空気になります。
それは本当に心が痛くて、もっと自分にスキルがあったらこんなことにはならなかったと思って、悔しかったこともありました。
徳力 普通のデータアナリストだと、事業から一歩引いた解析屋さんになりがちですが、山崎さんはプロデューサーの横にいたこともあって、その気持ちがのりうつったのかもしれませんね。
山崎 はい、結構ミーハーなので、テンションがうつってしまうのはあると思います。経済が回らなければ、優れたプロダクトも簡単になくなってしまうという強迫観念は、スマートニュースというわりと基盤が強い会社にいたときも、毎日持っていましたね。
鈴木健氏の一言で、スマートニュースに転職
徳力 サイバーエージェントでは、ずっとその仕事をしていたのですか。
山崎 いえ、2年経ってからは、渋谷クリップクリエイトという新会社の設立に手を挙げて、参画しました。当時はYouTubeの広告の仕様が固まり、大手企業がテレビとYouTubeの併用を始めたころでしたが、サイバーエージェントには動画を企画する会社がなかったんです。
そこで、放送作家の鈴木おさむさんを社外取締役に迎えて、シェアされて話題になる動画の企画制作をする子会社をつくったんです。
徳力 なるほど。そこで明確にマーケティング領域に踏み込んでいくわけですね。
山崎 そうです。サイバーエージェント本体の営業担当に同行して、クライアントに企画をプレゼンするといったことを最後の1年でやりました。
その事業はすごくおもしろかったですね。例えば、ゲームのプロモーションでは、ゲーム公式の紹介映像よりも、YouTuberがゲームを紹介した方がずっとユーザーに届きやすいんです。
また、YouTuberの攻略動画を見てからプレイすると、初めからどう楽しめばいいかが分かっているから、滞在時間も上がります。鈴木おさむさんからもアドバイスをたくさんもらいました。

徳力 サイバーエージェントでの経験は、トータルで3年ほどですね。転職しようと思ったきっかけは何ですか。
山崎 事業が黒字化したタイミングで、ふと次どうしようかな、と考えたんです。このままさらに事業を大きくするのか、サイバーエージェントで別のチャレンジをするのか。でも、どちらもしっくりこなくて・・・。
徳力 山崎さんは、直感に従うタイプですね。
山崎 そうですね。そのとき、エージェントの紹介でスマートニュースCEOの鈴木健さんに会いました。そうしたら、鈴木健さんが「山崎くん、アメリカの大統領選はどう思う?僕はここが論点だと思っていて・・・」と語り始めて、「おお」と驚きました。
徳力 そんな人に会ったことが、なかったでしょうからね(笑)。
山崎 そうです。「山崎くん、フィルターバブルとフェイクニュースについて、どう考えている? フィルターバブルで本来見えるものが見えなくなり、そこにフェイクニュースがのっかると、国は分断してしまう。それをスマートニュースで変えたいんだよね」と言われて、「やりましょう」と答えていました。
僕自身も、インターネットが普及して本来、起こるべきではないことが起きてしまっている現状や、自分自身で行動して世の中を変えなければならない時代が来ると感じていたので、そこで挑戦してみようと思って入社しました。
デジタルマーケティングでも「ファン視点」で活躍
徳力 ポジションは、マーケティングですか。
山崎 はい。僕がインハウスで映像制作をしながら、デジタルマーケティングをやってみようという感じでした。
そこでGoogle出身の望月優大さんに出会い、デジタルマーケティングの基礎を教えてもらいました。そこに、マーケティングディレクターの松岡洋平さんを加えて、3人で動いていたのですが、松岡さんが退社され、望月さんが違うミッションを担当しチームを離れ、そのあとに西口一希さんが入社されました。
徳力 西口さんが来られたのは、山崎さんがスマートニュースに入ってどれくらい経ったころですか。
山崎 1年ぐらい経っていたと思います。当時の僕は、広告のコンバージョンよりも、スマートニュースで何が見られたらユーザーに楽しんでもらえるかばかり考えていました。これは会社から与えられたミッションではなく、勝手にやっていたことだったので、半分、広告営業のような動き方をしていましたね。
徳力 いわゆるデジタルマーケティングをしていた時間は、そんなにないのですね。
山崎 いえ、わりと大きな額をひとりで回していました。でも、そのアプローチはちょっと変だったかもしれません。
例えば、ユーザーが出かけようと思ったとき、傘を使うかどうかの判断に天気予報を見たり、できるだけ雨に濡れないルートを探したりするために乗り換え案内や地図を見たりしますよね。
それならば、そうしたメディアに、スマートニュースの天気予報機能を打ち出した広告を出せばいいと考えるなど、外部要因に応じてディスプレイ広告の出稿額を増減するということを結構していました。
徳力 山崎さんは、やっぱりエクセルに染まらない素質、つまり数値だけを見ない人ですよね。おもしろいな。

山崎 実際、それで結構、数字が伸びていたんですよ。台風が来たら、その移動と同時に、天気面のCPCを上げてみたりして。
徳力 データを分析しながら、人間の心の動きまで考えるクセが身についているんですね。
山崎 そうですね。スマートニュースはディスカバリーという概念を大事にしていて、ユーザーの興味のありそうな記事ばかりを流すのではなく、興味はなかったけれど読んでみたら視野が広がったという体験を重視しているので、数字を伸ばすことと、ユーザーに好きになってもらうことを同時に進めたいという思いはありました。
徳力 スマートニュースの鈴木健さんからの影響に加えて、サイバーエージェント時代に、鈴木おさむさんからも、いろいろなものを吸収しているのかもしれませんね。
山崎 はい、鈴木おさむさんの影響は、大きいですね。「お前はオタクなんだから、ファンのことだけを考えて仕事しろ、企画しようとするな」と言われました。クライアントの動画を制作するときも、「受注を取るという発想ではなく、そのファンが喜ぶことだけを考えろ」と。
徳力 山崎さんは、オタクなんですか。
山崎 はい。ハマりやすいんで、ミーハーでもありますね。
徳力 なるほど。そこが、今の社名I am your fan(私はあなたのファンです)にもつながってくるんですね。
>>11月26日(木)公開予定の後編に続きます。