
- マーケティング観を変えた、西口一希氏との出会い
- 「“顧客起点”は、サムの影響だよ」
- PLを背負う覚悟で、広告出稿の目的を意識する
元スマートニュースのマーケター、山崎佑介氏。学生時代はテレビ番組に出演して音楽活動を行い、大学卒業後はサイバーエージェントに入社。データアナリストとして働いた後、スマートニュースでユーザー増加に向けたマーケティングを担当し、話題のテレビCMを数多く制作。2020年4月にファンを軸にマーケティング支援を行うI am your fanを設立しました。
前編に続き、これまでに影響を受けた仕事や人との出会い、そこから生まれた思考法に迫りながら、デジタルとマス広告の両方を手掛けるマーケターとしての視点から、成果を出すマーケティングに必要なことを聞きました。(編集注:本記事は2020年10月9日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
マーケティング観を変えた、西口一希氏との出会い
徳力 山崎さんがスマニューで働き出して1年ほど経ってから、上司として西口(一希)さんがやってきたのですね。最初は、どのような印象を持ったのですか。
山崎 素直に、ロン毛でイケメンだなと思いました。僕より少しキャリアがある程度なら身構えていたかもしれませんが、はるかに多くの経験を積まれてきた方なので・・・。西口さんも最初は僕に全然、期待していませんでしたし。

徳力 期待されていなかったんですか。
山崎 はい、すぐに辞めると思っていたみたいです(笑)。西口さんからは「動画をたくさんつくっているけど、ユーザー増えてないじゃん」って言われて、たしかにそうだなと思って。
徳力 山崎さん、素直ですね。
山崎 はい、僕には、例えば「MAU(月間アクティブユーザー数)を倍にする」といったレベルのブレイクスルーが全然できていませんでしたから。当時を振り返って思うのですが、西口さんは入社前から戦略を決めていましたね。
入社前から自腹でリサーチをやっていたし、そのときすでに後に実装することになる英語学習やクーポンチャンネルというアイデアもお持ちでした。
徳力 それまで、いろいろと吸収してきた山崎さんでも、西口さんとの出会いは衝撃だったのですね。
山崎 はい、凄すぎて、得体が知れないと思いました。僕の視点からすると、西口さんのマーケティングは、中学生のときの2コ上の高校生の先輩みたいな感じです。「原チャ乗ってる、やべえ」、「ワックスの使い方がかっけえ」みたいな。何しろ、会話の8割が分かりませんでしたから。
徳力 そうなんですか。
山崎 ただ、自分で偉いなと思うのは、分からなかったことをメモして、後で全部聞いていたことですね。だからミーティング後に、西口さんに時間をもらっていました。でも、それは僕が学びたいからではなく、このチームで結果を出すために、それが分かっていなければ、足手まといになると思ったからです。
これは、サイバーエージェントの考え方なのですが、月に1回想像を超えるような成果を出すよりも、毎日少しだけ期待を超えるということを積み上げていった方が信頼されやすいんです。「信頼の残高を貯めていく」という表現をするのですが。
徳力 へえ、おもしろいですね。今、振り返って、西口さんに気づかされたことは何だと思われますか。

山崎 2倍、3倍伸ばすという目線は、絶対にぶらしたらいけないということです。西口さんは、常に視座が高いんです。僕はユーザーにとって、どんな価値があるかといったことを説明しがちだったのですが、西口さんは絶対に誰が見ても明白にすごいと分かる結果を出し続けました。
それで、サービスが大きくなれば、ユーザーが増えるし、会社として雇用も増やせるので、西口さんのしていることは正しいと思いましたね。
徳力 データの分析ばかりしていると、少し改善していればいいと思えてしまうのですが、先に大きな目標があると、違った見方ができるということですね。
山崎 そうですね。小さな改善も大事ですが、ブランド全体で見ると、効果が限定的でブレイクスルーではないですから。
「“顧客起点”は、サムの影響だよ」
徳力 山崎さんは当時、どのようにチームに貢献しようとされたのですか。
山崎 正しい戦略にはメッセージがあると思います。例えば、西口さんから乃木坂46のブログやニュースが読める乃木坂46チャンネルの構想を聞いた瞬間に「確かにまとまっている場所がない」「今までと違うユーザー層が反応しそう」など、様々な利用シーンが想像できました。
私がすぐできることは、乃木坂46のミュージックビデオや出演している番組を全部見て、メンバーを覚えることです。どんな記事が読まれるか、他に何があったら嬉しいかなど。ファンの言葉で理想像を語れるようにしました。
こういったプロモーションは、ファンにどう思われるかがカギです。ファンから「白石さんが、なんでこんなセリフを言っているの」と思われたら元も子もありません。それよりも、スマニューがメンバーを「こんなにかわいく撮ってくれた」と、ファンの味方だと思ってもらえれば、ブランドへの信頼度が全く変わってきますから。
徳力 じゃあ、テレビCMに芸人の千鳥を起用したときも。
山崎 はい。ネタを全部見たと思います。
徳力 最終的には、西口さんからも信頼されていましたよね。評価されたと感じた瞬間は、ありましたか。
山崎 はい。僕は数字にコミットするので、それこそ広告を流した番組は全部見ますし、なぜ伸びたのかを自分で考えて伝えました。そうした姿勢は評価してくれていたと思います。
あとは、西口さんから、ご著書の『顧客起点マーケティング』のタイトルの“顧客起点”は、サム(山崎さんの愛称)の影響だよ、と言われました。
徳力 それは、すごいですね。西口さんの「山崎さんがすぐに辞めちゃう」という認識は、完全に間違っていましたね(笑)。
山崎 はい(笑)。キャラクターの軽さから、当初は数字へのコミット力に疑問を感じられたのかもしれません。

徳力 西口さんが退社された後は、山崎さんがひとりでマーケティングを担当されたんですよね。西口さんからの学びを経て、変わったと感じた面はありましたか。
山崎 おもしろいテレビCMをつくること以前に、新しい機能を提案して需要をつくるというところまで、視野に入るようになりました。
徳力 プロダクトに関わるというのは、マーケティングの本質ですよね。
山崎 そうですね。だから、西口さんと出会う前と後では、全然違うつくり方をしています。
PLを背負う覚悟で、広告出稿の目的を意識する
徳力 デジタルマーケティングとマス広告の両方を経験して、現在のマーケティングの課題だと感じているところはありますか。
山崎 広告を打つときに、最初にメディアの選択からするのはおかしいと思います。例えば、クーポンという体験をいかに届けるかを主題にした場合、本来は、テレビとデジタルそれぞれにどのような役割を持たせるのかを議論すべきです。なので、僕はテレビとデジタルをあまり分断して考えたことがないですね。
徳力 初めからメディアを分断して考えている時点で、間違っているという話ですよね。

山崎 はい、すごく違和感があります。あと、テレビの広告枠を売る仕事をしている人も、意外とテレビを見ていないと思います。
例えば、「ニュースアプリのCMだから、ニュース番組に入れましょう」と言われて入れても、全然伸びないんですよ。そこで番組をよくよく見てみたら、朝の7~9時は固めのストレートニュースが多く、視聴者は朝の忙しい時間帯に家事をしながら流し見しているので、今すぐダウンロードできないんです。
一方で、同じ朝番組でも時間帯が10時を超えると、情報バラエティのネタが増えて、視聴者の主婦も子どもを送り出した後に少しリラックスして見ていたりするので、「今すぐダウンロード」というメッセージが響くんです。
それに番組によっても、視聴態度が違います。スマートフォンを片手に流し見している番組もあれば、何ももたずに集中して見ている番組もある。だから僕は、広告メニューや出面よりも、どのような体験の中で広告が出るかをすごくチェックしますね。
徳力 なるほど。どうすれば山崎さんのような思考が身に付くのでしょうか。

山崎 単に会社から預けられた予算を使うという意識だったり、テレビCMをつくること自体が目的になったりするとダメですね。最終的には、PLをしっかり背負うという覚悟が必要なのだと思います。
徳力 山崎さんは、自分の会社をつくったわけですが、今後はどうされていくのですか。
山崎 何をするかよりは、何を大切にするか、で会社をつくってしまいました。ファンをキーワードに何にでもチャレンジするつもりです。現状はテレビCMのお問い合わせが多いですが、雇用形態はこだわりないので、ご縁あれば、またどこかの会社に入れてもらおうと思っています。
徳力 そうなのですね。次の展開を楽しみにしています。また、お話聞かせてください。今日は、ありがとうございました。