AuB代表取締役の鈴木啓太氏
AuB代表取締役の鈴木啓太氏
  • 「人間は腸が一番大事」起業のきっかけは母の教え
  • アスリートの腸内環境データで人々の健康に貢献
  • スポーツ選手700人に対して「うんち頂戴」
  • 「筋肉と腸と栄養」の関係に着目した新しいタイプのプロテイン
  • アスリートの価値を創造し、多くの人に届ける

プロサッカー選手として16年間のキャリアを積み、2015年に現役を引退した元日本代表の鈴木啓太氏。彼は引退後のセカンドキャリアとして“起業”を選択。引退と同時に、アスリートの腸内環境研究を手がけるスタートアップ「AuB(オーブ)」を設立している。

AuBは五輪代表選手やプロ野球選手、Jリーガーなどのトップアスリートの腸内細菌を研究し、そこで得た知見を商品やサービスとしてアスリートのほか、一般消費者にも還元している。昨年、応援購入サービスのMakuakeで人の健康に有効な腸内細菌を摂取できるフードテック商品の第1弾として、酪酸菌などの細菌を独自に配合した「アスリート菌ミックス」を使ったサプリメント「AuB BASE(オーブベース)」を2019年10月に販売。達成率は906%を記録し、その後の一般販売をあわせると累計販売個数は1万個を超えた。

腸内環境を整えるマルチ栄養プロテイン「AuB MAKE」
腸内環境を整えるマルチ栄養プロテイン「AuB MAKE」

そして先月、AuB BASEに続く第2弾のフードテック商品として発表されたのが「AuB MAKE(オーブメイク)」だ。AuB MAKEは“筋肉と腸と栄養の関係”に着目した腸内環境を整えるマルチ栄養プロテイン。現在、Makuakeで先行販売を実施している。

なぜ、腸内環境の研究という未知の分野に元アスリートが挑戦しようと思ったのか。この挑戦の裏にある思い、そして今に至るまでの歩みを鈴木氏が語った。

「人間は腸が一番大事」起業のきっかけは母の教え

私たちの腸内には重さにして約1.5kg、そして約1000種類ほどの菌が棲んでいると言われている。これらの菌が太りやすさ、痩せやすさ、そして筋肉の形成からメンタルや免疫力などにも関係していることが近年の研究でも明らかになっている。

それでもまだ未知な菌も多くあり、今後も腸内環境の研究が進んでいくことで、私たちのコンディションに大きく関わっている菌の存在が明らかになってくるだろう。

なぜ、私が現役引退と同時に会社を設立し、腸内環境の研究に取り組もうと思ったのか。そこには母の教えがある。幼少期の頃から、私は調理師である母から「人間は腸が一番大事」といつも言われていた。母は健康を意識した数多くのお弁当のおかずをつくってくれたり、高校生になった頃には腸内細菌のサプリメントを与えてくれたりしていた。

当時、「腸内細菌」という言葉は一般的ではなかったため、恥ずかしさから友だちには「ビタミン剤だよ」と嘘をついていた。選手時代はお腹や腸を常に意識した。お腹を温めること、例えば食事を温かい緑茶で終えることや、冷たいものを控える、腹巻をして寝るといったことのほか、海外遠征時には必ず緑茶と梅干を持っていくことを徹底。また自分の「便を見ること」で日々のコンディションを確認していた。

そんな“腸活”の力を最も実感したのが2004年3月。印象に残っているのは、アテネ五輪の最終予選UAEラウンドのアウェイ戦だ。水か食事か、原因は今もわからないままだが、選手23名中18名が下痢に見舞われる事件が発生した。

ほとんどの選手は直前までトイレにこもっており、高いパフォーマンスを発揮できるような状況ではなかった。しかし日頃の腸活のおかげか、私は体調を崩すことなく試合に挑むことができた。腸を整えることが人にとって大事だ、ということを実感した瞬間だった。

アスリートの腸内環境データで人々の健康に貢献

この経験を通じて、「お腹の調子が整うと、身体の調子が整う」「便の状態とコンディションには相関関係がある」と身をもって確信し、「アスリートが腸内環境を意識出来れば、コンディションアップにつながるのではないか」というビジネスアイデアが思い浮かんだ。

そして、現役選手として終盤を迎えていた2015年6月。トレーナーから“便を調べている”という腸の専門家を紹介してもらい、その2日後には面会することに。そこで最新の研究内容を聞き、その場で「アスリートの腸内環境を調べたら面白いのではないか」とビジネスの構想を話したところ、意気投合し、2015年10月にAuBを設立した。

今まで感覚的に良いと感じていたものを数値化できるのはアスリート、ひいては人々の健康に貢献できるのではないか。そんなことを強く思ったからだ。

また、人々の健康に貢献したいと思う理由はもうひとつある。それは、とあるサポーターの一言がきっかけだった。浦和レッドダイヤモンズの観客動員数が減っていた頃、私はサポーターに対してスタジアムに来てもらえるようお願いをした。

そんな私の言葉に対して、とあるサポーターは「Jリーグが始まって20年。当時40歳だった私も今や60歳。スタジアムまでの道のりも体にガタが来て厳しくなってきたんですよ」と言ったのだ。サポーターから返ってくる言葉として予想をしていたものとは全く異なる回答に、私は心底驚かされた。アスリートから取得したデータで人々の健康に貢献することができれば、アスリートはエンターテイメント以外の新しい価値を生み出すことができるかもしれない。そして、そんな世の中を作りたいと本気で思ったのだ。

スポーツ選手700人に対して「うんち頂戴」

AuBを設立し、まず初めに取り組んだのがアスリートの便検体を収集すること。つまり、彼らのうんちを貰うことだ。

一番最初に「うんち頂戴」と言ったのは 2016年1月。プライベートでも親交のあるラグビー選手で、ワールドカップ日本代表にも選ばれた松島幸太朗に「うんち頂戴」と言った。最初は「え?何言ってるんですか?」と不審がられたが、私は「将来のため、アスリートのためになるから」と言って、半強制的に押し切った。

その後、箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた長距離のプロランナー神野大地選手、プロ野球・東京ヤクルトスワローズの嶋基宏選手などが、続々と協力してくれて、2020年4月時点で集めた便の数はスポーツ選手700人分を越え、その検体数は1400個を突破している。

便の研究に費やした4年間は苦難の連続だった。それこそ創業当初から「サプリメントをつくって売りましょう」という声はあった。しかし、私は頑なに反対した。アスリートから貴重なデータをいただいているからこそ、きちんと研究し、その成果を商品やサービスに込める必要があると思ったからだ。

実際、AuB BASEを生み出すまでに4年もの年月がかかってしまった。ただ、時間がかかったからこそ、自信を持ってみなさんに勧められる商品が完成したと思っている。AuB BASEの発売が見えた矢先、資金が枯渇するかもしれない危機にも直面した。そんな危機を乗り越えて、AuB BASEを発表できたときは感極まる瞬間であった。

アスリート菌ミックスを使ったサプリメント「AuB BASE」
アスリート菌ミックスを使ったサプリメント「AuB BASE」

「筋肉と腸と栄養」の関係に着目した新しいタイプのプロテイン

これまで、700人を超えるアスリートの腸内環境を研究し、彼らの課題を腸と食の観点から解決するサポートを行ってきた。「増量したい」「減量したい」「お腹の調子を整えたい」「筋肉をつけたい」などアスリートの課題は明確だ。

そんな中、とあるアスリートから「筋肉がつきにくいんです」と相談された。他のアスリートにも話を聞くと、トレーニングを行い、プロテインを飲んでいるにも関わらず、「筋肉がつきにくい」という課題を抱えるアスリートが意外と多くいたのだ。

しっかりトレーニングはしているけれど、なぜ筋肉がつきにくいのかわからない──我々の研究から、この課題を解決できないかと考えるようになった。

この課題に悩む選手は食事調査や血液、尿検査をしても原因がわからなかったという。しかし、腸内環境を見てみると、筋肉のつきにくい選手は「腸内細菌の多様性(種類やバランス)」が低い傾向にあることを見出した。

そこから「菌の構成が栄養を吸収しにくい状況をつくっているのではないか」と考えはじめ、各種論文や我々の研究データを調べていくうちに、タンパク質の吸収効率を高めるためには、腸内環境を整える必要があり、またタンパク質の代謝を促すためにはビタミンなどの栄養素も摂取が必要だとわかった。

また、腸内細菌もビタミンを産生する働きがあると言われており、腸内環境を整えることは体作りにおいて有効である。

第2弾商品はマルチ栄養プロテインで行こうと考えた。開発にあたり、AuBのメンバーはお互いに熱い想いをぶつけ合った。栄養素、容量、パッケージ 、プロダクトネームもみんなで話し合い、サンプルを開発しては改良を重ねた。

そして我々が重要にしている研究データもとことん突き詰めていった。マウス実験では一般的なプロテインに比べ筋力4.9%、筋肉量3.4%が増加したのはもちろんのこと、中性脂肪は減少、腸内の多様性向上とビフィズス菌の数は20倍以上も向上するという結果を取得することにも成功した。ついに、アスリートの声と研究データに基づいた「筋肉と腸と栄養」の関係に着目した新しいタイプのプロテインAuB Makeが完成した。

そして重要なのは、これはアスリートだけに向けた商品ではない、ということだ。

プロテインと聞くと、“筋肉増強やトレーニングをしている人のためのもの”というイメージがある。ただ、一般生活者の方にも摂取してほしい理由がある。

コンビニ食や外食が多い人、朝食を抜いてしまいがちな人、そしてダイエットをしている方にも必要な栄養素だ。1日の中で毎食バランスが整った食事をすることは難しい。けれどもAuB MAKEを1日1杯摂取することで、それを補えるのであれば摂取しない理由はない。

アスリートの価値を創造し、多くの人に届ける

いま世界は大きく変化をしている。それと同時にスポーツの在り方も見直される時期に来たのではないかとも思っている。そんな時代に、私たちがどのように貢献できるのか、幾度となく考えた。当然、私たちの研究成果が現状打破に貢献できればとも思うが、やはり日頃のコンディショニングをいかに継続して取り組めるか。これこそが重要なのではないか。そう思うからこそ、もっとやらなければならないことがある、と使命感に燃える毎日である。

人は不健康になった瞬間に、健康を意識し始めるが、日頃のコンディショニングが不測の事態が起こった時にも柔軟に対応できる体をつくってくれるのだと思う。良くも悪くもいま多くの人々が自分の健康、コンディショニングについて考えるようになったと思う。

そんな中、AuBは新しい挑戦に打って出る。プロテイン市場はいま右肩上がりだ。近年では健康維持にもプロテインが効果的であるという認識が広まり、これまで以上に市場は拡大すると言われている。矢野経済研究所の調査によれば、2019年度のプロテインの市場規模は 497億7000万円で、2018年度(484億6000万円)の2.7%増となり、今後も右肩上がりの成長が予想されている。

そんなプロテイン市場に、AuBは筋肉と腸、栄養を考慮した、新しいオールインワンタイプの“マルチ栄養プロテイン”で乗り込む。

AuB MAKEというプロダクト名には、第1弾商品のAuB BASEで腸内からコンディションのベースを整えてもらい、その次に身体づくり (ボディメイク)というアクションに繋げてほしいという、想いが込められている。

アスリートの価値を創造し、多くの人に届けることができるようAuBの挑戦は続いていく。その挑戦を1人でも多くの人に体験し見届けてほしいと願っている。

鈴木啓太
元プロサッカー選手。東海大翔洋高校卒業と同時に、Jリーグ浦和レッズに加入。2015シーズンで引退後、現在はサッカーの普及に関わるとともに、自身の経験から腸内細菌の可能性に着目し、AuBを設立。「すべての人をベストコンディションに。」を目標に掲げ、アスリートの腸内細菌の研究成果より、ヘルスケア、フードテック事業を行う。現在販売中の「AuB BASE」は、累計出荷個数1万個を突破。