
- 累計約1000社が導入、クラウド化で人事評価管理をシンプルに
- コロナ禍で加速した人事領域のDXニーズを取り込む
- 「人事評価クラウド」から「タレントマネジメントシステム」へ
従業員の目標設定から人事評価に至るまでのプロセスをデジタル化する人事評価クラウド「HRBrain」が好調だ。
2017年1月のローンチから4年弱で累計約1000社に導入。特に直近1年の成長が著しい。2019年10月の資金調達時から比べても、1年で累計導入企業社数が500社近く増えている(2019年10月時点で約550社)。
IT企業を筆頭に教育機関、病院、建設、飲食、工場など顧客の事業ドメインも幅広い。紙やExcelで管理されていることが多い人事評価をデジタル化することで、現場の工数削減やデータ活用を後押ししてきた。
サービス開発元のHRBrainで代表取締役を務める堀浩輝氏は「この4年間で人事評価クラウドとしては一定の認知度を獲得できてきた」と事業への手応えを語る。これから同社が目指すのは「人事評価クラウドのHRBrainから、総合型のタレントマネジメントシステムのHRBrainへの進化」だ。
その軍資金としてHRBrainは12月4日、大型の資金調達について明らかにした。Eight Roads Ventures Japanなど複数の投資家を引受先とした10億円の第三者割当増資を実施したことに加え、3億円のデットファイナンスも決定している。
HRBrainではこれまでに約12億円を調達済み。エクイティによる累計調達額は約22億円となる。なお今回同社に出資した投資家陣は以下の通りだ。
- Eight Roads Ventures Japan
- 第一生命保険
- SMBCベンチャーキャピタル
- AGキャピタル
- SCSK
累計約1000社が導入、クラウド化で人事評価管理をシンプルに
HRBrainはサイバーエージェント出身の堀浩輝氏が2016年3月に立ち上げた。堀氏が前職時代に行っていた目標管理・人事評価の手法をクラウド化することを目指し、メンバーの目標や評価を一元管理できるサービスとして2017年1月にローンチした。
特徴の1つはさまざまな目標管理のフレームワークをテンプレート化して保有していることだ。顧客企業はMBOやOKR、1on1、Will Can Mustなど自社にフィットした目標管理手法を取り入れてすぐに運用を始められる。

そもそも社内に目標管理の仕組みが存在していなかった企業であっても、最初から「一流企業が使っているような勝ちパターン」とも言える標管理手法を導入することが可能。社内で何らかの目標管理手法を取り入れている企業であれば、従来のやり方を変えることなくクラウドに移行できる。
テンプレートの拡充には以前から力を入れており、“世の中の大抵のフォーマット”に対応できるようになったことが、多様な現場で導入された要因だという。
またHRBrainを使うことで目標・面談シートにいつでもアクセスできるようになるほか、過去のログが見やすい形でストックされていく点もポイント。デジタル化することで、時間のかかっていた集計作業などが自動化・効率化される効果もある。このあたりの機能はアナログな手法と比較した際の大きなメリットと言えるだろう。

コロナ禍で加速した人事領域のDXニーズを取り込む
堀氏の話では中小企業だけでなく、大企業においても人事評価の定番ツールは今だに「Excel」なのだそう。HRBrainの顧客でも何らかの人事評価サービスから乗り換えるケースはまれで、この領域に関しては初めて導入する外部システムになることがほとんどだという。
たとえばExcelで目標管理していた場合「目標を書いて上司に提出し、上司はそこにフィードバックを記載して再度共有する」といった形で、その都度更新や共有の手間が発生する。
結果的に目標管理自体が形骸化して「半年に1回人事評価をしないといけないから仕方なくやっている」状況に陥ってしまう企業も多いという。こうしたディフェンシブな人事評価をHRBrainでは「こなす評価」と呼んでいるそうだ。
「HRBrainを導入すると目標設定から人事評価までのプロセスが整備され、このサイクルをしっかりと回せるようになります。いつでも目標を取り出せる環境が生まれ、上司との面談のログや過去のやりとりも適切な形で蓄積されていくので、現場の業務効率化だけでなく目標達成率の向上にも繋がる。そういった点に価値を感じていただけることが多いです」(堀氏)

2020年に関しては新型コロナウイルスの影響で「人事領域のDX」が加速したことも導入企業の増加に繋がった。
リモートワークへの移行によって、多くの企業が目標設定や人事評価をオンラインで実施する必要に迫られた。それを機に従来のやり方をアップデートする企業も多く、そのためのツールとしてHRBrainが検討される機会が増加。問合せ数や商談数もコロナ禍で以前の倍近くに増えたという。
「リモート環境においていかに目標管理や人事評価を実施していくのか。働き方の変化に伴って目標管理や人事評価の手法も変えていくことが求められた結果、HRBrainのような仕組みが『マストハブ』なものに近づいた印象です」(堀氏)
現在は人事評価にまつわる機能に加え、後述する人事データベースや分析機能なども揃えたSaaSプロダクトとして、ミニマムで月額6万9800円から提供している。
カスタマーサクセス担当者による手厚いオンボーディングも特徴で、継続率の高さにも繋がっているとのこと。特に従業員が100名を超えるような規模感の企業だとHRBrainの価値を感じてもらいやすいという(一部で解約に至る企業も存在するが、その大部分は数十名規模の中小企業であり、価格面などを踏まえてExcelやGoogleのスプレッドシードを選ぶことが多いのだそう)。
「人事評価クラウド」から「タレントマネジメントシステム」へ
冒頭でも触れた通り、今回の資金調達はこの勢いをさらに加速してHRBrainの事業を拡大させることが目的。特にプロダクトの機能面では昨年の調達以降取り組んできた「タレントマネジメントシステムへの進化」に向けて投資をしていく計画だ。
堀氏によると以前より大手企業を中心とした既存顧客から「HRBrainを人事データベースやパフォーマンス分析に使いたい」という声が多く寄せられていたそう。
それに応える形で従業員名簿のような「従業員プロフィール」、組織構成・メンバーの顔ぶれをパッと把握できる「組織図ツリー」、蓄積した人材データを活用した「組織分析」といった新機能を次々と実装してきた。


同様の機能を提供するタレントマネジメントシステムはすでに存在するものの、HRBrainは各メンバーの人事評価やパフォーマンスデータと連動している点が特徴だ。
たとえば勤務時間と評価スコアを照らし合わせながら生産性を可視化したり、メンバーの入社経路と1年後のパフォーマンスデータを用いて「どの採用チャネルを強化するべきか」を分析したりといったことが可能。人事評価のデータを軸に、経営者の主観ではなく“データドリブン”に適切な給与をシミュレーションできる仕組みを取り入れていく予定もある。
タレントマネジメントという概念は認識しているけれど、実際に何から始めるべきなのかわからない。やりたいことがあっても、必要なデータが一元化されておらず実現には膨大な工数がかかってしまう──。
そういった課題を抱える顧客企業の担当者が“数クリック”で必要なデータを参照できたり、役員会に持っていく資料を簡単に作れたりするような機能拡充を進めていく計画だ。
「働き方も変化していく中で、長い目で見れば『人材を管理する』というよりも『社員の自走力を引き出す』ことが求められる時代になると考えています。いかに自立稼働型の組織を作っていけるか。そのカギとなる目標設定・管理に関する機能を軸に、組織の成長を全面的に後押しする『組織成長クラウド』を目指していきます」(堀氏)
編集部より:初出時、投資家としてジェネシアベンチャーズ、スパークス・グループ、サイバーエージェント、BEENEXT、JA三井リース、みずほキャピタル、本田圭佑氏、三谷産業、キャナルベンチャーズの名前がありましたが、これは前回の資金調達時の投資家でした。お詫びして訂正いたします(2020年12月4日10時50分)