SENRI代表の永井健太郎氏
SENRI代表の永井健太郎氏 すべての画像提供:SENRI
  • 「教育で得たスキルを活かす場がない」課題感から起業
  • 「サポート体制の構築」「大手企業の巻き込み」を徹底
  • 今のアフリカに必要なのは、データベースの構築

地球に残された最後の巨大市場“ラストフロンティア”──そう言われているのがアフリカだ。ここ10年ほどで情報通信産業が急速に発展した国々は、今や飢餓・貧困だけでは語れない。

世界各国におけるデジタルトレンドの統計結果を集計したデータブック「DIGITAL 2019」によれば、アフリカの総人口である約13億400万人に対して、モバイル加入者数は約10億490万人(人口比80%)、インターネットユーザーが約4億7300万人(普及率36%)となっている。こうした変化に伴い、東アフリカに位置するケニアでは携帯電話を使った送金システム「M-PESA」が普及。また、スタートアップも続々と生まれてきている。

2015年、アフリカのスタートアップへの投資件数は55件だったが、2019年には250件まで増加。調達した資金総額も2019年には20億2000万ドルとなり、2015年から4年連続で増えている。(パーテック・パートナーズ調べ

そうした中、アフリカやアジアの製造・卸売業向けに営業・受発注管理プラットフォーム「SENRI」を展開しているのが、SENRIだ。

SENRIの創業は2015年8月。当時はアフリカインキュベーターという社名で、ケニアやナイジェリア、ウガンダで発注管理プラットフォームのベータ版を展開していた。約5年の時を経て、2020年10月には新たにWhatsAppを活用したモバイルプラットフォーム「SENRI Direct Order」の提供を開始。アフリカやアジア現地の小売店が消費財メーカーなどへ商品の直接発注をできるようにした。同時に社名をSENRIに変更している。

SENRIのサービス概要図
SENRIのサービス概要図

SENRI Direct Orderは小売店に対して、ブランドやメーカーからプロモーション情報が受け取れるメーカー別の発注サイトへ誘導するほか、WhatsAppを活用した発注業務機能、チャットボットによる配送状況の通知機能などを提供する。

SENRIは2020年10月時点で、アフリカを中心とした計5カ国で累計150社以上の導入実績があり、累計総取引額は約12億円、月間アクティブユーザー数は前年に比べて2.7倍ペースで推移するなど右肩上がりで成長を続けている。

「アフリカの成長に寄与したい」と考えていたというSENRI代表の永井健太郎氏。実はSENRIを起業する前からアフリカでビジネスを展開してきた。なぜアフリカでビジネスをしようと思ったのか、またそのビジネスとして小売業向け受注管理サービスを選んだ理由について永井氏に聞いた。

「教育で得たスキルを活かす場がない」課題感から起業

永井氏は新卒でJICA(国際協力機構)へ入構。アフリカやアジアなどの発展途上国で民間セクター開発・インフラ開発の仕事に取り組んでいた。その中でも、永井氏が多く担当していたのが、アフリカでの教育分野だった。

「教育は人が社会で生きていくために欠かせないものです。しかし、アフリカのような発展途上国ではきちんと教育を受けても、社会で活かす場が少なすぎる。職業訓練校の卒業生で、そのスキルを活かしている人は1割程度だったりします」(永井氏)

そうした背景から永井氏は「教育だけでなく、教育で得たスキルを活かせる仕事があることも大事だ」と考え、2015年にアフリカインキュベーター(現:SENRI)を起業。しかし、最初から小売業者向けサービスを構想していたわけではない。「何をすべきか」を模索するなか、一時はアフリカでコンサルティング業もしていたと永井氏は語る。

「アフリカで一番多い課題は何かを洗い出すため、ワークショップを開催しました。そこで多く寄せられていたのが、営業に関する悩みだったんです」(永井氏)

小売店の多いアフリカで、大手流通業者は1店舗ずつを回り、ボロボロの紙に発注内容や訪問記録を書いていたという。

「各メーカーで100個ほどある発注内容を手書きで管理するため、絶対にミスが発生してしまいます。なおかつ、営業担当が本社に戻るのは夕方ごろで、そこからまた対応が発生し、残業も増える。そんな悪循環をなくしたい思いから、現在のビジネスアイデアを着想しました」(永井氏)

そして2015年8月、SENRIはベータ版として産声を上げる。アプリとウェブを組み合わせ、これまでは紙だった発注内容のデジタル化を支援。チャットボットで配送状況を通知できるほか、小売店側からの発注業務にも対応した。最初はウガンダで事業を立ち上げ、その後ナイジェリアやケニアへと事業エリアを広げている。

アフリカで営業活動に勤しむ永井氏
アフリカで営業活動に勤しむ永井氏

「アフリカでは、国のサイズ感によって市場規模が異なります。例えば、ナイジェリアの人口は約2億人ですが、ウガンダやケニアは4000万〜5000万人です。また、同じナイジェリアでも、首都(内陸のアブジャ)と経済の中心地(沿岸部のラゴス等)は違います。アフリカの市場規模は変化も多く、予測が難しい。僕らも2018年まではケニアで事業を展開してきましたが、ナイジェリアの市場規模が拡大するとともに、2020年からナイジェリアを中心に事業を展開しています」(永井氏)

「サポート体制の構築」「大手企業の巻き込み」を徹底

前述のとおりSENRIは現在、大手企業を含む累計150社以上が導入、取引額も12億円を越えている。結果として、もともと課題だった営業マンの働き方も改善。約2000人の残業をゼロにした。この5年で、どうやってここまで成長させることができたのか。永井氏によると、その要因は「ITの知見がないユーザーへのサポート体制」にあるという。

「アフリカでのスマホ普及率は高いと言えど、通信環境が整っているわけではありません。SENRIをリリースした2015年当時は今以上にインターネットがつながりにくかったですし、ネット広告よりもコールドコールのほうが効果的でした。当然ながら、サブスクリプションのような考え方もなく、営業先では『じゃあ、サーバーにシステムを入れてくれ』という人がほとんど。そこで、ITの知見がない人でもすぐに理解できるサポート体制を徹底しました。それが、今の数字につながっていると思います」(永井氏)

展示会で直接サービスの説明も行う
展示会で直接サービスの説明も行う

それと同時に、あまりインターネットに慣れていない人でも、すぐ使い始められるUI(ユーザー・インターフェース)を実装。さらに、SAPなどのERP(統合基幹システム)との接続のほか、現地で普及しつつあるケニアのモバイル送金サービス「M-PESA」やチャットアプリの「WhatsFApp」、Googleの各種ツールなどともAPIを連携させた。

営業担当者と小売業者の間で交わされる受発注のやりとりも、トラッキングやモニタリングができるようにしている。特筆すべきは、SENRIのベータ版時代からロレアルやホンダ、味の素などの大手企業が導入していることだ。

「スタート当初から、なるべく早い段階で大手企業を巻き込みたいと考えていました。アフリカやアジアで何十年もかけて流通網をつくってきた企業なので、彼らにも課題はあるものの膨大な知見があります。そんな人たちと一緒に流通のデジタル化を進めたほうが効率的ですし、何より、彼らの歴史を直に聞けるのは役得です」(永井氏)

10月には新プロダクトのSENRI Direct OrderをリリースしたSENRI。今後はエジプト・ベトナム・フィリピンなどアフリカ・アジアの5カ国での事業展開を拡大し、2023年末をめどに計10カ国でSENRIとSENRI Direct Orderを提供していく予定だという。

今のアフリカに必要なのは、データベースの構築

冒頭のとおり、アフリカの経済状況は急速に発展し続けている。SENRI以前からアフリカで事業を続けてきた永井氏は今、何を感じているのか。

「今のアフリカは、40〜50年前の日本です。日本における小売業の歴史は、1960年にGMS(総合スーパー)、1970年にはコンビニが登場。1980年代にはコンビニが3万店舗を突破し、チェーン化とともにPOSレジの登場で商品販売情報のデータベース化が一気に進みました。今のアフリカはGMSやコンビニが登場し、POSレジが普及し始めたタイミングです。ところが、アフリカの場合は小売業者が多いこともあり、POSレジを導入しているものの、データ統合までできていない」

「要するに、POSレジの最大のメリットを享受できていないのです。SENRIは(データの集約によって)そのポジションを狙いたい。将来的にはデータ管理だけでなく、需要予測などもでできるようにしたいと考えています」(永井氏)

SENRIの将来的なサービスの構想
SENRIの将来的なサービスの構想

では、競合サービスの存在はどうだろうか。永井氏は「SENRIの競合には、アメリカやインド発の海外サービスと、ローカルで展開しているサービスの2種類がある」という。

「前者とは『きめ細かいサポート体制』で、後者には『システムの優位性』で差をつけています。ローカルの競合サービスはどんどん技術力を上げてきているので、この優位性がどこまで続くかはわかりません。我々としては今、経済成長が著しいナイジェリアで営業スタッフの採用を拡大しています。現在の優位性をさらに高めるために、現地メンバーと良いチームを作ろうとしているところです」(永井氏)

チームビルディングにおいては「各国民性の違いで頭を抱えるシーンも少なくない」と永井氏は笑いながら、こう語ってくれた。

「ひと口に『アフリカ』と言えど、国民性は180度違います。例えば、ナイジェリア人は思ったことを120%主張するのに対して、ケニア人は60%しか主張しないようなところがあります。それでも、彼らにとって『働く、イコール労働力の1つとしてカウントされる』と捉えられがちだったところを、SENRIでは新たなスキルを教える機会を増やし、自己実現につながるようにしました。そのことは、社内でとても評価されています」(永井氏)

新卒以来、ずっとアフリカと関わり続けてきた永井氏。今後も引き続き、「アフリカの成長に寄与していきたい」と語る。

「アフリカが成長していくには、各企業を強くするべき。そこで必要なサポートを、SENRIでできればと思っています。そういう意味では、フォーカスの軸は昔から変わっていません」(永井氏)