オンライン上で最適な印刷会社を繋ぐ、パッケージ印刷プラットフォーム「canal」
オンライン上で最適な印刷会社を繋ぐ、パッケージ印刷プラットフォーム「canal」 すべての画像提供 : re
  • 最適な印刷会社とのマッチングで低コスト・短納期を実現
  • カギは「工場のネックワーク化と受発注プロセスのオンライン化」
  • D2C事業者のパッケージ制作を後押し、新機能や新サービスも計画

オリジナルの商品に強いこだわりを持つメーカーにとって、商品を包む“パッケージ”はブランドの世界観を反映する重要な存在だ。

パッケージのデザインや素材感、使い勝手の良さはブランドそのもののイメージにも影響を与える。だからこそ「自分たちが求めるようなパッケージを適切な価格帯で制作してくれるパートナー工場」を探すことは、メーカーにとって大きなミッションの1つと言えるだろう。

2018年創業のreが開発するのは、まさにブランドのパッケージ制作における課題を解決するプロダクトだ。パッケージ印刷プラットフォーム「canal(カナル)」を通じて全国の提携印刷会社をネットワーク化し、発注企業に最適な工場をオンライン上でマッチングする仕組みを作った。

特に「限られた予算の中で、こだわりのパッケージを実現したい」というD2CブランドやEC事業者を中心に利用が進み、2020年3月のリリースから約350社に活用されているという。

reでは今後さらなる事業拡大に向けて組織体制の強化や機能拡張を進めていく方針。そのための資金としてEast Venturesおよび赤坂優氏を含む複数の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約5600万円の資金調達も実施した。

最適な印刷会社とのマッチングで低コスト・短納期を実現

発注側となるD2C・EC事業者から見たcanalはとてもシンプルなパッケージ発注サービスだ。

サイトにはダンボールや平袋、紙器など複数のパッケージ商品が並び、ユーザーは“EC感覚”で欲しいものを探していく。canalでは各商品ごとに注文数を入力すると見積もり料金がすぐに表示される仕様になっているので、納得できた場合には購入画面に進む。あとはデザインデータを入稿して発注すれば完了だ。

ECサイト感覚で欲しい梱包資材を決定。発注数や細かい要件を入力すると、その場で見積価格が表示される
ECサイト感覚で欲しい梱包資材を決定。発注数や細かい要件を入力すると、その場で見積価格が表示される

ここまでの説明では単なる「パッケージのECサイト」と思えるかもしれないが、canalの強みは印刷会社のネットワークを作っている点にある。ユーザーから発注が入ると、canalは提携会社の保有設備や得意領域、稼働状況などを把握した上で、発注者に適した工場に注文を繋ぐ。

加えてサービス上ですぐに見積もりを確認できる仕組みも大きい。従来であれば見積もりの依頼と確認、デザインの入稿などは各印刷会社と電話やFAXを使って調整せねばならず、実際に商品が手に届くまでに数ケ月かかるようなこともあった。

canalであれば受発注における一連のプロセスが即日で完了。平均20%のコストダウンも実現している。この使い勝手の良さからアパレル、健康食品、食品、アクセサリー、ペットフード、雑貨など350社以上のD2C・EC事業者が活用。提携印刷会社も約30社まで広がっている。

canalの構造。D2C事業者のパッケージに関連する課題を解決するスタートアップとしては米国のLumiなども有名だ
canalの構造。D2Cブランドのパッケージに関連する課題を解決するスタートアップとしては米国のLumiなど、海外でも複数のプレイヤーが存在する

カギは「工場のネックワーク化と受発注プロセスのオンライン化」

通常、事業者がパッケージの発注先を探す際は他社からの紹介か自力で調べるか、どちらかの方法が取られる。

たとえば商品のOEM先や知り合いに工場を紹介してもらえる場合には時間を短縮できるが、当然“その工場が対応できる範囲の中で”という制約が発生する。箱のサイズやデザインなどこだわりを突き詰めると、結果的に自分自身でオーダーに応えてくれる工場を探さざるを得ないことも多い。

ただそこには膨大な探索コストに加え、交渉や監督のコストがかかる。それを「工場のネットワーク化と受発注プロセスのオンライン化」によって解決しようというのがcanalのアイデアだ。

「canalが実現しているのは、パッケージの受発注における取引コストと価格コストの削減です。そもそも、自社が求めるパッケージを制作できる工場を探すのはものすごく大変。話を聞いてくれる工場が見つかっても、情報の非対称性が大きくどのように交渉すればいいのかがわからない人も多いのです。仮に条件が折り合えば、今度は実際に現物ができるまで監督するコストもかかる。canalを単なるマッチングサービスにしなかったのは一連の負担が大きく、一気通貫でサポートできないと発注者にとっては意味がないと考えたからです」(re代表取締役の福村圭祐氏)

canalを活用することが取引コストと価格コストの削減に繋がるのは、既存のパッケージ印刷業界の構造も大きく影響している。

福村氏の話ではパッケージ印刷業界は多重下請け構造になっていて、多い場合には6次・7次下請けまで及ぶ場合もあるそう。パッケージを発注した印刷会社が「ロットや自社工場の設備を踏まえてさらに別の印刷会社に依頼する」ことも珍しくなく、各印刷会社ごとにマージンを上乗せしているため、末端価格が30%以上高くなることもある。

canalは発注者はもちろん、生産者側となる印刷会社の課題解決にも貢献している
canalは発注者はもちろん、生産者側となる印刷会社の課題解決にも貢献している

canalは最適な印刷会社に直接発注することで、余計なマージンを取り除く。同時に発注内容を基に“得意な印刷会社”とマッチングすることで、無駄な時間やコストを生まない。上述したとおり、印刷会社とのやりとりもオンライン化されているため、スピーディーに進む。

この仕組みによって、高品質なオリジナルパッケージを低コスト・短期間で制作できるのが同サービスの特徴だ。

D2C事業者のパッケージ制作を後押し、新機能や新サービスも計画

canalを運営するreのメンバー。中央が代表取締役の福村圭祐氏
canalを運営するreのメンバー。中央が代表取締役の福村圭祐氏

3月のローンチ以降、canalでは「BASE」や「カラーミーショップ」、「futureshop」など各ECプラットフォームと積極的にサービス提携を実施。並行して画像をアップロードするだけで簡単にオリジナルパッケージをデザインできる「オンラインカンタン入稿」など、機能拡張も進めながら事業を拡大してきた。

当初メインターゲットとして考えていたのは個人や小規模なEC事業者たち。ただ実際にサービスを提供してみると「(個人の事業者には)商品を送ったり、守ったりするためのものとしてパッケージを必要としている人が多い」ことがわかった。

単純に機能面や安さだけを追い求めるなら、Amazonや他の通販サイトでも一般的な梱包資材を調達できる。そうではなく、D2Cブランドのようにオリジナルのパッケージにこだわりを持ちながらも、既存の方法に大きな課題を感じている事業者にこそcanalは必要とされるのではないか──。そのように考え、サービスの方向性も少しずつ変えてきた。

D2C事業者をメインターゲットにしたことで、平均の案件単価もローンチ直後に比べると10倍ほどに増えたという。今では月に数万点の商品をcanal上で発注しているような顧客もいる。

reでは今後発注体験をさらに便利にするような機能追加のほか、現在は人力で対応している部分も多い「裏側のオペレーションの自動化」などを進めていく計画。パッケージの受発注と関連する新サービスの開発なども見据えている。