
- 好きが高じて“キャッシュレス決済カレー店”で起業
- 有料会員数十万人の教育アプリから、カレーの世界に
- カレーの世界、誘ったのはDeNA共同創業者
- 年内数店舗の拡大、資金調達も検討
- テクノロジーでコストを下げて、“毎日食べられる”を実現
好きが高じて“キャッシュレス決済カレー店”で起業
もはや日本の国民食と言っても過言ではない「カレー」。そのカレー作りに魅了され、ついには仲間とともに“カレー起業”をした人物がいる。FOODCODE代表取締役の西山亮介氏だ。FOODCODEは今年8月の創業。「TOKYO MIX CURRY」の名称で都内に3店舗のカレー店を展開。専用のキャッシュレス決済アプリも独自に開発している。
FOODCODEでは、8月23日に東京・根津にキッチン機能を備えた「TOKYO MIX CURRY 根津本店」をグランドオープン。同じタイミングで、キッチンカーを使った東京・永田町店をオープン。さらに9月には、パンケーキ店の間借りで、東京・原宿店をオープンした。

TOKYO MIX CURRYの最大の特徴は、すべての注文を専用のアプリで行うことにある。店頭にはレジ機能を一切置いていない。
カレーを注文するには、アプリ上で購入したい店舗を選び、カレーの辛さや付け合わせのコールスローサラダの量、追加のトッピングなどを選択。来店時間を指定した上で、あらかじめ登録したクレジットカードで事前決済をする。指定した時間になればアプリで「調理完了」の通知が届くので、店舗で商品を受け取るという仕組みだ。根津店ではイートイン、テイクアウトが選べるが、永田町店、原宿店はテイクアウトにのみ対応する。10月には消費税の増税が予定されているが、テイクアウトであれば軽減税率の対象となり、税率8%で据え置きのままとなる。
価格はルーとライスのみの「THE シンプル」が税抜370円からという設定。辛さやライスの量、トッピングの数によって価格が変わる。流行の糖質制限ダイエットを意識して、ライス抜き・コールスローサラダ大盛りの「ロカボなトマトチキン」(同770円)といったメニューも用意する。
ベースとなるカレールーはすべてのメニューで同じものを使用する。筆者が食べたところ、酸味とスパイスの効いた爽やかな辛さが特徴的だった。
西山氏いわく、トマトとタマネギのうまみと柑橘類の酸味、動物と魚介でとったスープ、カルダモンやクミンをはじめとしたスパイスをふんだんに使っているのがポイントだそうだ。一方で小麦粉や添加物は使用せず、塩と油分も極力控えめにして、「毎日食べても胃もたれしないカレー」(西山氏)を目指した。
有料会員数十万人の教育アプリから、カレーの世界に
FOODCODEの代表を務める西山氏は1981年生まれの38歳。新卒で入社した企業では、スマートフォンを活用した教育アプリの事業責任者を務めた。社内の新規事業提案制度で教育アプリを提案し、有料会員数で数十万人という規模まで成長をけん引した。
だが、もう一度、ゼロイチ、つまり新しい事業を初めから立ち上げたいという思いから起業を考えていたのだという。そのテーマに選んだのがカレーだった。
「大学時代は建築を学んでいました。それもあって、ずっといつかは衣・食・住に関わるものを提供したいと思っていました。去年くらいから『本気の遊び』としてカレーを作り、真剣に追求していったんです」
「実際にカレーを作って、食べてもらって、美味しい!と言ってもらって、ワクワクする感情が高ぶる。そんなカレーに人生をかけてみたいと考えているうちに起業を決めていました。個人的にはこの1年で50kgのダイエットに成功したんですが、本当に大変でした。世の中にヘルシーな食品はあります。でもそういった食品の多くは値段が高い。健康のために、おいしくてヘルシーで、さらに安いという食品があまりないのは『不』だと思っていたんです」(西山氏)
カレーの世界、誘ったのはDeNA共同創業者
西山氏をカレーの世界に引き込んだのが、DeNAの共同創業者であり、教育スタートアップ・Quipperを創業し、売却まで導いた渡辺雅之氏だ。渡辺氏は現在、FOODCODEの取締役を務めている。

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イギリス・ロンドンのカレー店で料理修行をした経験もある渡辺氏と、仕事を通じて知り合った西山氏。渡辺氏とその友人らが集まる“カレー仲間”の会に加わり、業務時間外でおいしいカレー作りを研究していた。
カレー仲間の中には、料理ユニット「東京カリ~番長」を立ち上げ、現在はカレー用スパイスのサブスクリプションサービス「AIR SPICE」を手がける水野仁輔氏をはじめとした料理界の有名人もいるという。この仲間たちと試行錯誤して作ったカレーがTOKYO MIX CURRYで提供するカレーのベースになった。
年内数店舗の拡大、資金調達も検討
そこから西山氏は会社を辞めて起業を決意。アプリの開発を進めつつ、カレー店を準備してきた。
ヒントになったのは、ファーストフードチェーンの「サブウェイ」だという。サブウェイは注文時に、自分好みに野菜やハムなどのトッピングを選んでサンドイッチを作ることができる。この“自分好みの商品を作る”という体験を、キャッシュレス決済の仕組みを導入したアプリで実現しようとした。
「カレーは人によって好みもさまざまです。量も辛さもトッピングも好みが違う。それを選べるようにしました。特に若い世代の人たちは、ブランド物よりもDIY(Do It Yourself)、つまり『自分で作る』ということの楽しさを知っています。そうであれば、店頭で注文するよりも、アプリで好きなように注文できたほうがいいと思ったんです」(西山氏)

店舗に関しては、「まだ手探り」(西山氏)ということだが、セントラルキッチンを併設する根津店を除き、キッチンカーや営業時間外の飲食店を利用する“間借り”などの形態で展開している。飲食業の課題の1つでもある店舗への初期投資を抑えつつ、一気に3店舗まで拡大した。
ビジネス的な目標は現時点では非公開としたが、年内にもう数店舗の出店を準備するほか、ベンチャーキャピタルなど外部からの資金調達も計画しているという。
「普通の飲食店は営業利益率が10%弱だといわれます。今は本部費が重い状況ですが、今後アプリのレバレッジが効いてくれば、十分に回収できます。道楽ではなくビジネス。僕自身もほぼ全財産をつぎ込んでいますし、事業として成功するイメージがあるからこその挑戦です」(西山氏)
テクノロジーでコストを下げて、“毎日食べられる”を実現
好きなカレーをビジネスにするからこそ、味にもこだわる。だがそれ以上にこだわったのは、“毎日でも食べてもらえる”ための仕掛けをアプリに実装することだった。アプリはインストールしてクレジットカードを登録するという導入のハードルこそ高いが、ひとたび導入すれば、プッシュ通知機能などを活用して、再訪問の機会を積極的に作ることができる。そのため、初回割引などのキャンペーンを使ってまずは一度使ってもらうための施策を積極的に行う。
アプリ導入のメリットは店舗側にもある。事前に注文の詳細が分かるため、少人数かつ経験が少ないスタッフでも店舗の運営が容易なのだという。また将来的には、注文データから需給予測をしたり、効果的なマーケティング施策を検討したりすることも視野に入れる。
「コストパフォーマンスよくカレーを食べてほしいと思っています。だから、キャッシュレス決済などのテクノロジーでコストを下げています。お客さんが自分で注文してくれるので、オペレーションも回しやすいし、2回目以降の注文は非常に簡単です。キャンペーンの告知などもしやすいのでリテンションも高められます」(西山氏)
オペレーションが楽になることで、店舗スタッフが顧客とのコミュニケーションをとる余裕もできる。筆者はグランドオープン直前、試験営業中の根津本店でカレーを注文したのだが、店頭にいたスタッフがカレーの作り方やスパイスの使い方などを楽しそうに説明してくれたのが印象的だった。
「最初は仲間内での『おいしいね』というものを追いかけてきました。ですが今は、魂を込めたビジネスとしてカレーをやっています。副業でもなく、本気。だからこその起業。そういうことこそが今は楽しいんです」
アプリやテクノロジーを駆使した、“カレー起業家”の挑戦は始まったばかりだ。
(ダイヤモンド編集部 副編集長 岩本有平)