Photo:NurPhoto/Getty Images
Photo:NurPhoto/Getty Images
  • 短尺動画アップ機能のリールと、TikTokの違いは「音楽とAR」
  • アプリ画面をリニューアルした狙い
  • 「消えるメッセージモード」を提供し始めた理由

スマートフォンで撮影したお気に入りの写真を共有するSNS──そんなコンセプトのもと、2010年に産声をあげたのが「Instagram(インスタグラム)」だ。今年で誕生から10年。いまや全世界の月間アクティブアカウント数は10億件(日本の月間アクティブアカウント数は3300万件)を超えるなど、多くの人の生活に欠かせないツールとなっている。

Instagram製品部門責任者のヴィシャル・シャー氏
Instagram製品部門責任者のヴィシャル・シャー氏

日本では2017年にユーキャンの「新語・流行語大賞」で“インスタ映え”が年間大賞を獲得し、脚光を浴びたInstagram。この10年で24時間で投稿が自動消滅する「Instagramストーリーズ」や、商品の購入ページ(ECサイト)に誘導できるショッピング機能どが追加されたことで個人の自己表現の場だけでなく、企業のマーケティング活動の場になるなどビジネスの裾野を広げている。

その一方で、短尺動画共有アプリの「TikTok(ティックトック)」が急成長を遂げているほか、最近ではTwitterが24時間で投稿が消える新機能「フリート」を導入するなど、Instagramを取り巻く環境は競争が激化しつつある。

これまでの歩みを踏まえた上で、今後Instagramはどのようになっていくのか。製品部門責任者であるヴィシャル・シャー氏に話を聞いた。

短尺動画アップ機能のリールと、TikTokの違いは「音楽とAR」

──この10年を振り返ってみて、手応えはいかがですか?

Instagramは正方形の写真を共有するサービスとしてスタートし、この10年間でストーリーズや最大30秒の短尺動画を作成・発見できる新機能「リール」、ショッピングなどの機能を増やして、進化を遂げてきました。ただ、大事にしている価値観は変えていません。いかにインスピレーションを与えられるか、表現の場として存在するプラットフォームであり続けるか、は今も大事にしている価値観です。

だからこそ、月間10億ものアカウントが使うサービスになったんだと思います。個人的にはとても誇りに思える10年間です。

──今年の8月からリールを開始しましたが、3カ月ほど経って反応はいかがですか?

公表できる具体的な数値はまだありませんが、この3カ月で活発に使われるようになっています。これは専用のタブを用意したのが良かったですね。リールから次世代のユニークなクリエイターがたくさん生まれていって欲しいなと思っています。

──すでに日本ではTikTokが人気を博していますが、TikTokとの違いは?

TikTokも素晴らしい短尺動画の共有アプリだと思っています。大きな違いは音楽やARカメラエフェクトなどのクリエイティブツールですね。最初から使用できるARカメラエフェクトの種類も多く、音楽も大手の音楽会社と提携しているので利用できる楽曲がたくさんあります。これらのクリエイティブツールを使って、手軽に動画を撮影・編集し、最大30秒の短尺動画を作成できるのはリールの強みだと思っています。

ストーリーズも2016年に提供を開始したのですが、今では「Instagramと言えばストーリーズ」と思ってもらえるくらいにネイティブな機能になっています。今後、リールもストーリーズと似たような感じになっていくのではないか、と思っているところです。

また最近、縦型の長尺動画を楽しめる「IGTV」に広告を掲載して収益をクリエイターに分配する「IGTV広告」(米国内でテスト中)や、ライブ中に視聴者がクリエイターに投げ銭できる「バッジ機能」のテストを国内でも開始したように、Instgaramは個人のクリエイターが収益を生むためのサポートもしていきたいと思っています。まだIGTVやライブ配信などに限定されていますが、今後はリールにも展開していきたいと考えています。

──Instagramが考えるクリエイターの定義は何ですか?

表現する人は誰しもがクリエイターという考えもありますが、私たちが考えるクリエイターはコンテンツをつくることで生計を立てている人たちです。そういう人たちがどのように発見されて、成長していくか。そのためにできるサポートを常に考えています。

今までクリエイターはInstagramでのタイアップ投稿で収益をあげていました。言ってみれば、Instagramの外で関係性をつくって、それを収益につなげていたんです。ただ、Instagramの中でも収益をあげられるようにすることで次世代のクリエイターが生まれ、さらにInstgaram上でキャリアが積めるようにしていけたら、と考えています。

──Twitterがストーリーズと似たような機能「フリート」の提供を開始しました。各SNSが似たような機能を提供するようになっていますが、それについてはいかがですか?

サービスがどこで使われているかは各プラットフォームによって異なるので、単純な製品の機能では比べられません。例えば、自分の好きなこと、関心のあることを“ビジュアルメイン”で共有したいときはInstgaramを選ぶと思います。一方、Twitterは少し異なっていて、テキストベースで自分が思っていることを話す場所だと思うんです。そのため、コンテンツの見せ方もInstagramとは違いますし、リーチする層も違います。

Instgaramは自分の友人や家族、好きなタレントなどと繋がっているのに対して、Twitterは記者やオピニオンリーダーに繋がりやすいなど、違う性質を持っています。ストーリーズとフリートも使うシーンや用途が異なるので、競合の意識はありません。製品の機能はプラットフォームが進化していく過程で形を変えていくものなので、決して同じものではないんです。

──Instgaramのダイレクト機能とFacebook Messengerも統合されました。この狙いは?

FacebookとInstgaramにはそれぞれメッセージ機能がありますが、コミュニケーションは、送信相手がどのプラットフォームをメインで使っているかによって変えていると思います。もちろん“統合しない”選択肢も利用者には与えていますが、この統合は“電話番号”に置き換えると分かりやすいでしょう。

例えば、誰かに電話するときには、どのプロパイダーだったかをわざわざ気にせず電話すると思います。これはメッセージを送るときも同じで、いちいちどこのプラットフォームにいる人かを考えずにコンタクトを取れる方が、使い勝手は良いと思い、Instgaramのダイレクト機能とFacebook Messengerを統合しました。

アプリ画面をリニューアルした狙い

今年の11月にInstagramはアプリ画面のデザインを一部変更した
今年の11月にInstagramはアプリ画面のデザインを一部変更した

──今年の11月にはアプリ画面のデザインを一部変更し、リールとInstagramショップの専用タブを追加しています。その狙いは?

Instgaramが何かを大きく変化させるときは、利用者のニーズなどをきちんと把握してから“変える”意思決定をします。リールとInstagramショップの専用タブを追加したのも、それぞれ利用者のニーズがあったからです。

例えばリール登場以前もInstagramに短尺の動画をアップする傾向はあったのですが、短尺の動画を作成するのは意外と大変でクリエイティブツールもアップデートされていませんでした。そこにリールを提供することで、誰もが新たに短尺の動画をつくれるようになり、多くの人に見てもらえるようになりました。

一方で、エンターテイメントは作る側だけでなく、“見る側”のことを考えないといけません。ひとつのタブをタップすると動画が出てきて、音も出る。いろんな動画を見られる空間はきちんと用意してあげないと見る側の使い勝手も悪いと思い、専用タブをつくりました。

Instagramショップも同じです。もともと、Instgaramには自分がフォローしているブランドの投稿を見て、実際に商品を購入している人も多くいました。ただ、「特定のブランドの商品を買いたい」という明確な購買ニーズを持った利用者だけでなく、「何となく買い物をしたい」という利用者の傾向もあったんです。それで何となくショッピングを楽しみたい人たちの体験をサポートするために、新しく専用のタブをつくりました。

──特に今年はコロナ禍でInstagramショップは重要な役割を果たしたと思います。コマース領域におけるInstagramの強みはなんでしょうか?

コマース領域におけるInstagramの強みは「商品を発見すること」にあります。多くのEコマースサイトには「こういう製品が買いたい」と思って訪れると思います。それがInstagramなら、投稿された写真などを見ながら、新しい商品を発見することができる。歩きながら買い物を楽しむ“ウィンドウショッピング”の行動をオフラインからオンラインに持ってこられたことがInstagramショップのユニークな点です。

また、Instagramショップは最終的な購買だけを必ずしも目標にしているわけではありません。「どうやってショッピングという行為のエンゲージメントを高めるか」を何よりも重視しています。もちろん、ひとりでもショッピングを楽しめますが、複数の友人との会話などソーシャル上でのコミュニケーションを進化させることで、ソーシャル上でのショッピング体験も進化させていけたらと思っています。

「消えるメッセージモード」を提供し始めた理由

──ライブ配信機能もコロナ禍で活発に使われた印象です。

今年3月には前月比でライブ配信の視聴者の割合は70%上昇しました。例えば、ロックダウン(都市封鎖)中だったからこそ起きた出来事のひとつに、プロテニスプレーヤーのロジャー・フェデラー氏とラファエル・ナダル氏の2人がライブ配信で話をすることがあったんです。こうした出来事はロックダウンの状況下で、ライブ機能があったから出来たことだと思います。

ライブ配信は今後も強化していきたいと思っていて、一度にライブ配信できる人数を4人まで増やしていきたいと思っています。

──また、最近では「消えるメッセージモード」や「キーワード検索」などの新機能も試されています。

コロナ禍の前は友人や同僚などと(対面で)記憶に残らない他愛のない会話をしていたと思います。ただ、対面で人と会いづらい状況では他愛のない会話は難しい。デジタル上でも他愛のない会話をするためには消えるメッセージモードが必要かと思い、機能の提供を開始しています。

キーワード検索は、まず英語圏で試験的に始めています。これまで検索といえば特定のアカウントやハッシュタグを検索していたと思いますが、その検索方法では見つからないものも当然あります。だからこそ、キーワード検索も必要なのではないかと思いました。

──最後にInstagramの今後の展望も教えてください。

大きな軸は3つあります。ひとつはエンターテインメントです。コンテンツをつくるクリエイターの人たちが進化していくためのサポートをしていきたいと思っています。2つめがコマースです。ショッピングの行動は「発見」が大事なのですが、既存のブランドだけでなく個人のクリエイターの商品も買えるようにしていきたいと思っています。

最後がコネクションです。Instagramの特異性は「コネクトの仕方(繋がり)」だと思っています。自分が一番大事なことに繋がる、自分にとって関心のあるものに繋がる。自分の表現をどう見せて、繋がっていくか。この部分も進化させていきたいです。