Photo:Nora Carol Photography/Getty Images
Photo:Nora Carol Photography/Getty Images

新型コロナウイルスの世界的流行によって、生活様式が大きく変化した2020年。また日本では体調不良によって内閣総理大臣を辞任した安倍晋三氏の後を受けて、菅義偉首相が誕生。菅内閣の発足後から「デジタル庁設置」を目玉政策のひとつとして掲げるなど、あらゆるもののデジタル化が急速に進み始めている。

そんな1年を起業家たちはどう振り返り、そして2021年はどのような年になると考えているのか。DIAMOND SIGNAL編集部は起業家たちにアンケートを実施。その結果を前後編にわけて紹介する。掲載は五十音順(前編の記事はこちら)。

React共同代表 青木穣氏

  • 2020年の振り返り

「Welcome to your new HQ」のメッセージで知られるSlackの買収や、7000億円以上の評価額がついたDiscord、Zoomなど、オンラインで出来ることのユースケースが確実に拡張し、それを誰もが認識して受け入れ始めた年だったと思います。

当然人々の生活習慣を劇的に変化するのは時間がかかりますが、コロナという天災が無理矢理行動様式を変化させたことがユースケースの拡張につながったと考えています。
インターネットを通して技術的に可能になるというのと、生活習慣を変えるほどのインパクトのあるものというのは必ずしもマッチしないため、このような時代だからこそ変化した需要を的確に捉えたサービスが伸びたのかなと思います。

  • 2021年のトレンド予測

コロナ禍で変化した人々の行動様式にマッチした次世代のSNSが生まれてくると思っています。上で述べた、SlackやZoom、Discordなどのサービスはエンタメの空間としては適しているとは言えません。

職場がオフラインからオンラインにシフトするのであれば、遊び場がオフラインからオンラインにシフトすることになると思います。Zoom飲みは廃れていますが、さまざまなアプローチでオンラインの遊び場になりうるプロダクトが多数生まれてくるでしょうし、それを繋げるプラットフォームも生まれてくると思います。

franky代表取締役CEO 赤坂優氏

  • 2020年の振り返り

コロナ禍をきっかけに、生き方・時間の使い方・消費スタイルなど、あらゆる方々のライフスタイル全般が変化したように思います。仕事面ではリモートワークへの切り替えにともなって、ZoomやGoogle Meetなどのビデオ会議プラットフォームが急速に浸透し、“Zoom飲み”などプライベートでの活用も広がりを見せています。

また、リモートワークによって従業員の時間効率が向上したことから、YOUTRUSTなどを通じた「副業」文脈での人材の流動性が高まっています。生活面では、日用品も含めた買い物方法が各種ネットスーパーなどでオンライン化し、Shopify・BASE・STORESといったプラットフォームの盛り上がりにも繋がっているように思います。

特に「食」という点では、外食を避けて「中食」への移行が進み、Uber Eats、出前館、Chompy、Woltなど、デリバリーサービスの盛り上がりが顕著ですね。そして、余暇では国内外旅行を控えなければいけない状況から、屋内でのさまざまな活動でテクノロジーを生かしたプロダクトが生まれ、既存カテゴリを代替する存在となっているように思います。ゲーム全般やNetflix・Prime Videoなどのオンデマンドサービスに加えて、SOELUなどのオンラインフィットネスサービスを通じた運動や、インテリア/アートや家電への関心も高まっています。このようにコロナ禍でライフスタイルが変化し、自宅時間を軸とした日々の新たな豊かさへと繋がっていっているように思います。

  • 2021年のトレンド予測

ひとつ目の質問とその回答内容にも関連してくるのですが、生き方や時間の使い方が変化しているなかで、仕事以外の時間の増加(家事・育児・趣味など)は加速していくだろうと考えています。日常をより豊かに生きること、外ではなく中での消費欲が増していくと思います。そしてwithコロナ時代の文化としてそれらが残っていく流れがありそうだと考えています。

Hotspring代表取締役 有川鴻哉氏

  • 2020年の振り返り

コロナ禍で家にいる時間が伸びたことから、家での過ごし方の拡張を求め、急速にオンラインサービスとの接点が増えた1年でした。Netflixを始めとしたコンテンツ配信サービスや各種ECの躍進は誰もが身近に感じた大きな変化ではないでしょうか。

2010年頃から始まったSNSやメディアなどのオンライン完結サービスの時代がここ数年はオンライン×オフラインの時代に移り変わっていた印象ですが、今年は動画や音声など、再びオンライン完結のサービスがよりリッチなフォーマットで改めて浸透したと感じました。4G以降の大データ容量時代の醍醐味を本当の意味で享受したのではないかと思います。

また、逆説的に人類が改めて「リアルな体験」の価値を見つめ直した1年でもありました。多くの人にとって、リアルでなくては実現できないことの価値が相対的に増幅し、その最たるものが旅行でした。巣ごもり需要の盛り上がりも大きなものでしたが、ステイホームで溜まったストレスの向き先となったのが旅行です。旅行業界に身を置く者として、色々な側面での大きな波を全身で感じ、とにかく刺激的な1年でした。

  • 2021年のトレンド予測

2021年も、引き続きリアルでの体験の価値が増幅し続けます。with・afterコロナの世界で、ウイルスのような目に見えない脅威との共存が一層日常化すると、人類は旅行をはじめとしたリアルな体験、いわゆる「非日常」に癒やしを求めます。癒やしを求めるということは、より強く生きることを望むということであり、「生きようとする」人間の本質が、そういったリアルでの体験へのニーズに色濃く現れてくるのではないかと思います。コロナ収束の早さ次第では近隣国やリゾートへの海外旅行も大きなトレンドになると思います。

メディアの側面での2021年は、あらゆるコンテンツが音声や動画などのリッチなフォーマットによって配信されることで、長文の持つ価値はマスにおいては相対的に下がっています。そこで、シンプルな短文テキスト(「読む」ではなく「見る」だけで理解できる長さの文字列)の持つ価値、渋い言葉で言うところの「言霊」のようなものが密かに重要になっていくのではないかな、と考えています。短文はこれまでキャッチコピーのように一部の人が作るものでしたが、そこに民主化の波が来るのではないかな、と予想しています。

ヤプリ代表取締役CEO 庵原保文氏

  • 2020年の振り返り

コミュニケーションのタッチポイントのデジタル化(アプリ化)が急速に広がった1年でした。例えば弊社の顧客の多くは実店舗を運営していますが、ECシフトを急速に進める必要があり、EC投資がこれまで以上に増加しています。また、会社と社員とのコミュニケーションもデジタル化が進んでおり、例えばペーパーレスの文脈で紙カタログを全面的にアプリに切り替えたり、研修動画や資料をアプリでデジタライズする企業が急速に増えてきている印象です。

弊社の提供するアプリでも、アプリでのコミュニケーションを厚くして会議をなくした会社や、本部と販売スタッフとのコミュニケーション(研修など)を全てアプリに移行した会社などが続出しています。弊社プラットフォーム全体におけるアクティブユーザーは、コロナ前後比で大幅に伸びているため、社会のデジタル化が飛躍的に早まった1年だったのではないかと思います。

  • 2021年のトレンド予測

引き続きコロナは継続しており、DXは最重要課題として日本企業全般で進むと思います。また(エンジニアを抱えない一般企業の)DXを支える手段としてのノーコードもさらに活況になると思っています。従来のウェブ開発、今年注目のEC、さらに弊社のようなアプリ開発、それらサービスを繋ぐAPIエコノミー、そういった「クリエイション」をより活発にさせるノーコードが一層市民権を得る年になるはずです。

もう1つは行政のDX。宮坂副知事のような民間からの存在の影響力がより強くなり、行政DXの推進により民間からの支持を集めると思います。また、その周辺のスタートアップが生まれてくることに期待しています。LayerXような技術力高い組織やリーダーに率いられたチームが躍進するでしょう。

FinT代表取締役CEO 大槻祐依氏

  • 2020年の振り返り

SNSでは、社会情勢を受けた大幅なアップデート がたくさん起こった年だったと思います。コロナウイルスの情報の錯綜や、海外からのBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)の広がりもあったほか、日本ではテラスハウスの出演者がTwitterでの誹謗中傷を理由に自殺するなどのセンセーショナルな話題が多かったように思います。

それを受けてか、Twitterではついにリプライを制限するようにまでにもなりました。若者の間でも、SNS上でのマナーやモラルというものの見直しの必要性を強く意識した1年だったと思います。Instagramでは、オンラインでの購買を促すEC機能やライブ配信の機能を充実させたりと、機能アップデートを通してオンライン基準の生活にかなり寄ってきた印象があります。

正直コロナウイルスほどの大きな社会変化が起きなければ、各種SNSのアップデートもここまで盛り上がることはなかったのではないか、とすら考えています。

  • 2021年のトレンド予測

「SNS×EC」は引き続き期待したいです。情報量が増えてきて、消費者としては数ある商品の中から何を参照して商品を買えば良いか判断しかねる状況になってきています。そんな時に購買の決め手となるのは、インフルエンサーや自身の友達など個人のおすすめや口コミになっていると思います。

現にInstagramでは、投稿から直接買えるような機能がどんどん増えています。専用のタブもできていたり、個人のまとめ機能とショッピング機能がつながっているなど、アップデートを通して購買を増やそうとしているのが伺えます。また、昨今のオンライン化の影響を受けて、ライブ配信も本当によく見るようになりました。今までTVでやっていたようなテレビ通販が、SNSで繰り広げられているイメージです。

例えば、コスメに詳しいインフルエンサーが動画やライブ配信の中で商品を紹介して、ライブ配信中に物が売れていくといった流れです。このスタイルは、オンライン購買が盛んになった2020年だからこそ生まれたのだと思います。そういう意味では、Instagramも含めSNSは全体的にもっとショップ、購買チャンネルとしての機能に近づいていくのではないかと期待しています。

ポジウィル代表取締役 金井芽衣氏

  • 2020年の振り返り

(手前味噌ですが)コーチングというか、カウンセリング領域が加熱した1年だった気がしています。2年半前にそうだんドットミーという単発のキャリア相談サービスをリリースした際には社会的にも「個人が無形サービスにお金を払うわけがない」と言われていましたが、このコロナをきっかけに自分の人生をどうしたいか考える人が増えてきたのかなと思います。

今までであれば売り手市場だしなんとかなるか、と思っていた人たちも「自分の市場価値はあるのか?」とキャリアの層問わず思うようになった気がしています。実際に弊社ユーザーさんも20代・年収400万円以下の方が多かったのですが、コロナを機に30〜40代の方や、年収では最大2000万円くらいの方までがご相談に来るようになりました。どんなにお金を稼いでいても、どんなに大手に所属していても、不安が強いんだなと思いました。

  • 2021年のトレンド予測

情報の透明化が求められる時代になってくると思います。今まで無料で使えてた事は実は自分が商品だったからなんだ、ということが徐々に社会的にも認識されている今、安心して信用できる情報は何なのか、ということを考えている方は多いのではないでしょうか。2020年どこのメディアでも拝見した食べチョクは生産者さんとユーザーを直接繋ぐサービス。どこの誰が作ったか分からないものよりも、直接農家の方から買いたいという想いの現れなのかなと思います。PR案件も増えている中、お金を払ってでも必要な情報を取得したいという方は増えていくはずです。人材も婚活もお金もデジタル化された先にある、ユーザーの生の声が求められているように思います。

PATRA取締役COO 鈴木真彩氏

  • 2020年の振り返り

PATRAも挑戦している“小売のアップデート”という点で、EC領域(とくにSNSコマース)は大きく変わった1年だったのではないかと思います。リアル店舗の臨時休業やリモートワークへの体制変更により自宅で過ごす時間が増え、今までネットショッピングを利用しなかった層も、ECの便利さ・楽しさに触れる機会が増えた人は多いのではないでしょうか。また、リアルでしか展開していなかったショップさんがECでのサブスクリプションを開始するなど、購入の幅も大きく広がったと感じます。

特に休業中の飲食店さんのEC展開には、私もたくさんお世話になりましたし、家での食事も楽しく過ごすことができました。そんなEC体験がアップデートされ増える中、私たちもECサイト・ブランドを運営する側として、魅力的な商品を提供することや品揃えはもちろん「今後も長く選び続けてもらえるショップのあり方」を熟考し、システムやカスタマーサポートなど、お客様が安心してスムーズに購入できるような裏側部分も強みになるよう試行錯誤を重ねた1年でした。来年もあらゆる角度から新しい小売のあり方を考え、新しい挑戦を続けていきたいと思っています。

  • 2021年のトレンド予測

P2C(Person to Consumer)の加速。影響力を持つ個々人がネットショップを持つ事例が多く見られるようになった2020年ですが、来年以降はさらに発売プラットフォームだけでなく生産やCS、ロジスティクスといった裏側のDXがさらに起こるのではないかと感じています。PATRAも仕入れから発売までを一貫してサポートする「OWNERS」というサービスを今年リリースし、PATRAが持つ仕入れやOEM生産背景、発売プラットフォームやロジ、CSまで、ネットショップを始めるまでに必要な仕組みを全て外部のブランドさんに開放しました。

来年以降、小ロット短納期でのOEMの普及や、リモートでの海外買付などを利用することで、物を売りたいと思う人が誰でもすぐに売れる世界により近づくのではないでしょうか。

Kaizen Platform代表取締役 須藤憲司氏

  • 2020年の振り返り

コロナで、非対面非接触でのセールスマーケティングの重要性が物凄い増えています。具体的にいえば、大型のイベントや展示会の中止や延期、飛び込み営業禁止と言う中で、営業資料やパンフレット、カタログなどの動画化やそれらを活用したセールスDXの領域が大きく需要を伸ばしました。

また、最新のiPhone 12シリーズやGoogle Pixel 5など、スマホのカメラの進化によってハイエンドなカメラを使わなくても、高画質高品質な動画の撮影も可能になりました。それを活用したSNSコンテンツなど今後さらに増えていくと想定しています。

動画だけでなく、DXの格差も非常に拡がった1年だと見ていまして、取り組みをいち早くしていた企業とそうじゃない企業の格差が、業績や株価に大きく出た1年だともいえます。これらの結果から本格的なDXに向けての取組は、2021年にさらに加速していくと考えています。特に政府や大企業を中心にDXに向けた、ペーパーレス、脱ハンコ、脱FAX、業務のリモート対応など基礎的な業務ツールのデジタル化が進む事で、DXの取組自体がよりしやすい方向にむいていくと考えています。

  • 2021年のトレンド予測

まず、ひとつ目は5Gの普及およびスマホ通信料金の引き下げです。これによって、今後動画をはじめとするリッチコンテンツの普及に加速がついていくと考えています。

もうひとつ、重要になってくると考えているのが改正個人情報保護法です。これは、今あまり注目されていませんが、スタートアップから大企業のDXまで、非常に重要な法改正だと考えていまして、いかに対応していくか?いかにユーザーの利便性を保ちつつ、データ利活用に関する透明性を担保していくか。非常に重要なポイントになってくると考えています。

Mr. CHEESECAKE代表取締役 田村浩二氏

  • 2020年の振り返り

飲食業界は強制的なゲームチェンジが求められた年になりましたが、その分ECやデリバリーフードの領域は一気に盛り上がりを見せました。4月の時点ではコロナの全貌が把握できておらず、プラスアルファでデリバリーフードに手を出す人もいましたが、今後は本格的なデリバリーフードブランドやD2Cブランドが更に増えていくのではないかと思います。市場が成長していく中で、各ブランドが何を差別化して戦っていくのか。

今までの飲食業界の在り方や構造を根本から覆すようなビジネスも生まれるでしょう。コロナはとても大変な問題ですが、その中でも未来を見据えて戦う人が増える事は日本にとって不幸中の幸いなのかなと思います。今後自動運転やドローン技術が進歩する中で、ロジスティクスをどう巻き込むか、まで検討して商品開発や顧客体験を設計していくことでさらなる盛り上がりを見せるでしょう。

  • 2021年のトレンド予測

フードテック領域。今まではテクノロジー優先なものが多かったですが、2021年以降は職人がよりテックフレンドリーになる必要があるので、幅広いフードテックの可能性が生まれるのではないかと考えています。

そもそも飲食業界にはテクノロジーとは呼ばないような初歩的なシステムでさえ導入されておらず(いまだにFAXを使っている)いくらでも改革発展が可能です。しかしそれを旧態依然とした業界が拒んでいる側面が強いのですが、今回のコロナ禍で当事者たちの意識は大きく変わりました。今後生き抜くために必要なのはおいしさを生み出す技術とそれを広めるための様々なリテラシーです。テクノロジーと共存を始める事でもっとハイテクな技術を導入できたり、新しい可能性を探っていける素地が生まれるはずです。

日本において食はかなり重要なコンテンツなので、世界に向けて戦っていける職人が増えると良いなと思います。

さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏

  • 2020年の振り返り

2020年は、特にデジタルトランスフォーメーションと言うキーワードがよく聞かれた年です。サブスクリプションや、クラウドサービス、シェアリングエコノミーなど、ITをベースにしつつも、ITを使わなければ実現できないものにビジネスの世界が変わってきたと言う印象を持っています。DX系企業の株価もずいぶんと上がりました。

以前は、ネット業界がインターネット上だけでビジネスしていて、受託開発業界が企業のコストダウンのためだけに古いスタイルでシステム開発をしていましたが、最近はリアルなビジネスがIT経由で収入を得るように変化してきました。

今年のGoToトラベルも、オンライン経由の申し込みが大半を占め、クーポン券自体がデジタル化され、ITをベースにして旅行業界がビジネスをするようになったことが印象づけられました。今後も、ITの上でビジネスをする人が増えてくるでしょうし、単なるコストダウンの手段や、インターネット上だけのサービスではなく、リアル社会がITによる変革で、そもそも全く違うビジネスが出てくるものと期待されます。

  • 2021年のトレンド予測

すべてのビジネスは、重層構造になっていて、プラットフォーム上から実際の顧客フロントまで、複数のレイヤーが存在しています。その中で、顧客フロントの部分で言うと、古くからのビジネスがどんどんITを使って変化していくと考えています。

例えば飲食店が、食事をするたびに現金で回収していた収入を、サブスクリプション形式で毎月クレジットカードから引き落としをして、店のロイヤリティを高めていくことでLTV(顧客生涯価値)が高まっていき、中長期にわたる安定した収入を得られる、というようなビジネス形態も出てきています。

プラットフォーム側で言うと、例えばサブスクリプションを支援するサービスや、業務をクラウド側で代替するサービス、電話やチャット等の問い合わせの代行など、顧客が自分のビジネスだけに集中し、それ以外の部分をITやアウトソーシングを活用する、という世界になると思います。以前と違って、顧客がビジネスをするにあたって、持たないといけないものが激減してきて、それを代替するビジネスが来年伸びるんだろうと考えています。

バルクオム代表取締役CEO 野口卓也氏

  • 2020年の振り返り

自分自身がD2C領域に集中した年であったため、その範囲でお答えします。当初から想定していた通り、D2Cブランドが飛躍的に増えた1年でした。スタートアップの数はもちろん、大企業もこぞってDXと同じアナロジーでECシフトを強めています。

(ECセグメントの)上場企業も「D2C」という表現を使うシーンが目立ちました。ある家具のメーカーは非常事態宣言に伴い需要が高騰し、株価もすぐに反応して立ち上がったことが印象深かったです。ECにまつわるすべてをコロナ禍が進化を加速させたと考えて間違いありません。

  • 2021年のトレンド予測

D2Cは引き続きかならず高成長する領域ですので、キャッチアップしておいて間違いありません。グロースハックがかなり型化されてきたため、成功するブランドは増えるでしょうし、えてしてそのようなシチュエーションで現れる常識外れの手法・成果を出すスタートアップが必ずくると思っており、見逃さないようアンテナを張っておきたいですね。

ANDART代表取締役社長 松園詩織氏

  • 2020年の振り返り

旧態依然でイノベーションが起きづらいと言われてきた業界を含む、各領域でのデジタル化が世界中で急速に進んだ異例の1年でした。例えばアート領域において“難しい”と言われていたオンライン流通は全体の30%まで向上しましたが、領域というよりは全般的にいかにスピーディーに順応しチャンスに変える打ち出しをできたか、もしくは元々オンライン注力していたかが優位性を分けたと思います。

また、自身の価値観ごと見直す転機となったり、これまで以上に魅力的な個人やサービス、商品に出会い選択肢になかった新しいものを購入した方も多いのではないでしょうか。そういう意味でこのコマースが圧倒的に盛り上がる中、話題となり伸びているD2Cブランドなどは本質的に良いもの・必要とされるものを提供できているのだなと刺激となりました。

  • 2021年のトレンド予測

2020年のホットなキーワードのひとつにとメタバースがあると思いますが「メタバース×コレクティブアイテム」がより多様化し、一般的に拡がっていくことに期待があります。コレクション性が高くファンも多いスニーカー領域では「AGLET(アグレット)」というデジタル上でスニーカーを所有できるサービスも登場しました。

エンタメ体験やコミュニケーションだけでなく、デジタル上での購買しそのまま楽しむという消費行動がますます自然な感覚で起こり、デジタルとリアル世界の往復ができると面白いし、ANDARTがテーマとするアートとも相性が良いと思います。

X Asia代表取締役CEO 門奈剣平氏

  • 2020年の振り返り

まずは「EC」ですね。やはりコロナ禍においてそもそも外出が減ったこともあり、今まで一般的ではなかった領域でもオンライン化が進んでいるように感じます。中でも「食」は台頭していると思いますね。当社のシェア買いアプリ「カウシェ」上においても勿論ですが、他ECサイトにおいても外食の有名ブランドがお家でお店の味を再現できるセットを販売したり、今まで外食オンリーだった様々なプレイヤーが参入しています。

ただ、その中でもBASEやSTORESいった「スモールビジネス」向けのECが本当に伸びた一年だったと思います。個人の方であっても、アパレルや食料品を販売する実店舗の方々がどんどんオンラインへとシフトしましたし、物産展等の催事の中止の影響を受け、より台頭したのはではないかと思います。

最後に「応援経済」です。コロナ前も盛り上がりを見せていた領域かと思いますが、コロナの未曾有の事態を踏まえ、今まで当たり前だったコミュニケーションが希薄化し、他人との繋がりを感じにくく、精神的に不安を覚える方も多かったかと感じます。そんな中、給付金を寄付する人が出てきたり、誰かを応援することにより自分という存在の立ち位置を再確認する人が多かったのではないでしょうか。ニューノーマルが浸透した結果、”オフラインに代替する買い物体験”が今後ますます台頭していくと思います。

  • 2021年のトレンド予測

引き続き「EC」ではないかと思います。ただ、これは決してポジショントークではなく、真剣に思っています。2020年はコロナの影響もあり、EC化も格段に進んだのではないかと思われる方も多いかと思いますが、現状、日本のEC化率はわずか6%台に過ぎません。びっくりですよね。

まだまだECが社会のインフラとして進化・拡充する余地はありますし、Amazonやアリババの台頭を踏まえても、日本も早く追いつかねばならないという焦燥を感じます。

このことを話すと、そもそも日本とは人口に差がありすぎる、文化的に仕方がないといったことを言い出す方が時たまいらっしゃいますが、日本でもITバブルを期に楽天が国内ECの雄として市場をけん引しています。2020年になった今、楽天市場のような国内ECを牽引するプレイヤーがもう1〜2個出てきてもいいと思いますし、その可能性が大いにあるのではないかと感じています。