Photo:FG Trade/Getty Images

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

そんな2020年、米国ではどのようなコンテンツやサービスが誕生してきたのか──米国のスタートアップやテクノロジーのニュースを記事やポッドキャストで配信する「Off Topic」の宮武徹郎氏と草野美木氏に、2021年以降も続く注目トレンドを聞いた。両氏はベンチャーキャピタルでの勤務経験があり、米国の若者文化に精通するリサーチャーだ。

Z世代クリエイターのブランドが続々と登場──ソフトウェア領域にも参入

──今年、米国で盛り上がったテックトレンドについて教えてください。特にtoC領域ではどのようなトレンドが印象に残っていますか?

宮武:個人的に一番盛り上がりを感じたトレンドはクリエイターエコノミーの爆発的な拡大です。クリエイターエコノミーとは、クリエイターが展開するビジネスや彼らを支援するツールから成る経済圏のことを指します。1990年代中盤以降に生まれたZ世代のクリエイターたちは起業する年齢になり、さまざまなブランドやサービスを立ち上げています。このトレンドは来年以降も継続して盛り上がっていくと思います。

実際、今年はニュースレター配信の「Substack」、コミュニティ構築の「Community」、クラウドファンディングの「Patreon」、会員制SNSの「OnlyFans」などが非常に伸びた年でした。

こうしたツールの誕生によって、個人のクリエイターがP2C(Person to Consumer)ブランドを立ち上げて、さまざまなプラットフォームにコンテンツを配信し、マネタイズまでする動きが非常に活発になりました。

個人のクリエイターが立ち上げたブランドは既存のD2Cブランドを置き換えていく驚異的な存在だと思っています。今だとステッカーやTシャツなどを販売するグッズやアパレル系のブランドが多いのですが、直近ですと飲料系の領域にも参入してきています。例えば、Emma Chamberlain(エマ・チェンバレン)はコーヒーのブランド「Chamberlain Coffee」を立ち上げました。

P2Cブランドは今後、ソフトウェア領域にも続々と参入してくるでしょう。実際、フィンテック領域では、Charli D'Amelio(チャーリー・ダミリオ)がStepというフィンテック企業に投資し、アンバサダーとして参加しています。これからは、ソフトウェア企業もクリエイターを活用しなければならない時代になっていくのだと思います。

直近ですと、ユーチューバーのDavid Dobrik(デビッド・ドブリック)がSNSアプリの「Dispo」を開発して約4億円を調達しました。彼自身はアドバイザーという立場ですが、CEOを置いて会社を運営し、著名なVCから資金を調達しています。

MrBeast(ミスター・ビースト)も「Finger on the App」というゲームを開発し、数百万ものプレイヤーによる同時アクセスを達成しました。彼らはオーディエンスという非常に強い力を持っています。膨大な数のオーディエンスを抱える彼らが今後、どう動いていくのかは要注目です。

先ほどお話したとおり、クリエイターが自分たちのコンテンツを配信するためのプラットフォームが揃い、彼らは起業する年齢になりました。そして彼らの世代はたとえコードが書けなくても、ノーコードやローコードのツールが誕生したことで、さまざまなコンテンツを開発することが可能です。

動画コンテンツ制作ですと、YouTubeではパソコンでの編集が必要でしたが、TikTokを使えばスマートフォンで動画が制作できます。ゲームの開発であれば「Roblox」で完結します。ニュースレター配信ではSubstackを活用できます。

Z世代はネット上での自己表現に抵抗がありません。むしろ、10歳くらいから自らのオンライン上での存在感を意識するようになります。ミレニアル世代は「とりあえずオンライン上でコンテンツを作ろう」という世代でしたが、Z世代はより戦略的に考えています。

2021年は「クリエイター支援」のツールがトレンドに

草野:私も宮武さんと同様に、2020年はクリエイターが最も台頭した年だったと思います。Z世代のクリエイターは戦略を立てて情報発信するのが好きで得意です。今年はクリエイターがサービスやアイテムをリリースするまでの過程やストーリーをコンテンツとして発信するのがトレンドだったかな、と思います。

この流れはK-POPシーンでも起こっています。ミュージックビデオを公開するまでに予告動画やコンセプト動画を配信するなど、公開までの過程を見せることに重きが置かれています。

また、2020年はさまざまな体験の“ゲーム化”が流行した1年でもありました。ファッションブランドのBALENCIAGAは2021年フォールコレクションを独自に制作したゲーム「Afterworld: The Age of Tomorrow」で発表して、話題になりました。

また、ポップカルチャーやアートの祭典である「ComplexCon」は今年、「ComplexLand 2020」としてオンラインでイベント開催しました。バーチャル会場に並ぶフードトラックで料理を注文すると自宅に届くなど、手の込んだバーチャル体験を実現していました。

──クリエイターエコノミーは2021年以降も拡大し続けるとお考えですか。

宮武:2021年以降もクリエイターの数は増え続けると思います。加えて、彼らをサポートするツールも続々と登場してくるのではないでしょうか。

例えば、「Stir」という、クリエイターのお金の管理やコラボレーションを支援するサービスがあります。このようなツールが来年、本格的に流行してくると思います。今年はその皮切りとして、コミュニティ構築のためのツールが誕生してきました。

草野:私もクリエイターを支えるツールは増えると思っています。Substackがコミュニティ機能を用意しているようなので、楽しみにしています。ニュースレターを配信するだけではなくて、購読者のコミュニティを作る機能が追加されるようです。

ゲームのクリエイター向けの「ShotCall」というコミュニティ構築のサービスは、配信者同士のコラボレーションや、視聴者とのコミュニケーションを支援します。2021年はこのような領域の新たなサービスが増えることを期待しています。

また、ライブ配信のためのツールもまだまだ改善の余地があり、伸び代があるのではないかと思います。例えば「Moment House」というサービスはアーティストのチケット販売や配信から、著作権周りも支援します。さまざまな用途に適した配信ツールが今後、続々と誕生してくるのではないでしょうか。