
- 成長の明暗がはっきり分かれた2020年
- ヘルスケア、宇宙、社会インフラが直近のトピックに
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回は2019年に50億円規模の1号ファンドを立ち上げたドリームインキュベータグループのVC・DIMENSION代表取締役の宮宗孝光氏だ(連載一覧はこちら)。
成長の明暗がはっきり分かれた2020年
2020年を振り返って感じるのは大きく3点です。
苦戦と成長の明暗がはっきりと分かれた
「苦戦したスタートアップ」と「堅調な成長を遂げたスタートアップ」の差が、顕著に広がった1年でした。堅調な成長を遂げた先スタートアップの共通項は、ずばり「経営成績を数値で明確に示せたこと」です。
当たり前の話ですが、「経営成績を数値で明確に示せる」というステージになるまでのスタートアップは、投下キャッシュを抑制しつつ、顧客への付加価値が的確に届き、顧客数や売上がきちんと伸びるまで、真摯に時間や経営資源を投下し続ける事が大切です。私共の出資・支援先にもそのことを伝え続けています。
各社の優劣の差がついたのはAIやSaaSの領域
例えば、「AIスタートアップ」という言葉を掲げることは誰でもできますが、それをプロダクトに落とせている先は限られます。ちゃんと実装できているスタートアップは、ナショナルクライアントを相手にしても、顧客数や業績をしっかり伸ばしている印象です。
産業革新投資機構の大型投資
10月以降、産業革新投資機構(JIC)が1200億円のVCファンドを開始し、JIC経由で数十億円単位という巨額の資金調達を実現しているスタートアップが多数現れました。JICによる数十億円規模での出資は、来年以降も続くと考えています。巨額の増資により、大きな経営資源を手に入れるスタートアップが増えると思っています。
ヘルスケア、宇宙、社会インフラが直近のトピックに
2021年以降に盛り上がりが予想される領域は、国内で2つあると認識しています。
1つめは、これまでは国や大企業やサービスや商品を提供していた領域です。具体的にはヘルスケアと宇宙。規制緩和や提供するサービス・商品の進化により、新たに民間市場が形成されていくと考えています 付き合いのある顧客候補やプレーヤーとのやり取りから、そうした潮流を肌で感じています。
2つめは、社会インフラの領域です。例えば昭和に整備された道路や橋、都市のインフラは経年利用により修繕や入れ替えが必要になりつつあります。しかも生活に直結するため、必ず対応が求められます。市場規模も橋の点検・補修だけでも数十兆円と大きいので、自治体などと連携して事業を進められるスタートアップは大きく成長していくと思っています。
また長期トレンドも大きく2つ想定されます。
1つめは、一度経営から離れた人が、MBOを行って再度スタートアップとして事業にトライする傾向が増えていくことが考えられます。アメリカでは、大企業やスタートアップから省庁、投資家からスタートアップ経営など「業態またぎの人材の還流」が進んでおり、日本でもそうした人材還流が長期的にはどんどん増えていくはずです。
2つめは、「SDGs」です。SDGsに即した投資や、SDGs関連スタートアップが増加すると考えています。3年ほど前から、大きなキャッシュを持っている機関投資家がSGDsの視点での投資を世界的に増やしており、近年は「SDGsに即しているか否か」で投資判断が変わる傾向すら感じています。大きなキャッシュが集まる所でスタートアップが増えるのは、ある意味自然なことだと感じています。