
- コロナ自粛で風向きが変わったエンターテインメント領域
- デバイスの発展にともなうXR領域のテクノロジーの進歩に期待
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はワシントン大学在学中からYouTuberとして活躍し、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルiFundのジェネラルパートナーとしても活動する明神洸次郎氏だ(連載一覧はこちら)。
コロナ自粛で風向きが変わったエンターテインメント領域
2020年2月、日本初のインフルエンサーによる独立系シードVCとしてiFundを設立しました。LP(リミテッドパートナー:ファンドの出資者)に多くのYouTuberを迎え、これまでに約20社に出資し、業界にインパクトを与えられたのではないかと思います。これまでのエンジェル投資の経験を活かして、今後もスタートアップ業界以外からも、より多くの人を巻き込んだファンド運営にチャレンジしていきます。
2020年はYouTuberとして活動する中で、風向きの変化を感じた1年でした。
自粛期間が続く中で、さまざまな領域の「クリエーター」はその労働集約的な働き方に気づかされ、新たなビジネスモデルを模索するようになりました。KPOPアイドルのBTSが所属するビッグヒットエンターテインメントや中国発のアートトイブランドのPOP MART(泡泡瑪特)の上場など、ヒットIPを持つことで市場から高く評価されたのが印象的でした。
iFundもIP領域の企業、複数社に投資しました。キャラクターを生み出すアダビトなどは個人に依存しないスケーラビリティのあるエンタメの生産を可能にし、仮想空間などグローバルな成長を期待できます。子ども向けゲームプラットフォームRobloxのニューヨーク証券取引所上場など、デジタルネイティブ世代が仮想空間上に新たな人格を持ち始めた近年、日本発のIPが世界に認められることを期待しています。
またeスポーツ領域にも注目してきました。CYLOOKへの出資を機に、同社が運営する「REJECT」の選手についても、その勢いを肌で感じました。何者でもなかった一個人が多くの人々を魅了できるという点で、6年ほど前のYouTube黎明期の雰囲気がします。観客のみならず選手さえも場所を問わずにプレーできるため、スポーツ界のニューノーマルになるでしょう。その他にもインスタントプレイゲームを提供するPlaycoの大型調達など、グローバルにチャレンジする企業が増えており、ゲーム産業の発展を感じています。
生活様式が一変し、人々の当たり前が変わった2020年にVCを始められたことは大変チャレンジングで楽しいものでした。引き続き支援先の皆様に伴走し、Game Changeを起こしていきます。
デバイスの発展にともなうXR領域のテクノロジーの進歩に期待
2021年も引き続きテクノロジードリブンな領域の盛り上がりを予想しています。2020年はAIやデータ×社会実装の企業が株式市場を賑わせた印象です。iFund支援先のアイディオットも自社独自のAI技術やデータを活用し、ステークホルダーの課題に寄り添ったソリューション提供を行っています。その他、チャレンジャーバンクなどのFintechをはじめ、消費者の生活を豊かにするテック企業へ積極的に投資していきます。
またAR/VR/MRなどXR領域のデバイスの発展にともない、その領域での広義の意味でのインフラにも注目しています。今後仮想空間での滞在時間が延びていく中で、ユーザーのストレスを減らし自由度を上げるテクノロジーの進歩や、世界観の設計に大きな期待を抱いています。
長期的に注目する市場は「ベッティング」です。サイバーエージェントの調査では日本のスポーツベッティング市場は最大7兆円と推計されました。ファンタジースポーツ、eスポーツなどと並び、海外事例はあるものの日本では未成熟な当市場は、日本の公営競技文化とうまくなじみ、成長していくと予想しています。ユーザーが課金することにより既存のコンテンツをより楽しめる仕組みはその他の領域でも応用でき、海外事例を参考に周辺サービスが出てくるように思います。
「芸能人のYouTube参入」、「YouTuberのファンド設立」など、これまで関わることのなかった複数の領域が滑らかに繋がりはじめ、この動きはこれから数年でさらに加速していきます。その中心に立ち、新たな産業の誕生に今後も関わっていきたく思います。