• オフラインからオンラインへの流れで地方にもチャンス
  • 規制緩和や働き方革命に引き続き注目、SNSの変化も

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回は福岡と東京の二拠点で投資を行うベンチャーキャピタル、F Veunters代表パートナーの両角将太氏だ(連載一覧はこちら)。

オフラインからオンラインへの流れで地方にもチャンス

2020年は、本当に予測不能な年でしたね。2019年まではオフラインのイベントで起業家のみなさんと出会ったり、投資家に投資先を紹介するのが普通でしたが、そうはいかなくなり、日本だけでなく世界中のスタートアップシーンが様変わりしました。

定期的にスタートアップイベントを主催する我々としても、参加者同士の交流の設計が難しかったり、参加者の熱量を高めにくかったり、まだオンラインイベントの“正解”が出てきていません。また、逆に、オンラインになることにより、地域関係なくコンテンツを届けられるようになりました。東京や福岡以外の地域からも投資相談が増えました。地域格差がなくなり、地方で事業を立ち上げたスタートアップの方々にとっては、よりチャンスが広がった1年だったと思います。

また、コロナによって、働き方が大きく変わった1年とも言えます。在宅勤務が普通になり、オンラインツールの利用が一般化したのも我々の業界では追い風です。また、さまざまな人の生活が不安定になったことや柔軟な働き方の拡大により、タイミーのようなギグワークなどが急速に拡大してきたという所感があります。また、副業などの働き方需要も高まり、YOUTRUSTシューマツワーカーのようなサービスも利用拡大していました。

今年はDXの波が来たと同時に、ノーコードサービスの波も急拡大し、 開発のハードルが下がり、インターネットサービスの発展可能性がさらに広がった1年でした。海外では、GlideやAdaloなどが主流になっていますが、AppifyやNapps Technologiesの「Magic Instructions」のような国産サービスも新たに複数立ち上がりました。これからサービス開発する創業期の起業家にとっても、短期間で低コストでプロダクトの仮説検証ができるようになりました。今後は、サービス・アプリ開発のさらなる民主化を期待しています。

規制緩和や働き方革命に引き続き注目、SNSの変化も

電子行政

感染症対策を意識した行動変容によるDXへの意識の高まりは続くと考え、2021年以降も引き続きDX関連のサービスには注目しています。政府側でもDX推進が進んでおり、行政手続きのデジタル化が進んできています。私の住んでいる福岡市でも、LINEと連携したデジタル行政のあり方を模索しています。マイナンバーカードの普及により、税金や保険の商慣習のあり方も変わっていくと考えられるので、eKYC、電子署名、セキュリティ等のサービス需要はより高まると考えています。

また、その延長線上で、行政のスマートシティ関連の取り組みにも熱が入り始めており、これまでは岩盤規制により、起こし得なかったイノベーションを起こせる可能性が高まっています。政府や福岡市とのコミュニケーションを重ね、規制緩和の実現に向け、移動の利便性を高めようとしているmobby ride、福岡市からスタートし、行政や地域住民とも密接に連携しながら東京や名古屋にも他地域展開を始めているCharichariなどのマイクロモビリティ等のスタートアップなどの今後にも注目です。

新たなMCN

これまでYouTubeやInstagramなどから数々のインフルエンサーが生まれてきましたが、今後、新しい生活様式に合わせ、在宅時間が増え、スマートスピーカーなどで聴くようなコンテンツの生成が見込まれ、新たなインフルエンサーも生まれてくると想像します。日本ではアメリカほどPodcastは発達していませんが、stand.fmVoicyのような個人の音声を生かす配信プラットフォームや、少しジャンルはそれますが、声優などを活用したVTuberなども含め、日本は独自の発展を遂げる気がしています。

さらに、彼ら音声を活かしたインフルエンサーを束ねるMCN(マルチチャンネルネットワーク)も生まれてくると想像しています。TikTokのMCNも徐々に生まれてきており、新興プラットフォームが勃興するたびに、新たなスタータレントが生まれ、新しくMCNが出てくるのが面白い流れです。

続・働き方革命

引き続き、新しい働き方のトレンドには注目しています。ギグワークの領域では、弊社支援先のタイミーが独走していますが、続々と大手も参入し、競争が激化しています。また、ギグワーク配達員の増加によって、物流インフラとしても機能し、デリバリーサービスの定着の後押しにもなっていきそうです。

一方、副業に関しても同じく、需要が高まっていくと考えられますが、オフィスに集約しない形での働き方が普及すると、そもそも採用時の評価も難しいため、こちらも支援先ですが、副業・業務委託向けリファラルチェックのParameのように、それを補完するサービスが定着していくと思っています。

新たな販売チャネル

これまではShopifyを通して販売を行うD2Cブランドが多かったと思いますが、Instagramのショップ機能により、InstagramがD2Cスタートアップの主要な販売チャネルになると感じています。コミュニティやソーシャル性を重視するD2C企業にとっては、タイムラインで商品を見つけると同時に購入に結びつくような導線設計との相性がよく、さらなる販売促進が期待できそうです。今後は、単なるマーケティング施策を打っていくよりも、ユーザーが求めるコンテンツニーズを読み取り、ユーザーを魅了する投稿を心がける必要がありますし、ブランドのストーリー性が大事になって来ます。

個人的には、フォロワーを熱中させる投稿によりファンを獲得していき、データ分析を駆使し、ユーザーの嗜好に対する深い理解をもとに、開発する自社キャラIPを競争力の源泉としていく、Netflixのような戦い方をするtretoyなどに注目しています。

新たなSNS

Z世代にとってFacebookはもはや古いものになりつつあり、新たなSNSが求められています。家にいる時間は長いが、対面で会えず、友達といる時間が極端に短くなってしまっているので、その寂しさを満たすサービスが現れてくると思っています。離れていても同じ場所にいるかのようにコミュニケーションができる、音声での常時接続のニーズが高くなっていくのではと想像しており、音声版Twitterのようなサービスが求められていると感じています。位置情報の常時接続でZ世代に人気を博しているZenlyのように、常時接続はキーワードになってくるのではないかと感じています。

また、友達との交流の仕方も、これまでのように対面で会って遊ぶというよりも、Fortniteなどのオンラインゲーム自体がSNS化していく流れが加速し、ゲーム内でコミュニティが創出されてきています。その中でのコミュニケーション手段としてボイスチャットアプリやマッチングアプリなどの発展が考えられるな、と考えています。