
- Eコマースとバーチャルエンターテイメントに盛り上がり
- 2021年はキャッシュレス決済の「次」の動きに注目
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はXTech Ventures 代表パートナーの手嶋浩己氏だ(連載一覧はこちら)。
Eコマースとバーチャルエンターテイメントに盛り上がり
VCとしての表面的な意味での生産性が“爆上がり”した1年だったと思います。実はワークスタイルが古かった私たちにもビデオ会議が強制導入されました。その結果、ポートフォリオが増えると悩まされがちな定例会議と定例会議の間の移動などの時間がほぼ皆無になり、各オフィスロケーションを気にせず予定を入れられるようになりました。
また、投資先と「ちょっとオンラインで話そうか」といった小まめなやりとりも増えましたし、新しい投資依頼に関しても、「日程調整して10日後にミーティング」ということではなく、「明朝1時間オンラインミーティングでどうですか」というようなやりとりになりました。オンラインイベントなども開催しやすくなりました。この「表面的な生産性の向上」を、本質的な生産性向上に今後は繋げていきたいと思います。
2020年に盛り上がった領域は、Eコマースとバーチャルエンターテイメントです。
私たちは1号ファンド組成直後の2018年から2019年頭にかけて、いわゆる「サブスクリプション型D2C」と言われる会社のシードアーリー期に連続的に出資しましたが、SpartyのMEDULLA、トリコのFUJIMI、ベースフードのBASE BREAD、など、爆発的に成長した1年となりました。その他にも、新しいECの形を実現している会社、例えば家具を中心としたサブスクECを展開するsubsclife、スニーカーやアパレルなどのモノを株式のように売買するモノカブ、なども同様の成長曲線を描いています。各社、そのトラクションをもとに資金調達もスムーズに実行していきました。
バーチャルエンターテイメントの領域では、オフラインエンターテイメントのオンライン化が進みました。創業時は少し“イロモノ”なスタートアップとも見られていたクラスターがIPを他社サービスに登場させることの少ないポケモンのオンラインイベントを開催するなど、急成長しました。
同社はVRデバイスだけでなく、スマホアプリにも体験を拡張し、今後は日本版ROBLOX的な存在を目指し、野心的な計画を立てています。ABEMAのPPV事業(音楽ライブや格闘技コンテンツのDX)やミクシィが推進する競馬や競輪等のオンラインサービスを見ていても、今後長期にわたって大きく成長していく市場のタネが生み出されているような感じを受けます。
2021年はキャッシュレス決済の「次」の動きに注目
ZホールディングスとLINEの経営統合がいよいよ実現し、PayPayとLINE Payを核にした「キャッシュレス決済の次の展開」の社会実装が進んでいくのかなと考えています。
PayPayのボーナス運用も170万人のユーザーが運用中と表示されています。先日メルペイとスタートアップのFundsが組み、メルペイユーザーへの事実上の貸金の原資をFundsで個人投資家から集めるという取り組みをしましたが、それも新しい流れを示唆していたと思います。
PayPay、LINE Pay、メルペイ、といった会社が決済会社から総合的な金融会社となり、既存の金融機関から機能を奪うとともに、新しい機能を生み出し、役割を果たして行くと思います。周辺に新しい金融サービスや事業を生み出す機会も生まれていくと思います。ウェルスナビも上場し1000億円以上の市場価値となるなど市民権を得ている中で、個人の預貯金が現役世代から少しずつ少しずつ、メガバンクの銀行口座からこれら新しい金融機関の口座へ移っていくのかなと思っています。
広告業界や芸能、プロスポーツなどをまたがった、キャッシュ創出力と影響力の源泉の変化による、新しいコンテンツやエンターテイメントの創造にも注目しています。米国では21年2月に人気Youtuberとフロイド・メイウェザーのボクシングマッチがPPV(ペイパービュー)で企画されています。
従来だと成立しなかった試合ですが、PPVでの収益モデルだと「売る力のあるタレント」に主導権が移行するため成立した試合であり、そのために生み出されたコンテンツといえます。旧来の価値観だと眉をひそめてしまうような状況も生み出されることもあると思いますが、このダイナミズムが新しいコンテンツやエンテーテイメントの創出にまで繋がっていくことを期待しています。
その流れとともに、日本でもABEMAを中心に、サブスク課金、投げ銭、という課金モデルに加えて、PPVという事業モデルがエンターテイメントで根付いていく1年になると思います。ライブ体験を売りにした刺激的なオンラインコンテンツがたくさん企画されていくと思います。オンラインで薄く広くベース収益を獲得できれば、オフラインでは収益を期待しない実験的なエンターテイメントがたくさん生み出されるなど好循環に入ります。